映画レビュー0733 『ベツレヘム 哀しみの凶弾』

今回もネトフリ終了直前ということで、ちょっと社会派っぽいこちらの映画をチョイス。

なお、絵が下手すぎて笑顔で前かがみのお兄ちゃんっぽいイラストになっていますが、実際はもっと切羽詰まった感じのジャケットなので一応お断りしておきます。

ベツレヘム 哀しみの凶弾

Bethlehem
監督
ユバール・アドラー
脚本
ユバール・アドラー
アリ・ワケド
出演
ツァヒ・ハレビ
シャディ・マーリ
ヒサーム・オマリ
音楽
イシャイ・ハダー
公開
2013年9月26日 イスラエル
上映時間
99分
製作国
イスラエル・ドイツ・ベルギー
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

ベツレヘム 哀しみの凶弾

イスラエル諜報機関のエージェント・ラジは、イスラム過激派幹部・イブラヒムの弟の少年、サンフールと長い時間をかけて親交を結び、情報屋として利用していた。サンフールは直接過激派との関係はないと考えていたラジだったが、ある日彼が資金運びの役割を担っているという情報が入り、彼を利用してイブラヒムを始末しようとする上層部の方針に反発して…。

リアルなテロとの戦い。

7.0

パレスチナで起こっていることを「内部から」描いた物語という感じでしょうか。

そもそもこの辺の事情について詳しくもないので、説明的にかなり間違っている可能性もあることをお含みいただいてですね、以下ご説明。

主人公のラジはイスラエル諜報機関の諜報員。ってことはいわゆるモサドですかね。

モサドって言うともうゴルゴ13のイメージからかなりのストロングスタイルなスパイを想像しちゃうんですが、時代的なものもあるんでしょうがラジは意外と普通の諜報員という感じ。割とイケメン。

その彼のターゲットはあるイスラム過激派組織のボス…だったと思いますが、実態はあの有名な過激派組織・ハマスの下部組織みたいなものらしいので、まあ会社で言えば支社長的なポジションと言えばいいでしょうか。そんな男、イブラヒムを狙っています。

彼はイブラヒムの弟で、(多分)17歳の少年・サンフールと長年親交を重ねて兄貴分的な立場として慕われるまでになっていて、その立場を利用しながらイブラヒムの情報を引き出している、と。

イブラヒムは今は雲隠れ中でまったく所在がわからないにも関わらずテロを決行したりしているため、苦汁をなめさせられているモサドとしては早く彼を捕まえたい。おそらくはデッド・オア・アライブってやつですね。生死問わず。

そんな中、「テロ組織とは直接関係がない」と思っていたサンフールが実は兄から依頼を受けて資金運びを担っているらしい…という情報を聞きつけたモサドは、彼を囮にしてイブラヒムを捕らえようと画策します。が、サンフールに情があるラジは「サンフールを犠牲にしてでも」という作戦を決行させたくない。それ故にサンフールをその作戦から外れるように策を弄するが…というお話。

まずご想像の通り地味ではあります。

中東のリアルな内情を通して「テロリストと諜報機関の現実的な戦い」を描いている映画で、まー遊びがない。笑いどころゼロです。気持ちが良いほど娯楽性を排しています。

それ故に正直退屈だったり眠くなったりっていうのはあったんですが、ただその分やっぱり綺麗事ではない生々しい戦いの現場を描くという意味ではものすごく説得力を持った映画だと思います。

なので簡単に感想を言ってしまえば、「面白いとは言わないけどリアルだし考えさせれる」系の映画という感じでしょうか。人にオススメするほどではないけど、興味があるのであれば観て欲しいというような感じ。

やはりアメリカ他西欧諸国の描く「テロとの戦い」は、当然ながら外からやってきて介入する話がメインになるわけです。「ゼロ・ダーク・サーティ」なんてその最たるものでしょう。

対してこの映画はまさに内部から、現地の目線で描いた「テロとの戦い」なので、登場人物たちの距離感がまったく違います。

テロリストと政府要職のおっさんも顔見知りで、お互い腹を探り合いながら力を削ごうとする「顔の見える戦い」というのが…今までに観たことのない感じで新鮮でしたね。

わかりきったことではありますが、外から来て倒すのであれば情なんてものは無いわけですよ。倒せば終わりだし、倒すために戦うしで。そこに迷いなんてありません。

が、この映画のような「顔の見える範囲での戦い」となると、やはりそこに情や迷いという部分が入ってくるんですよね。このアナログというか湿度を感じる感情というか…そういうものが見える戦いというのは、やはり二項対立とは違う、もっと生々しいものだなというのは感じました。

その迷いを最も大きく体現するキャラクターがテロリストの弟であり、モサドのラジとも親しいサンフールなのかなと。

サンフールは劇中のセリフから察するにおそらく17歳で、働きに出てはいるものの長続きせずという…普通の暮らしを望まれているもののまだ社会に出きれていない、宙ぶらりんのような位置にいる少年です。

自分自身も特にテロリズムに傾倒したりもなければその反対側にも位置しておらず、言ってみれば日本にいる普通の少年とあんまり変わらない、自分の願う未来も見えていない状況。ということは、状況次第でどっちにでも傾く可能性があるわけです。

この映画での彼は、愛する兄と世話になっているラジの間で揺れ動く形になるんですが、最終的にどっちを選ぶにせよ「良くない未来しか見えない」という状況がなんとも観ていてやるせない気持ちになりました。

兄の方向に進むにしても、テロリストとしての大儀だとか理念みたいなものは無く単純に兄に対する愛情のみだろうし、もちろんそんな兄を愛しているためにテロリストと戦うモサド側につく価値観も無いし、まだ価値観が定まらない少年であるが故に価値観を持った大人たちに利用されてしまうという…その結果どうなるのか、がラストに描かれるわけですが、これがまた非常に考えさせれるし切ないんですよね…。

テロリスト内部や諜報機関内部のアレコレも描かれますが、あくまでメインはこのサンフールの立ち位置と行動、そしてそれに意志を乗せて操ろうとする大人たち…という構図でしょう。それだけにまた「少年」という若さが重くのしかかってくるお話でもありました。

生まれる国が違えばだいぶ違う人生を歩めただろうに、と思うと…やっぱりちょっとやるせない。

最初に書いた通り、非常に地味な映画ではあるんですが、良い映画でもあると思います。

哀しみのネタバレ

これはねー、本当に邦題が良くないですよね。「哀しみの凶弾」ってどう考えたってサンフールがラジを撃つとしか思えないじゃないですか。もう終盤に向かうに連れて「あー、これ撃っちゃうのかー。あー」って結末わかって進む感じにしてくれちゃう最悪の邦題でしたね…。

本レビューと被りますが、ちょっと詳しく書きます。

サンフールはモサドによって兄が殺され、本人が意識せずとも「兄の復讐(=職業テロリストになる)かテロとは距離を置いて一般市民として生きる(=ラジに守ってもらう)か」の選択を迫られる、というのが終盤の展開だと思いますが、これがどっちに転がっても絶対良い未来が待ってないっていうのがね…辛いですよね…。

テロリストになってしまえば当然国からは狙われるようになるし、ラジ側につけば今度はテロリストから追われるだろうし。この「環境として詰んでいる」というのは非常に考えさせられました。

パレスチナに生まれた時点でこういう人生を歩まざるを得ないという…ある意味で生まれながらにハンデのようなものを背負わされるっていうのが…やっぱりなんだかんだ平和な日本に生まれた人間としては考えちゃいますね…。

結局サンフールはラストにああいう決断をした以上組織からも狙われるわけで、「帰りたくなかった」テロリストの元に行かざるを得ないという希望のなさも辛い。

作り物ではありますが、おそらく世界にはこういう話がたくさんあるんでしょうね…。

このシーンがイイ!

やっぱりラストシーンかなぁ…。演技の良さも相まって、しみじみと見つめるシーンになりました。

ココが○

間違いなくアメリカその他欧米諸国には作れない映画だと思います。リアリティの部分で。

かと言って作りが甘い感じもなく、すごく丁寧に真摯にしっかり作っている映画なので、地味とは言え安心して観られますね。思ったより洗練された作りというか。

それと、もうすごく単純な話なんですが「少年と言えど日常的に銃を所持している」というのがもう…日本との違いに愕然とせざるを得ません。しかも拳銃ではなくてアサルトライフルですからね。それを持っているのが珍しくない、という時点で生まれた地の重みを感じます。

ついカッとなって撃っちゃう、みたいなことがないのかハラハラもしましたが、おそらくは「いつ攻撃に合っても応戦できるように」とか「自衛・威嚇のために」持ち歩くのが普通なんでしょうね…。

それだけ過酷な環境に生きているというのが伝わる時点でもう物語に対する説得力が段違いだと思います。

ココが×

あんまり言及したくない部分もあるんですが、邦題が良くないですね。蛇足とはまさにこのこと。

あとは地味な点、でしょうか。若干寝不足気味だったとは言え、起床直後に観たのに結構眠くなりました。

MVA

ラジ役の人もカッコイイし良かったんですが、やっぱりラストの演技でこの人かな〜。

シャディ・マーリ(サンフール役)

主人公の少年。

彼は役者だけにこんなに厳しい環境にいるわけではないと思いますが、やっぱりある程度は過酷な状況で育ってきたんですかね…。

その辺の経験が反映された演技だったのか…ちょっと気になります。

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