映画レビュー0360 『だれもがクジラを愛してる。』

公開当時、王様のブランチでたまたま見かけて気になっていた映画。どうでもいいことですが、DVDのメニューその他がかなり前時代的でした。

だれもがクジラを愛してる。

Big Miracle
監督
脚本
ジャック・アミエル
マイケル・ベグラー
原作
『Freeing the Whales: How the Media Created the World’s Greatest Non-Event』
トム・ローズ
音楽
クリフ・エデルマン
公開
2012年2月3日 アメリカ
上映時間
107分
製作国
アメリカ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(DVD・TV)

だれもがクジラを愛してる。

アラスカで取材をしていたアダムは、ある日偶然、3頭のクジラが小さな穴から先に行けず、海に閉じ込められていることを知る。このことをテレビで放送すると、かつての恋人でグリーンピースのレイチェルが反応、クジラを助けるべくアラスカまでやってくる。日に日に世間の注目が高まっていく中、クジラを救おうとする人々、捕獲して食料にしようと考えている先住民、自社のイメージアップのために利用しようとする石油会社等、いろんな人たちの思惑を尻目に、果たしてクジラは助かるのか。

話としては面白いけど、当たり障りの無い内容に不満も。

6.0

実話を元にした映画で、実際当時は結構話題になっていたようですが、僕は記憶にはありませんでした。

さて、まずはちょっと補足。

ご存知の方も多いと思いますが、クジラというのは、海に暮らしていながら呼吸が必要な動物のため、一定期間で海面に出て来られない状況では生きられないことになります。この映画のクジラたちのシチュエーションとしては、近くにあるのは小さい穴だけ、それ以外に海面に出られる場所は無く、身動きが取れなくなった状態です。

何度も氷を割ろうとしたんでしょう、クジラたちの頭は傷だらけで、まるでワンピースに出てくるラブーンのようで泣けます。

そんな彼らの現状を取材、テレビで放送したことをきっかけに、いろんな人たちがクジラを助けようと策をめぐらせ、世間を巻き込んでの救出劇がどうなるのか…というお話なわけですが、単純に「クジラ助けようぜ!」だけの話ではなく、クジラを崇拝し、かつ彼らを食べることで生活している先住民・イヌピアックの存在や、アラスカで石油を採掘している会社のPRだったり、政治利用しようと企むホワイトハウスだったり、自分のキャリアアップにつなげたいテレビリポーターだったり、いろんな思惑が絡んでくるのがポイント。

そんな舞台の中心にいるのが、環境保護団体グリーンピースの活動家・レイチェル。彼女は劇中最も純粋にクジラを救いたいと考えている人物ではありますが、やはり「グリーンピース」というバックボーンを持っているだけあって、行き過ぎていると見えるほど環境保護に熱心な部分も描かれていて、そのために他の人物と衝突することもしばしば。

グリーンピースとクジラというと、やはり日本人としてはいろいろ思わざるを得ない面がありますが、彼女の人物像も「ただクジラを救いたいと願う善人」ではない、やっぱりちょっとクセのある人物像になっているのはリアリティがありました。

ただ、そうしたグリーンピースやら政治やら企業やら先住民やら「いろんな思惑」が描かれてはいるんですが、あまりそちらを深堀りすることなく、結果的には「みんなで協力して救おうぜイエー!」といかにもなアメリカンドラマに仕上がっていたのはやや不満。この方が大衆受けはするし間違ってないとは思いますが、個人的にはもっとそれぞれの問題や価値観を見たかったし、どちらかと言うともっと社会派映画っぽい方向に持って行って欲しかったなぁ、と。

そうなるときっと散漫になっちゃうんですけどね。これが映画としてうまくまとめてるのは認めます。実際にあった話なので、ムリに作ることもできないでしょうし。

でも、「たった3頭のクジラを救うために大騒ぎ」している裏で、いろいろと犠牲になっているものもあると思っちゃったんですよね。これは日本人として「捕鯨」というものを若干でも考えたことがある経験上、かもしれませんが。

なので、(特に序盤は)感情的には先住民の人たちに一番近いものを感じてはいました。窮地に陥っていないクジラを何頭取ろうが何も言わない人たちが、たまたまピンチのクジラを見つけたら大騒ぎ、っていうのはどうなんだよ、と。まあ「それが大衆だ」っていうのもよーーーーくわかるんですが。

ジャーナリストの動きについても若干描かれていましたが、ジャーナリズム論好きとしてはこの部分ももっとエグい部分が見たかったし、切り取る面、深堀りする角度によっては全然違った内容になりそうで結構面白い逸話なだけに、綺麗に大衆向けにまとめちゃったのがひねくれ者としては残念でした。

本当に話としては面白かったし、売上を考えればこういう話に仕上げるのが最善なのもわかるんですが、僕としてはこれだとあくまで「当時のワイドショーの拡大版」でしかない気がして、もう少し、踏み込んだ何かが観たかったな、と。

でも本当に、これはおそらくひねくれ者の感想でしか無いので、普通の感性を持った善人であれば普通に楽しめるんだろうと思います。家族で観るといいかもしれないですね。優しい心を持つ子が育ちそうです。

とかいって、これが「だれもがイヌを愛してる。」だったら絶対号泣してるんですけどね…。クジラ、っていうのがまたちょっとセンシティブな題材かな、と。特に日本人には。

まあ、若い人には関係ないと思いますが。僕ぐらいの年代でも捕鯨ってあんまり縁がないですからね。

このシーンがイイ!

これはもう、エンディング。

当時の映像と劇中の映像を同時に見せてくれるんですが、「おおー、これも本当にあった話なんだ!」とびっくりしたり。結構事実に忠実な映画なんだろうな、と思わせてくれます。こういう演出はいいですよね。信ぴょう性も高まるし。

ココが○

揉め過ぎない程度に葛藤も描きつつ、クジラを助けるんだ、っていうストーリーはわかりやすいし、共感できる面も多いと思います。時間的にも長すぎず程々で、うまくまとまった映画ですね。

ココが×

個人的には上に書いたように、もっと社会派的な切り口が観たかったんですが、これはもう本当に個人の好みの問題なので、フラットに眺めると特に不満点は無い映画のような気もします。多分、誰が観ても「つまんなかった」ってあっさり片付けるようなレベルではないと思いますよ。

MVA

実は今回は「この人!」っていうのが無くて迷ったんですが、いろいろ考えるとこの人かな、と。

ドリュー・バリモア(レイチェル・クレイマー役)

グリーンピースの活動家、っていうクセのある役どころにこの人をあてる、っていうのがいいですよね。

普通の綺麗なねーちゃんあてがっても全然面白くないですが、ドリュー・バリモアみたいなバックボーンのある人を使う、っていうのは物語に厚みを加えてくれた気がします。

演技としてものすごく良かった、っていうわけでもないんですが、ある意味ではそれは自然だったとも言えるし、やっぱりほんのりと嫌なやつ感もあるのが良かったんですよねぇ。

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