映画レビュー1072 『コロニア』

例によってネトフリ終了間際シリーズです。もうそれ以上書くことがありません。

コロニア

Colonia
監督

フローリアン・ガレンベルガー

脚本

トルステン・ヴェンツェル
フローリアン・ガレンベルガー

出演

エマ・ワトソン
ダニエル・ブリュール
ミカエル・ニクヴィスト
リチェンダ・ケアリー
ヴィッキー・クリープス

音楽

アンドレ・ジェジュク
フェルナンド・ベラスケス

公開

2016年2月18日 ドイツ

上映時間

110分

製作国

ドイツ・ルクセンブルク・フランス・イギリス

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

コロニア

虚実織り交ぜ巧みにチリの暗部を描く社会派脱出劇。

8.5
恋人が囚われたカルト集団施設「コロニア・ディグニダ」に潜入するCA
  • 活動家の恋人が囚われた“脱出不可能”な組織に潜入する女性
  • 過酷な生活を乗り越えながら、彼を見つけ脱出できるのか
  • 実際に存在した場所・組織を元に作られた半創作半事実
  • 最後まで緊張感たっぷりで飽きさせない

あらすじ

これはなかなか想像以上に良作で、思わぬ拾い物といった感じ。ただの創作ではなく、現実にあったものをベースに描いている社会性がとても良いですね。

1973年、ルフトハンザ航空のCAさんであるレナ(エマ・ワトソン)はフライトでチリにやってきまして、現地にいる恋人で活動家のダニエル(ダニエル・ブリュール)の元に駆けつけイチャイチャ休暇を楽しむぞ、ってなもんですよ。

しかし彼女が滞在中にチリでは軍事クーデターが発生し、その様を隠れて撮影していたダニエルが捕まってしまいます。

彼は当然のように激しい拷問を受け、こりゃもう使い物にならないぞと思われるぐらいに痛めつけられた結果、その拷問施設かつカルト教団の住居でもある「コロニア・ディグニダ」で“生かされる”ことに。

その事実を知ったレナは、帰国をやめて修道女を装い、信仰のためと偽って単身「コロニア・ディグニダ」に潜入することに決めます。

かくして“生きて出た(脱会した)ものはいない”と言われる当地に入ったレナ、無事ダニエルと再会し、脱出することができるのでしょうか。

半分事実、半分創作

そもそもこの映画は、監督が9歳のときに学校で「コロニア・ディグニダ」のことについて学習した時に怒りを覚えたところがスタートになっているらしく、実際にこの場所がどんな場所だったのかを事実を元に描いた映画のようです。

あくまでネット上で軽く調べただけなので事実かどうかはわからないとお断りしつつ書くと、どうやら実際にダニエル・ブリュール演じるダニエルのモデルとなっていると思われる人物もいたようなんですが、彼の結末は映画とは違う内容だったので、「コロニア・ディグニダの事実をベースに映画らしい展開を盛り込んだ半創作」の作品、という感じでしょうか。レナの存在もおそらく創作で、彼女は(定番の男女愛を通じた)映画的美味しさ+コロニア・ディグニダでの生活やどのような行為が行われていたのかというのを伝えるための存在だったのではないでしょうか。

彼女は「彼を救うための(偽りの)入信」によってコロニア内で生活する、つまり長い時間この場所に滞在することになるわけで、それによっていかにこの「コロニア・ディグニダ」が人道的に許されないものだったのかを丹念に描くためのファインダーになっている、と。

ちなみにミカエル・ニクヴィストが演じる強烈な“教祖”であるパウル・シェーファーは実在の人物で、彼の所業は(多少の脚色はあるでしょうが)概ね事実に即した内容のようです。映画では直接的には描かれず若干匂わせる程度ではありましたが、少年に対する性的虐待も日常的に行われていた模様。

しかも映画では触れられていなかったと思いますが彼は元ナチ党員だったそうで、「ドイツから逃れて文字通り“神”のように振る舞い自由を謳歌していた」というとんでもない人物。それが実在していたと言うだけでもなかなかの衝撃ではありました。

計り知れない価値を持った映画

おまけにこの「コロニア・ディグニダ」は「チリの中にある異国」と言われるほどに治外法権だったことに加え、チリの権力内部ともガッツリ結びついているところも非常にタチが悪い。

現在になっても入植地は現存していて、さすがに組織自体は無くなっているものの、レストランや宿泊施設のような商業施設に生まれ変わっているんだとか。まあかつて酷い行為が行われていた場所が観光地化することは珍しくないとは思いますが、しかしここについてはその内実をきっちり調べ、断罪されることもないまま“うやむやに”今に至っているというのがひどい。

おまけに…これはネタバレに関わるので詳細は伏せますが、劇中でコロニアとの関係を伺わせる存在が、そのことを公に認めたのが2017年になってから、つまりこの映画が公開された後になってからようやく認めた、という事実もあり、裏を返せばこの映画が作られなければ今も認めていない可能性があったというなかなかのズブズブっぷりに気が重くなります。

いかにこのコロニア(パウル・シェーファー)が狡猾に社会に食い込んでいっていたのか、さらにそれが今になっても全容解明されていないという事実を考えると、この映画の価値というのは計り知れないと思いますね。

あまり他国に知られたくないその国の暗部、恥部のようなものを放置していたら、映画という形で全世界的に知らしめられてしまう…という好例でしょう。その映画にエマ・ワトソンのような世界的に知られた女優さんが出ている、というのもかなり大きな意味があるし、きっと社会問題への意識が高い彼女のことなので、その辺りも含めて出演することにしたんじゃないのかな、と言う気もします。

一粒で二度美味しい

映画自体も最後まで予断を許さない緊張感が持続し、スリラー的な面白さもしっかりありつつ、上記のように社会的な価値もある映画なので、これはなかなか良い映画なのではないかと思います。

やっぱり映画として楽しみつつ、世界の歴史の一端に触れられる、というのはなかなか贅沢だし一粒で二度美味しい的な良さがあるのでこういう映画は好きですね。

ネタバレ

もう4文字だからそのままですよ。ダジャレにもなりません。

少し補足をしますが、本レビューに書いた「劇中でコロニアとの関係を伺わせる存在」というのは、チリのドイツ大使館のことです。

僕は途中までてっきり「大使館の職員」がコロニアとつながっているだけなのかと思っていましたが、まさか大使含め全部がズブズブだったとは…あれがわかったときは結構な衝撃でしたね。そんなことあるのか、と。

大使館と言えばその国の人にとって最後の砦というか、あらゆる映画でも「大使館にさえ逃げられれば」みたいなほぼゴールに近い印象の場所だっただけに…そこがこんなカルト教団とズブズブだったというのは、当事者にとっては相当なショックがあったことでしょう。神も仏もない。ギリギリで気付いたから良かったけども。

ただ実際に大使館に駆け込んで助けを求めた人がいたのかどうかはわかりません。

このシーンがイイ!

序盤のちょっとしたシーンですが、アムネスティに相談に行った時に盗聴前提で会話するシーンが良かったですね。治安の悪さが伺い知れる感じで。

ココが○

現実にいた悪を知らしめる意味で相当な価値がある点に加え、映画としてもしっかり楽しめる点。終盤はちょっと「アルゴ」を思い出しました。

ココが×

描写的にはそこまでひどくもなく一般的な範囲ではありますが、精神的にはなかなかにしんどい部分はあるので、観るときはそれなりに嫌な気分になることを想定しておいた方がいいでしょう。当然ながら笑いはゼロです。

MVA

エマ・ワトソンの意志を感じる強い目も良かったんですが、この映画はこの人になるかなー。

ミカエル・ニクヴィスト(パウル・シェーファー役)

教祖様。

まあ怖い。迫力あるしマジでそれっぽい。

この人はいつ観ても印象的な役が多い存在感のある役者さんですが、しかしこの数年後に56歳という若さで亡くなってしまったんですよね…つくづく残念。

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