映画レビュー1444 『アナザーラウンド』

またもアマプラ終わる系。
確か前に終わりそうなときに観たかったものの観られなかったやつなんですが、戻ってきてまた終わる系ですね。これもよくあるパターンです。

アナザーラウンド

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監督

トマス・ヴィンターベア

脚本

トマス・ヴィンターベア
トビアス・リンホルム

出演

マッツ・ミケルセン
トマス・ボー・ラーセン
マグナス・ミラン
ラース・ランゼ
マリア・ボネヴィー
スーセ・ウォルド

公開

2020年9月24日 デンマーク

上映時間

117分

製作国

デンマーク・オランダ・スウェーデン

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

アナザーラウンド

人間は…弱いッ!!

7.5
「お酒を飲めばうまくいくのでは?」と実験を進める同僚教師4人
  • 仕事が上手く行かず悩んでいる主人公たちが、ほろ酔い状態で仕事してみようと実験開始
  • 開き直ったかのように明るくなって周りのリアクションも良くなり、良いことずくめだったが…
  • お気楽コメディかと思いきやかなりのほろ苦ドラマ
  • 人間の弱さを痛いほど思い知る反面、マッツがイケオジすぎてあまり参考にならない

あらすじ

もっとスカッとした話なのかと思っていたんですが思いの外ほろ苦な内容で、ちょっと落ち込みつつそこが良かったとも思います。

ベテラン高校教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)は惰性で仕事をしているような感じで授業にもあまり身が入っておらず、それ故生徒たちの評判もあまり芳しくないようでついに保護者たちに「大事な時期なんだからもっとちゃんとして(意訳)」と言われてしまいます。
就業時間のすれ違いもあって妻との関係もあまりよろしくなく、かなり低調な日々を過ごしているようです。
ある日仲の良い同僚たちと4人で誕生祝いのディナーに繰り出した際、飲まないつもりが一旦お酒を飲んだことで感情が爆発してしまい、現状の上手く行かなさに涙を流すマーティンを見た同僚たちは、「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなる、という研究がある」的な話を振り、それを聞いたマーティンは早速こっそりお酒を飲んで授業に臨むと思いの外生徒たちもノリノリで活気あふれる授業に。
それを聞いた他の3人も「論文のための実験として」ほろ酔い仕事に参加することに決め、それぞれ停滞していた仕事が驚くほど上手く行くようになります。
しかし当然そのまま万事丸く収まってワーイ、なんて話ではないわけで…どうなるんでしょうか。

男という生き物

イメージとしてヨーロッパの人たち、特にフランス人辺りは常にワイン飲みながら生活しているような印象があるんですがすごい偏見ですよねきっと。
でもなんとなく日本よりかはお酒が身近にありそうな気がするんですが、だからなのか…「ほろ酔いで仕事をすれば万事上手く行く説があるから実証しよう」というお話です。
まあ確かに(もちろん功罪両面あるわけですが)酔っ払えば気持ちも大きくなって、良くも悪くも雑になるので開き直れるようなニュアンスはよくわかるし、特にこのお話のように学校の先生であれば変なプライドは捨てて“面白い授業”にしやすくなる…というのはわかる気がしますが、とは言え…ねぇ。
最初は理論に忠実に、血中アルコール濃度も低めで「ほろ酔い」をキープしている4人も、当然ながらエスカレートしていって…というのも予想通りですが予想通りに酒を飲み進めてしまうのも人間らしさが現れていて、まあいろいろと人間の弱さ、業のようなものを感じずにはいられないお話でした。
ジャンル的には一応コメディなんですが、ただもう後半は観ている方も結構しんどくなっちゃうぐらいに人間の弱さを見せつけられる時間が続き、弱さと同時に愚かさも感じるしでまー考えちゃいましたね。
さすがに酒を飲みながら仕事しようとは思いませんが、そういった外部要因に頼りたくなるぐらい日常が上手く行っていない気持ちはよくわかるし、頼りたくなっちゃう弱さももちろん共感できるのであまり他人事にも見えないし、「一般人(つまり自分)が行き詰まったときの一つのルート」を例示されているようでなんとも居心地の悪さも感じます。
始めは自分の弱さに向き合うよりもお酒によって回避しようとする意識が強い話なんですが、それも詰まってくるともう弱さに向き合わざるを得ない状況になっていき、やがてその弱さを受け入れてプライドを捨てるまでの通過儀礼を観ていくような映画なんでしょう。
男は大体いらんプライドを抱えて生きてる動物ですからね。僕もそうです。
捨てられれば楽なのもわかっていながら捨てられない、そういうバカな生き物が男ってやつですよ。
そんな達観した見方ではないものの、そういった「男が選びがちなダメな生き方」をおさらいしつつ乗り越えるまで、みたいなテーマ性を感じるとか感じないとか言うお話ですよ。

またねー、メインの4人がすごく仲良しなんですよ。もう本当に高校の同級生がそのまま教師になった、みたいな4人で。
歳取ってもバカみたいに笑って仲良しなのは羨ましいのと同時にいかにも男っぽい集団だなと観ていて思いました。だからこそ「男の生き方」的な目線がより際立つお話なんでしょうね。
ただこの4人は(酒で迷惑かけたりはするものの)いわゆるホモソ的な側面を覗かせない辺りは非常にお上手だなと思います。そこもヨーロッパっぽいというか。
性的な要素もまるで出てこないし、「男のダメな生き様」は見えてくるものの「男の集団にありがちな対女性的な問題」は出てきません。なので割と女性でも安心して観られるタイプのお話ではないかなと思います。
それはそれで逃げていると捉えられるかもしれませんが、ただもう彼らも(それなりに年代にバラつきはありますが)良い年なので、異性がどうこうよりも生活とか家族への視点の方が大事、ってことなんでしょう。
完全に偏見ですが、これがアメリカ映画だったら多分4人のうちの最低1人は女性との関係が云々、みたいな話にそこそこ時間を割かれる気がするんですよね。その話自体に特に意味はなくて、なんとなくビジュアル的に魅力的な女優さんをキャスティングしたがるような感じで。
でもこの映画はそういうこともなく、酒を通して朴訥とした「男の問題」の描写が印象的な映画だな、と思います。そしてそこが良いなと。

お惣菜映画

一方でそういった映画だからこそ地味なのも事実で、すごく良い映画だなと思いつつも「面白さ」という意味ではもう一歩かな、とも思いました。
まー大人の映画ですよ。ある一時を切り出したものであっても、本当に人生のままならなさや人間の愚かさ、弱さをいろいろと考えさせられる映画だと思います。
評価上はそんなに高くないように見えると思いますが、ただ僕としては観て良かったしおそらく心に残るものもいろいろあったような気がします。
アレですね、感動するような美味しさはないものの飽きない惣菜みたいな映画ですよ。
こういうものも無いとやっぱり飽きちゃいますからね。良い映画でした。はい。

このシーンがイイ!

その後の展開も加味して、ですが…トミーの世話をするマーティンのシーンですね。
あの関係性の良さと、その後も含めてやっぱり重要なシーンだったように思います。

ココが○

ほろ苦なのがね。いいですよね。
そこも含めてやっぱり「人生」を描いた映画なんだろうな、って。

ココが×

良い映画なんですが地味さは拭えません。特にマッツをマッツと認識していないような人が観たら相当退屈しそう。

MVA

まあこれはやはり順当に、でしょうか。

マッツ・ミケルセン(マーティン役)

主人公の高校教師。
冴えない中年…と言いつつどの場面でもイケオジすぎて冴えてない感が無いのが怖い。いや冴えてないんだけどそのくたびれ感すらかっこいいのが。
おまけに元ダンサーの本領を発揮したサービスシーンまで盛り込まれ、マッツファンは言うまでもなく必見の映画でしょう。
僕としては割と悪役で観ることが多いマッツの「普通の人」が観られただけでもラッキーというか、等身大の人間もさすがにお上手だなと再確認できたのが良かったです。

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