映画レビュー1443 『ファーゴ』
コーエン兄弟の映画ではおそらくこれか「ノーカントリー」か「ビッグ・リボウスキ」辺りがいの一番に出てくるタイトルだと思うんですが、それだけメジャーかつ評価の高い映画ということでアマプラ終了近付いてきた今、観るぞと。
ファーゴ
ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
1996年3月8日 アメリカ
98分
アメリカ・イギリス
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

人生のままならなさ。
- 富豪の義父からお金を得ようと狂言誘拐を計画
- しかし実行犯がバカすぎて事態は収拾不能に
- 意外とこれぐらいダメな犯罪の方がリアルなのかもしれない
- ブシェミを存分に味わえるブシェミ映画
あらすじ
コーエン兄弟の映画らしい映画で、ビシッと「めっちゃおもしれぇ!」って感じではないんですがなーんかジワジワ頭に残る味のある映画でした。
金銭的な問題を抱えるジェリー(ウィリアム・H・メイシー)は、大金持ちの義父・ウェイド(ハーヴ・プレスネル)から身代金をせしめようと自分の妻であるジーン(クリステン・ルドルード)の狂言強盗を計画。
実行犯として同僚から紹介された男・カール(スティーヴ・ブシェミ)との待ち合わせに行くとそこにはもう一人の男・ゲア(ピーター・ストーメア)がおり、信用ならないと思いつつ言われるがままに“前金”として新車を渡し、実行の日を待ちます。
その後、かねてよりウェイドに打診していた投資話がうまくいきそうになり、金銭的な心配が無くなりそうになったのでやっぱり誘拐は中止しようとカールに連絡を試みるジェリーですが連絡が取れず、結局誘拐は実行されることに。
実行犯の2人はジーンの抵抗に遭いつつもなんとか連れ出しますが、ナンバープレートを付け忘れていたためにパトロール中の警官に止められ、上手くやり過ごそうとするカールを尻目にゲアが警官を射殺。
こうして大事件に発展してしまった狂言誘拐、果たして結末やいかに…。
一般人の犯罪はこんな感じなのかも
最初に「実話を元にした話」である旨が流れ、なるほどそうなのか…と観ていたんですが鑑賞後に調べたところその演出自体がネタで、実際は完全にフィクションだそうです。それって禁じ手じゃないの??
そんなわけで僕はずっと実話ベースだと思って観ていたこともあり、登場人物のほとんどがダメ人間で上手く行かない感じに「意外と一般人の犯罪なんてこんなもんなのかもな…」と妙にリアルに感じながら観ていたんですが、それはコーエン兄弟の作り方が上手いのか、はたまた僕がただ節穴なだけなのか…。(多分後者)
実行犯と結託して金持ち義父からお金をゲットしようという狂言誘拐、確かに一見すると簡単そうな話なんですが、しかし実行犯がこうもバカだと上手く行かないのも自明の理、もっと言えばこの手の犯罪に手を貸す人物は基本的にこの手のバカか、もしくは依頼した時点で弱みを握られて最終的に全額持っていかれるような危険なタイプしかいないような気がするしやっぱり真っ当に生きたほうがいいよね、という至ってまともな結論に至りました。(そもそも未婚である以上義父もいないのは置いといて)
しかもまたこの物語の上手いところは、依頼者であるジェリーもかなりの小心者なのでこういった“作戦”を実行するにはあまりにも向いていないことと、逆に義父は(成功者だけあってか)リスクを厭わないタイプなので二重三重と想定外になってしまうという。とても良くできたお話だと思います。
また何と言っても実行犯コンビのブシェミ×ピーター・ストーメアという組み合わせがたまりません。各映画で強烈な印象を残す脇役名優2人がコンビを組んだこの感じ。
特にブシェミは準主役と言っていいぐらいに出番もセリフも多く、ブシェミを味わうにはこれ以上の映画はない…かもしれません。最近あんまり見ないしね…。
途中、実行犯と思しき人物を探す聞き込みシーンで「なんとなく変な顔」って説明されてるのも申し訳ないけど笑っちゃいました。「なんとなく変な顔」って失礼すぎるけど表現として絶妙すぎる。
一応本来(?)の主人公はフランシス・マクドーマンド演じる刑事のマージなんですが、出てくるのが結構遅めなのと他と比べて普通の人すぎる(だからいいんだけど)のでどうしても「いいキャラだけど他が強すぎる」感じでそこまでグッと来る感じではなく。
ただWikipediaによると「その印象的なキャラクターによって映画史に特筆される人気者」らしいので、これまた僕はちょっとズレているのかもしれません。演技的にはさすがフランシス・マクドーマンド、素晴らしかったんですけどね。
人生ままならないよね
話としては死者も出てるしすごい悲劇なんですが、しかし映画自体はブラックコメディっぽさも強く全体的になんとなくゆるさも感じる辺りが絶妙。これぞ悲喜劇、なのかなぁ。
ジャケットからするとかなりサスペンスっぽくて怖かったりするのでは…と思うんですがまったくそんなこともなく、若干バイオレンスですが喜劇感の方がだいぶ強いです。ちなみにジャケットのシーンはぶっちゃけ一番どうでもいいと言えるぐらいどうでもいいシーンです。なぜここをジャケットに…!
一般人による犯罪の上手く行かなさ的に「バーン・アフター・リーディング」っぽさもあるし、やっぱり結構コーエン兄弟の色は感じます。
全体的に上手く行かずままならない感じはいかにも人生を感じさせる…と言うと言い過ぎかもしれませんが、そんな印象を抱きましたよボカァねぇ。藤村くん。
ビシッと「うおおおお!」って感じにはならなかったのでそこまで自分の中で盛り上がりは無かったんですが、それでも面白い映画だったのは間違いないです。なんだか表面上の物語以上にいろいろ考えるところもある映画だったな、と思いますね。
このシーンがイイ!
ブシェミがとあるシーンでブチギレるんですが、そこがなんか全体的に「なんでこういつも上手く行かないんだよ!」という思いをぶちまけているように見えて、そこに一番人生のままならなさを感じたというか…。(やってることは犯罪なんだけど)
妙に感情移入しちゃったんですよね。自分の思い通りに行かない状況が多すぎるところに。
ココが○
一つの狂言誘拐からよくこんな話を展開するよなぁと感心しました。本当にダメ人間たちによる犯罪はこうなりそうなリアル感。
ココが×
もう少し突き抜けるなにかがあると良かったんですが、まあそういう映画でもないんでしょう。
MVA
フランシス・マクドーマンドも良かったんですが、やっぱりこの映画はこの人かなぁと。
スティーヴ・ブシェミ(カール・ショウォルター役)
誘拐犯の1人。なんとなく変な顔。
準主役と書いたように、非常に出番も多くかなりブシェミゲージが満たされました。満足。
やっぱりこういうダメ人間役やらせると抜群に上手い。犯罪者なんだけど憎めない感じもさすが。
相方のピーター・ストーメアは逆に好きになれないタイプの悪人なのもこれまた逆に良いんですけどね。
ジェリー役のウィリアム・H・メイシーも小物っぽさがすごくて見事でした。みなさんさすがですね。