映画レビュー1398 『ファースト・マン』
JAIHOが一旦休止となりまして、アマプラから観ようと思ってたこちらの映画を。
さすがにアマプラだけだと選択肢が少ないなぁとご不満を表明しておりまして、ネトフリ復帰しようか…でもネトフリももう2000円するしだったらほぼ同じ金額でフヮ~ォ♡も観られるU-NEXTの方がいいんじゃないか…などと供述しており
まあJAIHOもそれなりに作品が切り替わってきたら戻るつもりなので、それまでは久しぶりにいくつか録りためているBS録画の消化でもしていこうかなと思っております。
ファースト・マン
『ファーストマン: ニール・アームストロングの人生』
ジェームズ・R・ハンセン
ライアン・ゴズリング
クレア・フォイ
ジェイソン・クラーク
カイル・チャンドラー
コリー・ストール
クリストファー・アボット
キアラン・ハインズ
2018年10月12日 アメリカ
141分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)
地味なのが逆に良い。
- アームストロングがNASAに入り、月から帰還するまでの数年間を描く
- 人物像や人間関係にフォーカスし、等身大のアームストロングの姿を追う
- 全体的に地味で暗いのは事実が偉大すぎる故か
- “セカンド・マン”の脇役っぷりに皮肉さを感じる
あらすじ
正直チャゼルの映画はあまり好きではない(というか時が経つほど「ラ・ラ・ランド」が嫌いになっている反動のせい)んですが、この映画は良かったですね。なんというか、チャゼルの映画っぽい媚売り感みたいなものが無くて。
X-15のテストパイロット中、九死に一生を得たニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)はその経験から宇宙を目指すようになり、NASAのプロジェクトへの参加を希望します。
娘が若くして亡くなるなど決して順風満帆ではない状況の中、計画への参加を認められた彼はひたすら寡黙に真面目に計画へ打ち込み、実績も残していきますが、しかしNASAのプロジェクト自体は失敗も多く、被害者も出てしまいます。
多額の税金を注ぎ込んでいるために世間からも厳しい目で見られていたりするプロジェクトですが、冷戦時代ということもあってソ連には負けられない意地も加わり、文字通り命をかけて月面着陸へ執念を燃やすNASAの面々の中にあって、最も冷静な男・アームストロングがその偉業を成し遂げるまでを描きます。
本当にニール・アームストロングはこうだったのか問題
言わずとしれた「人類で初めて月に降り立った男」、ニール・アームストロングを追った物語。タイトルもそのまんま、最初の男です。
よく「映画にすると面白そうな実話」というのはありますが、この実話に関してはもう有名すぎて逆に映画にした方が陳腐になってしまうような、事実が偉大すぎるという珍しいタイプの話だと思います。
「映画にすると面白そうな実話」っていうのは多分に「あまり知られていないこんなすごい話が…」みたいな要素が含まれていると思うんですが、まあなにせこの話はおそらく世界史史上最も有名なレベルのエピソードなだけに、逆に「そのまま描く」と面白くなくなるんじゃないかという気がしてその辺のニュアンスがすごい興味深いなと思いました。さすがにトー横キッズでも知ってるでしょこればっかりは。(トー横キッズへの偏見)
いやでもやっぱり知らん人は知らん気もする…。
まあそれは置いといて、そんなテーマだからなのかはわかりませんが、よくあるこの手の伝記ものとは違ってとにかく(絵面含め)地味で暗く、主人公もいわゆるヒーローっぽさみたいなものがまるで感じられません。
ニール・アームストロングってマジでこんな人だったの? とちょっと疑問に感じるぐらいに寡黙で何を考えているのかよくわからない人物像は結構新鮮で、一昔前によく見た“無愛想ゴズリング”そのままという感じの主人公は正直感情移入しづらいんですがそれが面白いと言えば面白い。
この映画で描かれる、彼がNASAに入ってから月面着陸を成し遂げるまでの一連の出来事は当然ですがほぼ史実に忠実なようで、その歴史的な出来事を追いつつアームストロングの個人(や家族)の部分に焦点を当てて偉業達成までの道のりを観ていくような形になっています。
僕としても当然「ニール・アームストロングが人類初月面着陸男」というのは百も承知でしたが、そこに至るまでに何があったのか、ニール・アームストロングが(その家族構成含め)どういう人だったのかまでは知らなかったので、「知っている事実の幅を広げる」意味で興味深い映画ではありましたが、一方であくまでニール・アームストロング個人にフォーカスしたものなだけに、アポロ計画も主要なものしか描かれないし、「知る」という意味ではもう少しつっこんだものを観たかったのも事実です。
ただそうすると長くなっちゃうし別の話になっちゃうのでこれは文句ってわけでもないんですけどね。それが知りたければドキュメンタリーでもWikipediaでも見ろよタコ助という話だと思います。
ただそういう「ニール・アームストロング個人にフォーカスした映画」であるだけに、さっきも書きましたが果たしてマジでこんな無愛想ゴズリングっぽかったの…? という人物像自体に少々疑問を感じてしまったのも事実なので、着眼点は面白いんだけどリアリティという意味ではどうなのかなと(実際のところがまったくわからないだけに)半信半疑で観てしまうような面もありました。
わかりやすく書くと「ニール・アームストロングを中心に描いたアポロ計画」というよりも「もしも無愛想ゴズリングがニール・アームストロングだったら?」的な映画というか。
よくある歴史上の人物を描いた映画と同列に、この映画の描写を持って「へー、アームストロングってこういう人だったんだー」と受け取るのは少々危険そうな匂いも感じたんですよね。いやマジでこういう人だったのかもしれないけどさ。でもなんかここにちょっと作家臭がするんですよね。なんか。
もっともその「よくある歴史上の人物を描いた映画」だってかなり脚色はあるんだろうし、あまりにも有名な史実に関わっている人物だからこそ気になっちゃうのか、はたまた「こういうのが面白いんだろ?」と媚ウリ感が透けて見える作風のチャゼルだから疑っちゃうのか、実際のところはわかりません。何もわかっておりません。わたくし。
ある意味見どころの“セカンド・マン”
ただまあ思ったのは、当たり前なんですが“偉業”に至るまでには取り返しのつかないものも含めた膨大な数の失敗があり、彼が月面に降り立てたのはその犠牲の上に成り立っているんだな、ということ。文字通り屍を超えて行った先の偉業なんですよね。
これは裏を返せばほとんど運と言って良いレベルで、(もちろん優秀だったんだろうとは思いますが)アームストロングが際立って優秀だったからというわけではなく、「事故のときのクルーではなかった」とか「アポロ11号がタイミング的にうまくハマった」とか、いろいろ偶然も作用してそこに至った、というのは考えれば当たり前なんですがよりその思いを強くしましたね。
同時に、「2番目に月面に降り立った男」の存在についても妙に考えさせられてしまい、そこも興味深いというか面白いというか。
アメリカでは有名なのかもしれませんが、日本人で「アームストロングの次に月面に降り立った人の名前」って言える人ほぼいないと思うんですよ。トー横キッズに限らず。
この映画ではその役はツルッパゲでお馴染みのコリー・ストールが演じているんですが、彼の脇役感たるやすごいんですよ。扱いが軽いなんてもんじゃなくて。
途中までちょろっと出てきて嫌味を言うぐらいの人物だったのが、急に主人公(アームストロング)と同じアポロ11号のクルーとして選ばれました、ってことでちょっと出番が増えるぐらいの感じで。
最後まで存在感が薄く、見るからに「脇役だな!」感がすごくて。コリー・ストールっていう人選も絶妙だと思うんですが。
そこに“セカンド・マン”の悲哀というか、歴史的に名前が残らない、ファースト・マンに対する脇役感を思いっきり印象付けている気がして、それがすごく皮肉だし狙ってやったてたとすればすげーなと思いましたね。本当に驚くぐらい(アームストロングにとって)さしたる存在じゃない(ように見える)んですよ。
これがずっと付き合いの続いていた友だち(として描かれる)とかなら全然印象は違ったと思うんですが、実際そうだったのかはわからないもののまったくそういう交友関係も無く、顔見知り程度の同僚と一緒に行ったら成し遂げちゃった感がすごくて、もう徹底的にアームストロングにしか目がいかないような作りになっているのが本当にすごい皮肉で。
きっと実際は彼の貢献も大きかったんだろうと思うんですが、まったくそう感じさせない「アームストロングのおかげで月に行けて良かったね」ぐらいの軽い存在に見える描かれ方はすごく気の毒だけどめちゃくちゃ意味深だなと。これご本人(存命中のようです)は観てすごく複雑だったんじゃないかなと思うんですが…。
全体的にはちょっと熱が足りない印象で、おそらくタイミングによってはグーグー寝てたんじゃないかと思うぐらいには地味だったんですが、ただ上記の通りテーマがテーマなのでそこが逆に良かったような気がします。
一方ですごく史実に忠実かと言えばそうとも思えないぐらい“ゴズリング感”が強いキャラクターになっていたのも印象的で、興味深さと信じきれない眉唾感と両方ごちゃ混ぜ感もあり、静かさとは裏腹なカオス感も感じられた映画でした。
ただまあ全然予想より面白かったですよ。公開当時の評判からすればもっと退屈でひどいのかなと思ってたので。
しかし余談ですが、1960年代に月面着陸を成し遂げたら「近い将来人類は宇宙旅行が当たり前になるんじゃないか」と想像してもおかしくないと思うんですが、50年以上経った今でも状況はこの頃とさして変わっていない、っていうのもまた考えさせられますね…。
もちろん技術的には比にならないぐらい進歩しているんでしょうが、こと「月に行く」とか「宇宙旅行」となるといまだに大変な障壁があるというのは、もしかしたらニール・アームストロングその人もまったく予期していなかったことかもしれません。
いつになったら宇宙がもっと身近になるのか…やっぱりよくあるSFのように、もっと切羽詰まった資源や環境の危機が訪れないと来ない未来なのかもしれません。それはそれであまり歓迎すべきことでもないのがつらいところですが。
このシーンがイイ!
お隣の奥さん(かわいい)が車の前で突っ立ってたシーンがすごく印象的でした。なんかいろいろ考えちゃう…。
あと出発前夜に奥さんがキレるシーンもすごく良かった。そりゃそうだと。
ココが○
自分の中のチャゼル感ではもっと煽ってくるのかなと思ってたんですが、逆にまったく煽らない静かな作りだったのが良かったです。やっぱり器用な監督ではあるんだろうな…。
ただそれが100点かと言われると、やっぱり少し(過去作でも感じたことですが)そこはかとない模倣感も感じられ、逆に言えば器用さだけで作っちゃってる感じはまだありました。
この人の映画はどれも魂が入ってない感じがする。
ココが×
くどいですが地味。ご飯後だと絶対眠くなると思う。
話は良いとして、せめて絵面がもう少し明るければちょっと違うかな〜という気もするんですが…どうでしょうね。
MVA
ん〜この人かな…。
クレア・フォイ(ジャネット・アームストロング役)
ニールの妻。ショートカット。(高ポイント)
なにせゴズリングは(悪くないんですが)いつもの感じだったので、感情的にいろいろしっかり見せてくれた彼女が良かったかなと。主人公の感情的な起伏のなさと好対照になっていたのが印象的。
ちなみに史実ではこのお二人は後に離婚されているそうです。それも含めると…またいろいろ考えちゃいますね。