映画レビュー0970 『フォードvsフェラーリ』
まだ全然尾を引いてる感じではあるんですが、映画自体はちょこちょこと観ていて、今日ようやくジャケ絵も描いてある程度ストックが貯まってきたので更新を再開しようと思います。
再開一発目は…1か月ぐらい前に観に行ったんですが、こちらの映画。今年最初の劇場鑑賞ですね。
本来は特に観に行くつもりもなかったんですが、映画評論家の町山智浩さんが「今年(彼はアメリカ在住なので去年)一番良かった」と言っていたので、そこまで言うなら、と。
フォードvsフェラーリ
ジェズ・バターワース
ジョン=ヘンリー・バターワース
ジェイソン・ケラー
2019年11月15日 アメリカ
153分
アメリカ
劇場(通常スクリーン)

激アツで胸熱で熱盛で体温上がる。
- フェラーリの買収に失敗したフォード、怒りのレース参戦でフェラーリへの“意趣返し”なるか
- 大衆車しか作ってこなかったフォードは案の定苦戦するが…
- 今も変わらぬ友情、家族愛、大企業病、クソ虚栄心のてんこ盛りで普遍的な傑作
- 主演二人のジャンプ的友情も熱い
あらすじ
いやこれは本当に新年早々いきなり年間ベスト級の傑作を観ることができたと思います。ものすごくよかったです。
「レース映画」として僕がなんとなく想像していたポジション(ハラハラドキドキで良い映画だねぐらいの感じ)よりもかなり上を行く“アツさ”を持った映画で、終盤のレースシーンでは本当にリアルタイムでレースを観ているかのようなリアリティに多分体温が上がってたと思いますね。微熱出てたと思う。それぐらい食い入るように観ていました。
(なんやかんや前段の登場人物ご説明的エピソードを挟みつつ)舞台は1960年代。ご存知フォード・モーターの2代目社長、ヘンリー・フォード二世の命により、新たな成長の糧を探していた重役のリー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル)は経営危機に陥っていたフェラーリに目をつけます。
フェラーリ買収となれば“大衆車”イメージの強いフォードのイメージアップ間違いなし、ということで買収に乗り出すんですが、レースを重視するフェラーリ創業者でもあるエンツォ・フェラーリと意見の相違があり商談は決裂。逆に同じイタリアの自動車メーカー・フィアットに高く売りつけるためにフォードの存在をうまく利用されてしまいます。
帰国したアイアコッカに経緯を聞いたヘンリー・フォード二世は激怒。「ル・マンに参戦してフェラーリの連中をぶちのめしてやる!」と初めてのレース参戦を決めるのでした。
とは言え、ですよ。フォードと言えば“大量生産によって自動車を庶民の手が届く商品にした”立役者のようなメーカーなので、効率・採算度外視で性能を追求することに絶対的な価値を置くレースカーとはまったく相容れない、正反対の車を作ってきたメーカーなわけです。これはつまり「フェラーリと正反対」と言っても良いでしょう。「同じ食べ物だし」って定食屋やってた主人が高級フレンチで勝負してやる! って息巻いてるようなもんですよ。
しかし当然、門外漢である彼らがいきなりレースカーを作って優勝できるはずもないので、かつて(当時)「ル・マンで唯一勝利したアメリカ人」であり、今はカーデザイナー(と言っても今で言うデザイナーと言うよりは設計者に近いイメージ)として「シェルビー・アメリカン」を経営する元ドライバー、キャロル・シェルビー(マット・デイモン)に協力を要請します。
キャロルは監督としてプロジェクトに参加、「最も大事なのはドライバーだ」ということで…古い付き合いでドライバーとしての実力は折り紙付きながら、トラブルメーカーで同業者からあまり好まれていなかった男、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)に白羽の矢を立てます。
なんやかんやありつつケンはプロジェクトに参加しますが、案の定フォード側とも折り合いが悪く“ケン外し”の動きもチラホラ。フォードとケンの間で中間管理職的に板挟みのキャロルは、果たして念願の“フェラーリ打倒”を成し遂げることができるのか…というお話です。
敵は果たして本当にフェラーリなのか
タイトルこそ「フォードvsフェラーリ」だし実際フェラーリに戦いを挑む話ではあるんですが、この映画の主人公であるキャロル&ケンの“外様コンビ”…もっと言えばコミュニケーション能力を削ってレース能力に全振りしているケンの存在がフォードには耐え難いものであり、それ故内部衝突もしばしばなわけです。
実際この映画における“悪役”はエンツォ・フェラーリではなくフォード副社長であるレオ・ビーブなんですよね。なんならフォード二世もちょっと悪役感あるし。顔がもう悪そうだし。
もうこういうのは今でも珍しくない「上層部と現場の対立」ってやつで、それ故古い時代の話だろうとまったく古く感じない、人間って変わんねーな感がすごいお話にもなっています。
門外漢のフォードが実績のあるキャロルにお願いして「レースで勝つ」ことを目標にプロジェクトを始めたんだから、じゃあもう黙って任せておけよと思うわけですがやっぱりいろいろ横槍を入れてきてとにかく鬱陶しい。大企業っていつの時代もこうなんだな…と妙な感慨も抱くわけです。
しかし当然ながら“プロジェクトの敵”はタイトル通りフェラーリなわけで、当時ル・マンで圧倒的な強さを誇っていた彼らに勝てなければなんの意味もないのも自明ですよ。だからこそ一枚岩になってやらないとって話なんですが背広組(ほぼ副社長)がそれを許さない、となんとももどかしい。
ただキャロルをスカウトしたアイアコッカはその辺り理解もあり、キャロルを信頼して任せてくれてはいるんですが残念ながらフォード社内での力学的にはビーブの方が上なので、「いいやつだけどいまいち存在感薄いよな」って感じのアイアコッカさんもやや残念。ちょっとトム・ハーディっぽいいつもとは違う雰囲気のバーンサル、良かったんですけどね。もうちょっと見せ場があってもよかったような気がします。
レースシーンはやっぱり劇場で観るべき良さ
まあいろいろあって最終的にはケンがル・マンで勝てるのか、というお話になっていくんですが…このル・マン(に限らずですが)のレースシーンがまた素晴らしくてですね。
聞いた話では背景のみ実際のコースの映像を合成しているそうなんですが、レースそのものはすべて実写でCGを使っていないそうで、やっぱり迫力も説得力も段違い。
特にドライバーの視点の映像が効果的に何度も使われていて、それがとにかく緊張感を煽って観ているこっちも手に汗握るわけですよ。あのスピード感、緊張感は他でもなかなか味わえない素晴らしいものだったと思います。
なにせ事実を元にしたお話なので、レース結果自体は知っている人もいるだろうし調べればすぐにわかる話でもあるんですが、もし今このレースについて知らないのであれば、ぜひそのまま無知な状態で観てドキドキ感を味わって欲しい。僕も知らなかったので「どうせ勝つんでしょ?」と思いながらもかなりの緊張感を楽しませてもらいました。
またね、いい感じに回転数がレッドゾーンにかかって「やばいかもよ?」って思わせるんですよね。“レース新参者”のフォードなだけにいきなりぶっ壊れるんじゃないか…みたいな不安もどっかにあるんですよ。実際何度もトラブルあるし。
その辺のマシンに対する不安もまた、どこか「敵はフォードにあり」的なですね。明智光秀的な。大河も始まったし的な。そういう見せ方の巧みさで、まあとにかくハラハラドキドキ痛く楽しませてもらいましたよ。本当に最高でした。
友情物語としても素晴らしい
取っ組み合いの喧嘩をした後に仰向けで寝て和解、とか青春丸出しジャンプ的友情(でもどっちもおっさん)を発露する二人の主人公の組み合わせも最高で、それ故二人のつながりの強さが感じられたのもまた最高でした。
オープニングからもわかる通り、長い付き合いなんですよね。二人は。それが奇しくもフォードのレース参戦によってチームを組むことになるわけです。そのことによって二人の関係性も成長していく、その友情物語の濃厚さも痺れました。
これはねー、誰が観ても間違いなく良い映画だと思いますが、やっぱり“男子的傑作”じゃないかなと思いますね。これ観て血が滾らない男の人はなかなかいないんじゃないかなと。
ただそのキャロルとケンの組み合わせも女子的には「ブロマンスとして最高」って人もいるみたいなので、こりゃやっぱり男女問わず是非観るべき映画の一本と言って良いでしょう。
久しぶりに予告編やポスターのイメージの数段上を行く、「観なければ良さがわからない」素晴らしい映画を観られました。間に合うのであればぜひ劇場で。
このシーンがイイ!
ラストシーンが本当に胸熱だったんですがもちろん詳細は書けません。
次点で…レースに復帰しようとするケンに対し、乗ってる車を暴走させつつ涙ながらに訴える奥さんのシーンかな。あそこもすごくいいシーンでした。
あと二世を乗せてドライブするシーンも良かったし、それ以外にもところどころでマット・デイモンらしい少しコミカルなシーンもすごく良かったし、良いシーンたくさんありましたねぇ…。
ココが○
まあとにかく胸熱ですよ。ここまでアツい物語はなかなかありません。熱盛が過ぎる。上映中に間違って「熱盛」って出ちゃったとしても納得の熱さ。
ココが×
上に少し書きましたが、物語的にアイアコッカの立ち位置が結構微妙だったなと思います。もう少し理解者として手を回す感じがあっても良かったのかなと。
ちなみに“悪役”と言える副社長、実際はかなり評判の良い人物で、あんなに嫌な人ではなかったそうですよ。この辺も含めて(当たり前ですが)いろいろ脚色はあったようです。
MVA
久々に観たカトリーナ・バルフ、「マネー・モンスター」のときは超がつく美人でめちゃくちゃ記憶に残ってたんですが、今作ではやや歳をとった感があって少々残念でしたがそれでもすごく綺麗で素敵でしたね〜。ミニスカが良い。
ただこの映画はやっぱり主役二人でしょう。特に世間ではケン・マイルズを演じたクリスチャン・ベールの評判が良いそうなんですが、僕はこっちです。
マット・デイモン(キャロル・シェルビー役)
元レーサーでカーデザイナー。
やっぱりマット・デイモンらしくところどころすっとぼけた感じで笑わせてくれるし、何よりラストの演技がとにかく素晴らしくてですね…。あれにグッと来ない男はいないだろうと思います。
いや本当に…あの抜けた兄ちゃんだったマット・デイモンも良い役者になりましたね…。