映画レビュー0959 『フラクチャード』
今回もネトフリなんですが、これは配信終了が近いやつではなくてネトフリオリジナルの新作映画です。
たまたま最近勧められ、この週は特に観たい映画もなかったので観てみることにしましたよと。
フラクチャード
ブラッド・アンダーソン
アラン・B・マッケルロイ
サム・ワーシントン
リリー・レーブ
スティーヴン・トボロウスキー
アッジョア・アンドー
ルーシー・カプリ
アントン・サンコー
2019年10月11日 各国
100分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)

読めはするものの、考えさせられる良さもある。
- アクシデントにより娘ちゃん怪我、病院に連れて行ったら検査待ちの間に妻と娘が姿を消す
- 怪しげな病院 vs 精神疾患を疑われる主人公。どっちも信用ならないサスペンス
- 観客の信頼が双方を行き来して飽きさせない
- とは言え結末はある程度読める
あらすじ
以前は客寄せパンダとしてちょっと背伸びして作るか、って感じの印象が強かったような気がしないでもないネトフリオリジナル映画ですが、近々(なのはレビューを書いている当時のお話なので今は公開中です)マーティン・スコセッシ×ロバート・デ・ニーロ×アル・パチーノの映画が控えていたりするように、もはや普通に劇場公開してもおかしくない映画が増えてきました。
そのスコセッシの映画(アイリッシュマン)もそうみたいなんですが、最近はビッグネームでもスポンサーが付かないような映画が増えているそうで、その手の企画をネトフリが拾って行っているような印象がありますね。
この辺は前にも書きましたが、最近はMCU的な超大作か低予算で一発当ててやろう的な映画の二極化が進んでいることも理由にあるんでしょう。そんな下地があるからこそ出ちゃった感のあるスコセッシの「スーパーヒーロー映画はテーマパーク(であって映画ではない)」発言が物議を醸したりして、まああちこちつながっているわけです。
いきなり話が逸れましたが、そんなわけでネトフリオリジナルのこちら。
この映画は主要キャストも少なく、シチュエーションも限定的なのでいわゆる「前からある」(比較的)低予算で作られたネトフリオリジナルの雰囲気を強く持った映画という印象。若干際どい(グロめの)描写もあったりする辺りもその印象を強くさせますね。
主人公はサム・ワーシントン演じるレイ。妻のジョアンと娘のペリを連れてドライブ中です。どうやら感謝祭の日に奥さんの実家に行ったもののあまり良い対応をされなかったようで、それがきっかけで夫婦喧嘩になり、もはや別れる寸前のようなかなり険悪な状況。
ペリがトイレに行きたいと言うので途中にあったガソリンスタンドで休憩、なんやかんやあった後にペリが工事現場らしきところから地面に落下、かばおうと追って落ちたレイも頭を強打します。
幸いペリは意識もあったんですが腕が痛いということで近くの病院に運んで検査を頼むも待ち時間がガイナー。待たされる患者が多いせいか病院自体の雰囲気もあまり良くなく、イライラが募る夫婦。
やがて名前を呼ばれ、必要ないと思われることまで根掘り葉掘り聞かれつつようやく診察、多分大丈夫だろうけど念の為頭のCTを撮りましょうってことで検査に向かうと「ここから先はどちらか1人だけ付き添いの方向で」ってことで奥さんがペリに付き添って検査へ行き、残されたレイは待合室でうたた寝。
起きたときには結構な時間が経っていたもののまだ戻らない家族、確認しても「医者も看護士も交代した」「記録には残ってない」の一点張り。
この病院、怪しい…! ってことで強硬手段に打って出たレイ、たまたま近くにやってきていた警察官も巻き込んで「俺の家族を返せ!」と必死に訴えるも「この人頭おかしいんです」と精神疾患を疑われる始末。
確かにレイもちょっとおかしいけど病院もおかしいし…本当のことを言ってるのはどっち? ってなお話ですよよよ。
信頼できない語り手
この映画の主人公・レイはいわゆる「信頼できない語り手」というやつで、一応彼の主観で進むために彼の言うことを基本にして観ては行くものの…ところどころで「言うてレイも怪しいんやで?」と疑念をもたせるシーンがちょいちょい挟まってきます。
病院も実に怪しい病院なんですが、そもそもその怪しさ自体レイのフィルターを通したものでもあったりするので、となると結局レイが本当のことを言ってないだけでは…? と思うんですがそのまますんなり行くはずもなく、レイ怪しいな→いややっぱり病院怪しいだろ→でもレイじゃないか→いや病院だろ、と「真実を言っているのはどちらか」の心象が二転三転しつつ展開するサスペンス、と言った感じ。そう言う意味では割と飽きずに最後まで観られると思います。上映時間も比較的短めだし。
最終的には「やっぱりな」ではあったんですが、その「やっぱり」も個々人でおそらく違うだろうし、元も子もないことを言ってしまえば「どっちが正しいのか」は作り手がいかようにでもコントロールできる話なので、「そっちかー」ってなってもおかしくない話でもあるわけですよ。
多分結末は大半の人が読めるとは思うんですが、ただそこに至るまでに「いやでもワンチャンこっちじゃね?」的に(観客が見る)真実っぽい情報を操作してくれるので、頭の中では「どうせこうでしょ」と思いつつもその操作に乗っかって楽しむのが正しい観方ではないかなと思いますね。
もう一歩何かが欲しいけど、考えたくなる後味
また舞台となる場所は、事故が起きたガソリンスタンドと病院内、あとは少しだけ車内のシーンがある程度なのでかなり低予算の映画ではないかなと思うんですが、そう感じさせない見せ方の上手さもあったような気がします。
「病院内で妻と娘が失踪」の話なのでシチュエーションが限定されてても無理がないし、安っぽいセット感も無いしで最近の低予算は低予算っぽくないわねぇという謎の奥様風感想を抱いた次第ですよ。
正直役者陣については主演のサム・ワーシントンを除けばそこまでメジャーな人たちではないと思いますが、かと言って演技が良くないということもないし、この辺りの層の厚さもさすがアメリカだな連続ドラマ盛んだしな、みたいな謎の感想も持つわけですよ。
割とネトフリオリジナルはこういうキャスティングが多い気がするので、新しい役者さんを知るという意味でも面白いかもしれません。
今作についてはとにかく娘ちゃんがかわいかったよと思うわけですが、奥さんはもうちょっと頑張ってほしかったなぁと個人的感想。悪くはなかったんですけどね。
やっぱりどうしてもある程度予想できる分、もう一歩なにか欲しかったなぁという気はするんですが、ただそれでも劇後に思いを馳せるといろいろ感じるものもあるし、リアルであってもおかしくない話でもあるのでなかなか余韻のある映画ではないかなと思いますね。いろいろ考えたくなる映画というか。
少々小粒な面は否めませんが、悪くないミステリーってところでしょうか。
このシーンがイイ!
ラストシーンかなぁ。どこが良いとか言うとまたちょっとネタバレになりかねないので伏せますが、あの感じすごく良い。
ココが○
上に書いたように、「きっとこうなんだろうけどもしかしてそっちのパターン?」みたいにわかって乗れる感じ、わかってるけどあえて転がされようやないか、みたいに楽しめる二転三転ぶりは悪くないと思います。
ココが×
好みの問題だとは思いますが、ちょっと劇伴が煽り過ぎなのは気になりました。怪しいのはわかってるんだからもうちょっと控えめにしてくれよと。大仰に「やばいことが起こるで!」みたいな音楽の使い方、好きじゃない。
それと終盤、少しだけなかなかグロい映像があります。リアリティがないしそんなに長いシーンでもないので「うえー嫌だけどまあ…」って感じでスルーしましたが、嫌な人はすごく嫌かも。僕としてはこのグロの差し込み方に「ネトフリオリジナルやで!」ってドヤ感が透けて見えた方が嫌でしたけどね。
MVA
娘ちゃんのかわいさにあげたいところですが、まあここは順当に。
サム・ワーシントン(レイ・モンロー役)
主人公。夫婦仲は微妙だけど娘を愛するパパ。
彼の演技が一番重要な映画でもあるし、しっかり見せてくれたと思います。
あとはネタバレ項にも書いたんですが、彼が演じること自体に価値のある役だったところも面白いところかなと。