映画レビュー1543 『フロントライン』
前日何観るかなと探してたときにアマプラランキング1位だったので気になり検索、内容的に観てみようかなと思ったので観てみましたよと。
フロントライン

テーマの重さと抑えた演技・演出が光る。
- もはや説明不要、あのときあの船で新型コロナ感染者の対応を担った人たちを追ったドラマ
- それぞれモデルも存在し、ほぼ事実に即した内容
- 邦画にありがちな大げさな演技も演出も無く、静かに力強く事実を見せていく地に足のついた作り
- ようやく日本でもこの手の社会派映画がしっかり作られるようになった事実に感動
あらすじ
めちゃくちゃ良かったです。最近の出来事で記憶に新しいことでもあるし、日本に住んでいる人であれば観るべき映画だと思います。
2020年2月3日、横浜港に入港した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号の船内では新型コロナウイルス感染症の集団感染が発生、神奈川県庁は対策本部を設置し、神奈川DMATを統括する医師の結城(小栗旬)に船内へのDMATの出動とその指揮を要請します。
対策本部には結城の他に厚労省の立松(松坂桃李)らが参加、日本国内に感染を持ち込まないことを一番の目標とする厚労省に対し、乗員乗客の命を最優先に考える結城(DMAT)の方針は対立しつつ、それぞれの領分でできることを最大限引き出そうと奔走し、事態をなんとか抑え続けます。
しかし未知のウイルス故に次々と問題は起こり続け、また報道によって最前線で戦う医師たちの家族が非難を受けたりと報われない日々を過ごすDMATの面々、それでも収束に向けてその時できることをやり続けていきますが…。
ついこの前の出来事の映画化
これほどまで舞台の説明が必要ない映画もなかなか記憶にないですが、5年前の記憶がある人であれば忘れようがない「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナウイルス集団感染に対応した最前線“フロントライン”の人々を描いたドラマです。
もうこの一文だけで興味を持てる人は絶対観るべきだし、別にいいやとか思い出したくないとかそういう人はスルーすればいいかな、ということで終わり…でもいいんですが、若干内容の補足をしましょう。
まず主人公である小栗旬演じる結城は「神奈川DMATを統括する医師」なんですが、このDMATとはなんぞやというお話ですよ。
劇中でもまずオープニングに説明されるんですが、DMATとは「普段は病院等に勤務しながら災害時のみ集められる災害派遣医療チーム」のことだそうです。「神奈川」とあるように、都道府県単位で編成されているようですね。(一応「日本DMAT」もある模様)
ご存知の通りダイヤモンド・プリンセス号は横浜港に入港したことから、所轄である神奈川のDMAT(の責任者)に連絡が来て、対応を要請されたよ、というのが最初の経緯と。
で、非常に重要なポイントとしてDMATは「災害派遣医療チーム」なのでまずこの手の感染症対策は専門外、なんなら管轄外と言ってもおかしくないんですが、ことがことなので他に即対応できる集団も考えにくいのと、やはり「人命を救うために医師をしている」という崇高な使命感があったからこそ率先して対応にあたることを選んだのは間違いのないところで、もうこの最前線での活動を引き受けた人たちには同じ日本人としていくら下げても下げきれないぐらい頭が下がる思いでした。
おまけに、これもかなり重要なんですがDMATの人たちは“ボランティア”なんですよ。未知のウイルスが蔓延している船に、文字通り命の危険を冒して対応にあたっても一銭もお金にならない…! そんな…!
自分じゃ絶対無理だなと思います。もう皆さん聖人すぎる。
今からでも当時対応にあたった人たちにはなんらかの受勲だとかでその功績を称えられないものかと思いますね…。もしかしたらあったのかもしれませんが…。(あったとしたらそれが大きく知られるほど報道されていない問題も生じるところではあります)
もちろんこういう状況で自分の置かれた立場を考えれば断れないし無我夢中で対応するものだろうとは思いますが、それにしたって報いがなさすぎる。
途中で描かれますが、やっぱり「得体の知れないウイルス感染症の対応にあたってる」から忌避されることも多く、本人だけならまだしも同居の家族にまでその目は向けられるわけで、そのつらさったらないですよ…。
当時からこういう話は聞いていましたが、それがよりクリアに生々しく観させられたことで非常に考えさせられるものがありました。自分自身の情報の受け取り方も含めて。
僕も当時仮に「ダイヤモンド・プリンセス号に乗って対応にあたっている」人が身近にいたら、おそらく「偉いな」とは思いつつも避けていたと思います。一緒に働くのも嫌だったでしょう。なんと言っても怖いし。
でもそれは現場を観ていないからで、この映画で描かれるような現場の状況や本人たちの尽力を観ていたらとてもそんな失礼なことは言えませんよ。本当にものすごく反省させられました。
ただそうならないためにはやはり「正しい情報」が発せられることが重要で、その意味でこれも描かれることですがマスコミの問題は非常に大きいものがあります。
どうしても面白おかしく、また悪者を作り出そうとする報道の姿勢は疑問を呈さざるを得ません。
一方で、この映画でも登場する「露悪的に描かれるマスコミ」ですが、その描写を劇中に含めることに対しても少し疑問を感じました。
というのも、おそらくこのマスコミの描写も特定の個人ではないにしても、総体として「こんな感じだった」とモデル化されているんだろうとは思うしそれはそれとして糾弾するのも大事ですが、こと露悪的に描くことで「やっぱりマスゴミだな」と責め立てる人が少なからずいるんですよね。ネット上のレビューを読んでいても。
それはそれで間違った受け取り方ではないし実際マスコミはひどかったと思いますが、ただマスコミを悪役として登場させて世論を惹起するような演出は、それこそ劇中登場した六合医師(モデルは岩田医師)と同じことをやっているとも言えるわけで、これほどまで力強く現場の人たちを丁寧に描いた映画がそのレベルの土俵に上がってしまうのはすごくもったいないと思うんですよ。
要は「描写が正しくてもその描写によって煽っていると受け取れる」作りはすごく損だし、おそらくその露悪的に描かれるマスコミ自体がターゲットにしている、感情的なフックに釣られやすい層をこの映画でも同じように釣ろうとしている(ように受け取れてしまう)作りに見えてしまうのはもったいないのではないかなと感じました。
せめて結城との会話を経て変わっていく現場の上野記者(桜井ユキ)だけにとどめる程度にして、“マスゴミ”の象徴的存在として描かれる上司の轟(光石研)はいらなかったのではないかなと思います。
実際ネットを観ていてもそこ(マスコミの問題)ばっかり言及している人が相当数いるんですよね。
これだけ真っ当に当時の状況を描いた映画でそこがある意味悪目立ちしてしまうのは本当にもったいない。本題は絶対そこじゃなくて、マスコミの問題は明らかにサブなのに。
結局観ている方は自説を補強してくれるような要素を好んで大きく受け取りたがるんですよね。そこへの注意が少し足りなかったように思います。
それさえサラッとしていてくれれば、もう本当に手放しで絶賛できる映画だったなと思います。惜しい。
今までの邦画にないレベルの社会派映画
フィルマとかを見ていると「ただの記録映画でがっかり」とか「盛り上がらないで終わる」とか文句を言っている人も結構いてこれもびっくりしたんですが、終わり方も至極真っ当だったしこういった事実に即した社会派映画としては相当レベルの高い、なんなら今までの邦画では観たことがないレベルの素晴らしい映画だと思います。
上記のことさらマスコミについて言及する人たちと一緒で、正直あんまりこういうことは書きたくないんですがちょっと観る側のレベルの低さを感じざるを得ないレビューが多い印象で、やっぱり日本の(ライトな)観客層に評価させるにはこの実直な作りは難しいものがあったのかもしれません。稀に劇場で観る邦画も洋画と比べると確実に客層が悪いし…。もっとも日本だけに限らずどの国でもライト層はそうなのかもしれませんが…。
ただ腐ってもアメリカなんかにはこの手の映画は本当に多いので、その分観る側にもそういう素養が身についているんだろうと思うんですよ。受け入れる土壌というか。だからこそ社会において自浄作用が働く側面も間違いなくあると思います。
この映画の感想を拾っていく中で日本はまだそのレベルには至っていないことを改めて認識したんですが、映画の出来がとても良いが故にそこに気がついてしまうというのはなかなか皮肉な問題です。
おそらく、もっと劇的でしっかり強調された悪役が存在し、そいつを懲らしめて鬱憤を晴らす…みたいな映画にしたほうが喜ぶ人も多いんでしょうが、それをやらなかったからこそこの映画は価値があると思います。
事実は1人、もしくは1つの集団が原因を作っていて、それをやっつければ問題解決…なんて簡単な話ではないわけで、そういう事実にも目を向けさせる意味でも良く出来ている映画でしょう。
今後はこの作品がスタンダードとなって、日本の観客のレベルを底上げしていってくれればいいなと思います。
以前、この映画を観る前の話ですが、電車に乗っていると目の前に座っていたご夫婦らしき2人がデカいキャリーバッグを目の前に置いていて、邪魔だなと思いつつふと見たら「ダイヤモンド・プリンセス号」と書いてあるタグがあったんですよね。
当然、5年前を思い出しました。
あの件も遠くなり、もう無かったことのようにこうして楽しそうに旅に出る人もそりゃあいるよな…と思うと結構複雑な思いを抱いたんですが、この映画によってあの件は人々が忘れないように記録されたことに、この日の一件を思い出しながら感慨にふけったりしました。
物足りない部分や気になる点も確かにありましたが、タイトル通りに最前線で頑張っていた人たちの姿についてこれほどまで理解させてくれるものは他に観たことがありません。
ぜひいろんな人に観てほしい一本ですね。
このシーンがイイ!
1対1で話すシーンはいいシーンが多かったように思いますが、特に缶コーヒーを飲むシーンとその直後の電話のシーン、どちらもものすごく良かったです。
ココが○
やっぱり何と言っても「最近の出来事をリアルに描く社会派の邦画」が、真っ当な作りと高いレベルでようやく出てきたことがものすごく嬉しいです。やっとこういう映画が作られるようになったのか、と。
最後、脚色について触れていたのも印象的。
ある程度の脚色が入っていることも丁寧に説明してくれるのは間違いなく真摯な映画です。逆にいいとこ取りの映画はわざわざそういう話はしません。
ココが×
上に書いた通り、マスコミの描写だけちょっともったいないかなと。内容は正しいとしても、不要な“釣り”になってしまうので。
不自然なぐらい政治について触れられていないのも“釣り”になるのを恐れてなのかなと思ったので、政治について触れないのであれば同様に触れないか、もしくはもう少しサラッとで良かったと思います。
裏を返せば、その「政治について触れていない」点が不満でもありました。まあ当時の首相が亡くなってしまったので難しい側面もあったとは思いますが…。
MVA
この映画がとても良かったと感じたのは、邦画にありがちな大げさな演技が見られなかったことも大きいです。それはおそらく演者の技量もありますが、やっぱり監督の演出が地に足のついたものを望んだからなのかなと。
窪塚洋介なんて問題児の印象しかなかったですがすごく良かったし、ネイティブにしか思えない英語を話す森七菜もすごく良かった。(英語は苦手なものの猛練習したんだとか)
ですがやっぱり、この映画はこの人でしょう。
小栗旬(結城英晴役)
主人公。DMATの責任者で、対策本部のトップみたいな立場ですね。
小栗旬、こんないい演技するんだとびっくりしました。いい感じに歳を取ってきていて。
すごい人間臭いところが感じられて良かったですね…誰に対してもタメ口だったのがちょっと気になったけど。モデルの人がそうだったのかな?
松坂桃李の官僚はなんだかもうおなじみな気がしてきましたが、彼は彼で当然良かった。
正直、邦画を見直すぐらいにすべてのレベルが高かったと思いますね。なんなら乗客の外国人役の方が下手じゃない? みたいな。端役だからしょうがないんだけど。


