映画レビュー1469 『ゴースト・ドッグ』
今回もアマプラ終了間際系。
なかなか評判が良さげだったのと少し古い映画だったので観てみることにしました。
ゴースト・ドッグ
ジム・ジャームッシュ
フォレスト・ウィテカー
ジョン・トーメイ
クリフ・ゴーマン
ヘンリー・シルヴァ
イザーク・ド・バンコレ
トリシア・ヴェッセイ
1999年11月27日 日本
116分
アメリカ・ドイツ・フランス・日本
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

武士道と云ふは爺たちを懲らしめる事と見つけたり。
- “侍かぶれ”の殺し屋と、彼を利用する組織が対立・抗争化
- しかし組織は爺だらけで全体的にゆるい独特の雰囲気
- 言葉の通じない親友や読書好きの少女との交流等も独特の味わい
- 不思議な魅力のあるオンリーワン映画
あらすじ
「すげー面白かった!」って感じではないんですが、他にない魅力のある不思議な映画で良かったですね。すごくジム・ジャームッシュの色が出ているような気がします。ううん、詳しくないけど絶対そう。
ニューヨークで周りから「ゴースト・ドッグ」と呼ばれる男(フォレスト・ウィテカー)は殺し屋なんですが、「葉隠」を愛読していてかなり武士道に傾倒している様子です。
彼は自らの“ハンドラー”である、とあるマフィアの幹部・ルーイ(ジョン・トーメイ)の依頼で同組織のボスの娘・ルイーズ(トリシア・ヴェッセイ)に手を出した構成員のフランクを始末しますが、その場にルイーズも居合わせていたことから話がややこしくなってしまい、すったもんだの末組織から追われることになってしまいます。
ゴースト・ドッグが“忠誠”を誓っているのはルーイのみなので、己を守るために組織と対峙することになりますが…あとはご覧ください。
真面目な殺し屋なんだけどなぜかゆるくて笑っちゃう
武士道に忠実な殺し屋の話…なんですが、相手組織がマジで爺しかいない老人ホーム的な組織なのでまったく緊張感もなく、まあ本当にオンリーワン、独特な映画でした。
改めてご紹介すると、フォレスト・ウィテカー演じる主人公のゴースト・ドッグは「葉隠」を愛読書としていて、早い話が惚れ込んでいるわけですね。その世界に。
ワタクシ日本人でありながら恥ずべきことに「葉隠」は未読なので上っ面でしか理解していませんが、そんな僕よりもよほど武士道に長けた男、それがゴースト・ドッグだよと。
屋上で刀振ってたりもするんですが使用する武器は銃オンリーだし、その銃をしまうときにちょっと刀っぽい所作でしまうのがもう笑っちゃうんですがその辺見るとまさに「侍かぶれ」がぴったりの表現だと思います。
ただフォレスト・ウィテカーらしい朴訥とした雰囲気を持っていて、なんていうか…絶妙に「日本文化をバカにした感じに見えない」ラインなのが逆に笑っちゃいましたね。いいとこ突いてんな〜っていう。製作国に日本も入ってますがその辺の監修みたいなところも踏み込んでいるのか…定かではありません。
彼の行動原理はまさに侍そのもので、端的に言うとかつて(通りすがりに)危機を救ってくれたルーイに恩義を感じたために半ば勝手に彼の“家来”として振る舞うようになり、ルーイはあんまりそういう意識もなさそうなんですがとりあえず慕ってきてくれてるし殺し屋だしで殺しの仕事を外注するような関係になったようです。
殺し屋としての腕は確かなようで、今までもヘマをしたことはなく、また連絡手段がこの(世紀末当時の)ご時世でもびっくりの「伝書鳩のみ」というこれまた妙にゆるいルールを課しているおかげか情報が漏れるような心配もないというなかなか考えられた仕組みで信頼を勝ち取ってきたわけです。
「ボスがご立腹だ! 急いでゴースト・ドッグに連絡を!」って焦ったルーイとその仲間が部屋を飛び回る伝書鳩をいそいそと捕まえようとしますからね。笑っちゃうでしょそんなの。
しかしルーイの尽力虚しく組織とゴースト・ドッグは対峙することになるんですが、やむなく彼を消しに行く組織の構成員も爺丸出しなので屋上に住むゴースト・ドッグの元へ向かう階段を登っただけで息切れも著しくゼエゼエ言ってるんですよ。面白すぎるでしょ? せめてエレベーターがあるところに住んでくれてればよかったのにね、ゴースト・ドッグ…。
そんな感じで終始どこかおかしい、ちょっとしたシュールさを持った不思議な映画でした。
ゴースト・ドッグには「親友」と呼ぶ人物が一人いるんですが、公園でアイスクリームを売る彼はフランス出身で英語が話せず、ゴースト・ドッグとの会話はまったく通じていません。通じていませんが、意味はなんとなく合っているというミラクルもあってここもまたなんか妙におかしい。
その他にもゴースト・ドッグが持っているなんか良くわからないリモコン状のものを使うと車もあっさり盗めちゃうとか謎のハイテクが入ってくるのも妙にツボでした。特に説明もなく当たり前のように使ってるところが余計に面白い。
これ、他の映画みたいに普通に(?)配線取り出してバチッとやってもいいと思うんですが、それをやらずに謎のテクノロジーでトラブルもなく普通に日常の延長線上のように使って盗むのもなんか「侍なのに…」みたいなツッコミを入れたくなって笑っちゃいましたね。かっこいいこと言ってるけど普通に盗みだからね!? っていう。
あと相手のマフィアがやたらアニメ観てるんですよ。
ちょっと意味深な内容でもあるんですが、とは言えそんな深読みするようなものでもなくて基本的にはその絵面のゆるさがシュールさを醸し出していて。
ボスなんてもうずっと観てますからね。アニメ。
で、右腕的存在らしき爺さんは耳が遠かったりとかもう無茶苦茶ですよ。無茶苦茶で無茶苦茶面白いんですけど。
妙に記憶に残りそう
あんまり細かくアレコレ言うような映画でもないと思うので、ちょっと気になる人はぜひ観てみてほしいところです。
ある意味淡々としている映画なんですが、その淡々と進むところに結構な違和感が込められていて観ながらツッコミが止まらないような映画でした。
なかなか他にない味のする映画なだけに、妙に記憶に残りそうな気もします。
めちゃくちゃ刺さった感じではないんですが、それでもかなり面白かったなと思ったのでやっぱりこういう「他にない作り」は強いなと改めて思った次第です。
このシーンがイイ!
排水管? のシーンかなぁ。
なんでそんな手の込んだことするのよwwwって感じで最高でした。
ココが○
殺し屋の話なのにまったく殺伐としていないのが良いですね。とにかくゆるい。
あと他の映画でもちらほら見かけるRZAが初めて音楽を手掛けた映画っぽいんですが、おそらく彼の作品であろうヒップホップがこの妙な世界に妙にマッチしていてそこも面白いところ。
終盤ちょっと怖い感じのRZA本人が出てきて一触触発感出してるシーンも笑っちゃった。
ココが×
特にコレと言って不満はなかったかもしれません。
全体的にゆるいから割と何でも許せちゃうような雰囲気もある意味ではズルいなと。
MVA
老人たちも良かったんですが、やっぱりこの人でしょうか。
フォレスト・ウィテカー(ゴースト・ドッグ役)
主人公の殺し屋。葉隠の愛読者。
考えるとすごい不思議な役なんですが、それでも妙な説得力を持っているのはフォレスト・ウィテカーの佇まい故、な気がしますね。
根は人が良さそうだし、真面目そうだし、でも強そうでもあるし。もっと言えば葉隠にハマりそうだし。わかんないけど。
あとプライベートでも日本語のTシャツ着てそうだし。