映画レビュー1205 『フリーランス』
今回もJAIHOより。久々のタイ映画です。
ちょっとマニアックな国の映画はわざわざ選ばれる時点で期待しちゃうんですが…。
フリーランス
ナワポン・タムロンラタナリット
ナワポン・タムロンラタナリット
サニー・スワンメーターノン
タビカ・ホーン
ヴィオレット・ウォーティア
トーポン・ジャンブッパー
2015年9月3日 タイ
126分
タイ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
予想以上に洗練されていてレベルが高い。
- 連続徹夜記録を目指すぐらいの売れっ子デザイナー、身体の異変を感じて病院に
- かわいい担当医に惹かれつつ、休めと言われて仕事か身体かの二択を迫られる
- 仕事と身体の折り合いをいかにつけていくのかのワークライフバランスコメディ
- ラブコメでもありながら恋愛はサラッとしていて◎
あらすじ
多分「すれ違いのダイアリーズ」以来のタイ映画で、公開時期的にも1年違いで近いんですが…あの映画同様に自分の中での「タイ映画」の勝手な印象と全然違ってものすごく作りが上手く、なんなら邦画よりもレベルが高いような気がします。(最近の邦画ほとんど観てないのでいい加減な印象ですが)
主人公のユン(サニー・スワンメーターノン)は主に画像加工を得意とするグラフィックデザイナーで、タイトル通りフリーランスで働いていますが「天才」と称されるぐらいのかなりの売れっ子。
2徹はおろか3徹も4徹も辞さない、人間の限界に挑んでやるぐらいの徹夜を繰り返す激務で仕事を納める「いつか死ぬぞ」的な生活を送っております。
ある日、順調に(徹夜しつつ)仕事をしていた彼の首の後ろに何やらデキものが…。さして気にもせず放置していたら体中に発生してしまい、仕方なく病院へ行くことに。
最初にかかった病院は民間の病院だったため(日本とは保険等で料金体系が違うっぽい)に治療費が大変なことになってしまい、やむなく次からは安い公営の病院に行ったんですが…安いからか当然激混み。PS5抽選販売か、ってぐらいに大行列で200人近くお待ちです。皮膚科(多分)が混むのは万国共通なのか…。
しばらく待ってもう諦めて帰るか…と思ったところでようやく順番がやってきて診察室に入ってびっくり、担当のイム先生(タビカ・ホーン)は若くて美人の研修医でしたとさ…!
毎月一度通院するように言われ、診てもらって次回の予約をして…と少しずつ交流を進めるうちにイム先生が気になってくるユン。
身体を治すには休息が必要と言われるも、休むと別の人間に取って代わられることがわかっているだけになかなか休めないユン。身体か仕事か、どっちを取るか…そして恋の行方は…的な…!
ラブコメというよりライフコメ
ユンのように画像専門ではないですが、末端とは言え同じような仕事をしている人間として他の映画以上にいろいろわかるしすごく身近に感じられてまずそこが面白かったです。
僕はかつて途中うつらうつらしつつ2徹したことがあるんですが、2徹でも「起きてるのに自分の意志でマウスが動かない」ことがあって衝撃を受けたのにユンは1週間以上徹夜したりしてハードワークが過ぎます。途中絶対寝てるだろと思うんだけど…。
僕はフリーでもないし今も昔もこんな売れっ子状態になったことも無いんですが、自分のデザインの師匠に当たる人はフリーでほぼこんな感じの激務をこなしていて、家に帰るのは月に2日とかだったのを目の当たりにしていたこともあるだけに、もう主人公の環境からして生々しいし感情移入しちゃうお話でした。
フリーだとやっぱり「仕事を無くす」のが怖いんですよね。一回断っちゃうと仕事を振りにくくなるだろうし、仕事が減ってくると「あの人最近あんまり仕事してないらしい」とか噂が立っちゃったりして余計に仕事が来なくなる、という悪循環。
しかし休まないと今度は身体が持たない…というジレンマ。身体と仕事のバーター取引、どっちを選ぶのかの瀬戸際に追い込まれる主人公の姿がつらいやらおかしいやら。
これ、切実に描こうとすればだいぶ切実な話になるんですが、程よく軽くてテンポの良いコメディドラマなのであまり深刻にならないのも(本当は大変なことなんだけど)楽しめる良いポイントです。
物語はユンの心の声が頻繁に登場するので、彼の思っていることがわかりやすいのも感情移入を助けます。明け透けな心の声はおかしくもあるし、共感もできるから彼がかわいく見えてくるのも良いですね。
さらにコンビニ勤務の彼の友人ガイもいい味出してるし、ユンに仕事を依頼してくる“相棒”的な存在のジェーがまた良い。かわいい。
一応ジャンルとしてはラブコメで実際ラブコメなのは間違いないんですが、ただユンと先生の絡みは基本的に診察だからサラッとしてるし、恋愛要素は「メインの中の一つ」ぐらいの比重で、その他のワークライフバランスであったり人生そのものであったり友情であったりも同じぐらいに重要な要素になっているのがとてもいいと思いますね。
ベタベタな恋愛じゃないし、「その他もあってこその人生、生活」である視点が感じられます。なので「ラブコメ」と言うより「人生のコメディ」でライフコメって感じ。
恋愛描写としてはドライなので誰でも観やすいし、二人ともかわいげがあって嫌味さも無い。
「仕事がすべて」に対するアンチテーゼ的な側面もあるし、友情の大切さも描かれているので、本当に「生きること」について端的に面白おかしく考えさせるとてもいい作品だと思いますね。軽めの話でありながら、その実ものすごく洗練されていると思います。すごく巧み。
「すれ違いのダイアリーズ」とまったく同じように「タイ映画すごいな!」と驚きました。
JAIHOの回し者
時折かなり外すこともあるんですが、やっぱりこういうあまり他で見かけない良作を持ってきてくれるJAIHOは本当にありがたいですね。本当に応援してます。マジで。マジ応援。
この映画ももう配信が終わってしまっているので、再度登場しない限りはなかなか観られないのが非常に惜しいです。
なので改めて、ちょっと変わった映画を観たい人にはJAIHOをオススメしておきます。月額770円。安い。
このシーンがイイ!
毎月翌月の診察を予約して、先生に予約券的なものに日付を書いてもらうそのチケットが物語の進行を表している演出が最高に好きです。めちゃくちゃオシャレでかわいい。
ココが○
比較的淡々とした物語なんですが、スピード感があるせいか全然飽きさせないし本当に巧みだと思います。これで初めてタイ映画を観る人は絶対びっくりすると思う。おでき的なもののカウントとかもすごくオシャレでそれがまた笑っちゃう。
ココが×
あまり劇的にビシッと決まる話でもないので、その辺りは賛否ありそう。サラッと終わります。
MVA
皆さん良かったですが、お気に入りはこちらの方。
ヴィオレット・ウォーティア(ジェー役)
ユンに仕事を振る制作進行的な女性。おそらくはユンをよく使う代理店の社員、ってところでしょうか。
上に書いた通り、正直言うと個人的な好みで言えばヒロインより(彼女もかわいかったんですが)かわいくて、これは違う展開もあるのでは…? と思っていましたがそういう陳腐な話に持っていかなかったのも好感が持てます。いつもメット被った配達員的な人を従えてるのがなんか笑える。
ちなみに調べたところタイとベルギーのハーフで、歌手でもあるそう。生まれはなんと横浜だそうです。日本とどういう関係があるのか気になる…。