映画レビュー0866 『天国と地獄』

少し遅れましたが、これよりまた平常運転ということで。また今年もボチボチ映画を観て行きたいと思います。

やっぱりその年の一発目というのは「よし、これで始めるか!」とそれなりに選ぶ気持ちが強いんですが、今年はパッと目についたコレだ! ということで珍しく邦画からスタートしたいと思います。

同時に今年は録り貯めてある黒澤映画を消化していこうかな…と考え中。

なお、今年から記事中に小見出しをつけることにしました。それと同時に重複し気味だったあらすじを本文掲載のみにします。どうでもいい情報ではありますが、一応。

天国と地獄

High and Low
監督
脚本
黒澤明
久板栄二郎
原作
『キングの身代金』
エド・マクベイン
出演
仲代達矢
香川京子
石山健二郎
佐田豊
加藤武
名古屋章
三橋達也
伊藤雄之助
音楽
公開
1963年3月1日 日本
上映時間
143分
製作国
日本
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)
天国と地獄

三段階のフェーズで飽きさせず、リアリティのある誘拐事件を描いた傑作。

8.5
人違いの誘拐事件、それ故苦悩する被害者とそれをあざ笑う犯人
  • 間違えて運転手の息子を誘拐してしまった犯人と、運転手の雇い主の心理戦
  • 序盤は被害者、中盤は警察、終盤は犯人目線で描かれて飽きさせない
  • 特急こだまのシーンは今でも迫力満点
  • 最後に明かされるタイトルの意味に唸る

あらすじ

世界のミフネ演じる主人公、権藤さんは「ナショナル・シューズ」という靴メーカーの常務なんですが、他の幹部を家に招いての幹部会で今後の方向性に相違が生じ、一人孤立する危険性に直面します。

が、それも織り込み済みの権藤さんは先手を打っていて、理想の靴を作るため心を鬼にして「ナショナル・シューズ」を乗っ取るぞという局面。ここから株主総会に向けての数日間が人生において最も重要な日々になる…ところになんと「おたくの息子を誘拐したから3000万円払え」とお電話が。

しかし直後に息子の純が戻ってきて、誘拐されたのは純と一緒に遊んでいた、運転手・青木の息子、進一であることが判明。

当初は「人違いなんだから払わなくても開放される」と考えていた権藤さんですが、次第に犯人ペースに巻き込まれ、身代金を払わなければ解決の目処が立たない状況に。

また支払いを懇願する青木や権藤妻の説得もあり、「身代金を払ってすべてを失うか、払わずに会社を乗っ取って自らの理想を追い求めるか」の岐路に立たされます。

果たして権藤さんは身代金を払うのか、そして犯人は誰でその目的は…と言うようなお話になっておりますよよよ。

当時の刑法改正につながった誘拐事件サスペンス

劇中でも諸条件から「刑が軽い」話が挙がるんですが、そのせいかこの映画の公開後は誘拐事件が多発したらしく、それだけリアリティのある内容かつ犯人の狡猾さが際立つシナリオだったことが伺えます。またその影響で刑法が一部改正されたんだとか。

身代金の金額にしても、当時の相場観(と言って良いのかわかりませんが)から見ても3000万円というのはかなり高額だったようで、それだけ社会に対するインパクトも大きい話だったんでしょうね。

この頃で3000万円だから…今の価値に置き換えたら10倍ぐらいにはなってるのかなぁ。それだけ犯人としても自分の計画に自信があり、またその自信を裏付けるかのように(特に序盤の)犯人の優秀さの描写が目立つ内容で、それは裏返すと観客側の「捕まえられるんかいな」という“敵の強大さ”を強調する役割も担っていて、なかなかに惹き付けてくれるとても良いサスペンスだと思います。

やっぱりすごいッスね黒澤映画

僕は「黒澤映画だから」上げ底で褒めようとは思っておらず、フラットに観るように心がけているんですが、その上で「やっぱり黒澤監督ってすごいんだな」と毎度のように思わされるんですよね。

これには黒澤組の主要キャストである三船敏郎や志村喬の演技力ももちろん手伝っているんだと思いますが、でもやっぱり脚本も演出も良いんだと思うんですよ。演出なんてよくわかってませんが。

特に中盤に出てくる特急こだまでのシーンはスピード感も緊張感もずば抜けていて、率直に言って「50年以上前の邦画でここまでのものが作られているとは…」と衝撃を受けるぐらいのものがありました。

黒澤映画って、僕がぼんやりとイメージしている「邦画のイメージ」より全然重いんですよね。重厚なんですよ。

それは絵作りにしても芝居にしてもそうなんだと思います。やっぱりこの映画にしても他の黒澤映画にしても、今の(一般的な)邦画と比べると重みがあって、観ていて疲れるし観終わった後の読後感ならぬ観後感の引きずり方もまるで違うわけです。

もちろん、今の邦画でもこれぐらいズシリと重く感じられる映画もあるんだろうと思いますが、それでも脂の乗っていた時期の黒澤監督ほど常に力強さで圧倒されるような映画を作っている人というのはちょっと想像しづらい気もするし、これはもう監督のカラーとしてやっぱり重い映画寄りの人ってことなんでしょうね。

今さら何言ってんだよって話だとは思いますが。(おまけに邦画に詳しくない人間の戯言ですが)

言ってみればコッポラみたいな、っていうかコッポラっつーかゴッドファーザーじゃねーかよってな話なんですが、あれもやっぱりコッポラじゃないと出せない重さがある映画だろうと思うし、そういう監督としてのカラーを改めて感じさせられる映画だったなとふと思ったわけです。

リアルな脚本の良さ

サスペンスとしても、オープニングで語られる「人生を賭けた会社乗っ取り」のフリがあっての身代金要求というジレンマがひどく効いていて、「ただお金を払う」わけじゃない前提が後々の物語にも影響してくる辺りがとても上手い。

序盤はその被害者である権藤さんのジレンマを中心にジリジリとした心理戦を中心に描くわけですが、中盤以降は警察の捜査が中心に描かれるようになります。

この警察捜査の描写もとてもリアルでですね。今はもちろんもう少し違ったものになっているんでしょうが、しかし「合同捜査本部」を作って各捜査の進捗を報告しあう会議だったり、マスコミの利用の仕方であったり、きっと形を変えて今もあるんじゃないかと思わせる「警察のリアル」もまた興味深く、いちいち丹念に調べて作ったんだろうなと思わせる脚本は見事でした。

黒澤明と言えば時代劇のイメージが強いんですが、なんのなんの現代劇もすごいんだなと感心。

黒澤映画最初の1本としても

終盤は犯人を中心にした展開でエンディングに向かっていくわけですが、ここで知らされる「天国と地獄」の意味がまた…唸りましたね。「あっ、そういうことなのか!」と。素晴らしい。

総じて「安心して観られる昔の邦画」の1本だと思います。現代劇と言うこともあってか、比較的(他の黒澤映画で感じた)セリフの聞き取りづらさみたいなものもあまり無いし、「黒澤映画最初の1本」としてもとても良いチョイスなのではないかと。オススメ!

ネタバレ地獄

って言うほど過酷なものじゃないんですけど。

元々ラストシーンは違う形(拘置所で戸倉警部と権藤さんの会話)だったそうですが、山崎努(若い!)の熱演を監督が気に入ってこの形になったんだとか。

コレはきっとラストシーンが前倒しになった、ってことなんでしょうね。その後に入る予定だったシーンをカットしたと。

となるとなおさらこの「天国と地獄」の意味を訴えたシーンが心に残る気がして…良い幕切れだと思いますねぇ。しみじみとねぇ…。

僕はてっきり「天国から地獄に落ちた権藤さんがまた天国に戻る」ようなアップダウンの物語なのかと思って観ていたんですが、そんな話よりこっちの方が全然良いですよね。

実際のところ権藤さんは(事件の影響もあって)「天国」でもないわけですが、いわゆる「持てる者と持たざる者」が事件の背景にあった、というのは当然今でも通用する話でもあるし、それを覆せずに死刑で終わる犯人の姿は、“悪”であることは間違いないものの、どこか悲劇的な宿命を帯びているようにも見えて、それがまたなんとも言えないやるせなさにつながるんだろうと思います。やっぱりあの独白が衝撃になって評価をもう一段階高めてくれたような気はしますね…。

このシーンがイイ!

これはやっぱり特急こだまのシーンでしょう。純粋に「よくこの当時こんな映像撮ったな〜」と驚きました。さして技術的に詳しいわけでもないくせに。

ココが○

誘拐事件の描写のみならず、その背景も含めてとても良く出来ている話だと思います。最後はハッとさせられたなぁ。

ココが×

終盤ちょっとだけ退屈な感はありました。というかちょっと眠くなった。

MVA

世界のミフネは相変わらず素晴らしいんですが、見慣れたミフネさんよりもまだ若手で今も活躍中の二人、仲代達矢と山崎努が目立ったような感はありました。

ということで選んでこちらの方に。

山崎努(竹内銀次郎役)

まだド新人の頃だったようですが…今これほど熱演できる人、いない気がする。ラストの一連の演技でこの人だなと。

他には「ボースン」のハゲ刑事、石山健二郎もすごく良かったですね。

あとは志村喬の出番がもうちょっと観たかった…。

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