映画レビュー1369 『ファストフード店の住人たち』
今回はJAIHOの配信終了間近のものから適当に。
年の瀬なんでね…こういう話が観たくなるよね…。
ファストフード店の住人たち

一種のファンタジーとして。
- それぞれの事情によりファストフード店で寝泊まりする人々
- みんな顔なじみで擬似家族のような関係を築いている
- 助け合いながらなんとかより良い人生にしようともがく
- 主演がイケオジすぎて浮浪者に見えない問題
あらすじ
ネット上では賛否分かれている感じがありますが、僕は結構グッと来てしまいました。人情物に弱いんでね…。
かつて金融業界でブイブイ言わせていたポック(アーロン・クォック)は横領の罪によって服役、出所後はホームレスとして日銭を稼ぐ毎日です。
彼は夜になるとファーストフード店にやってきてそこで寝泊まりするんですが、その店には彼と同じように暮らす親子であったりおじさんであったり数人の“住人”がいて、それぞれ助け合いながら生活しております。
その中でもポックは面倒見の良さと顔の広さ、そして器量の良さからリーダー格として頼りにされていて、新たに家出した少年に「ホームレスとしての生き方」を教えていきます。
それぞれに“ワケアリ”ながら助け合いつつ、先の見えない生活を送る人たち。しかし当然、そのまま生活していくわけにも行かず、嫌でも環境は変わっていくんですが…はてさてどうなるでしょうか。
やりすぎかもしれないけど…
適当なあらすじでサーセン。ちょっと補足します。
主人公はアーロン・クォック演じる元金融マンのポック。イケオジすぎてまったくホームレスに見えません。調べたら「コールド・ウォー」の人だったんですね。でもあのときより全然かっこよく見えました。あのときより髪型が好きだったのかもしれない。(浅い感想)
オープニングでは兄嫁と衝突して発作的に家を飛び出した少年が主人公っぽく登場し、彼がポックに弟子入りするような形で現地のファストフード店(モデルはマクドナルド)に集まる人たちを紹介していくような流れなんですが、実際問題この少年がまずいらねーな、と思うぐらいには結構微妙なキャラクターで、なんで彼をスタートに据えたのかがよくわかりませんでした。新しく混ざる人をもってメンバーのご紹介であれば、もっと(他のメンバーと同じように)苦しい状況の人で良かったと思うんですよね。
少年はただの家出だし、態度もキッズ丸出しで敬うところもないのでイライラさせられるばかりで。
それはそれとして、他には母子家庭らしき親子、ずっと「誰か」を待ち続けるおじさん(通称待つおじ)、絵が上手い謎のおじさんといった面々。
待つおじはお金に困ってはいないようなんですが、それ以外の面々は基本的に貧困層でその日暮らしです。ただこの24時間営業のマックはそんな人たちも黙認しているようで、特に注文したりしてなさそうなんですが一応そこで暮らしているよ、と。
そしてかつてブイブイ言わせていた時代のポックと知り合い、密かに想っていた場末の歌手ジェーンも仲間に入り、それぞれの日々をなんとか良くしようと助け合って生きているような状況。ちなみに母娘のお母さん(確かイン)がいくつか掛け持ちしているバイトのうちの1つはジェーンが働く酒場です。
フィルマークスのレビューを見ると、「すごく良かった」と感動した人がいる一方で、「これほどまで陳腐な脚本は観たことがない」と酷評する人が結構いて「そこまで怒るほどか!?」と不思議でした。
確かにいろいろ引っかかる点はあります。彼らの「つらさ」が際立つようなエピソードがことごとく登場するし、そもそも中心的な舞台であるファストフード店の顔が見えてこない。不自然なほど店員さんも出てこないし、彼らがお金を落している気配もない。
なのでこれはきっとファストフード店を一つの小さな社会に見立てた映画なんじゃないかなと思うんですよ。ぶっちゃけ(タイトルに入ってはいるものの)ファストフード店じゃなくてもどこでもいいわけです。ただ貧しい人たちと、彼らに情を持つ人たちが寄り添ってその日を生きていく物語なんだろうと。
事実、タイトルに入っている割には外でのお話の方が圧倒的に長く、「寝泊まりはファストフード店でしてます」ぐらいの意味合いしかないとも言えるし、やっぱりお店云々について考えるのはきっと的外れなんでしょうね。
そして「悪い方に進むご都合主義」的な流れについても、これは観た人たちが常にそういう人たちをどう見るか、どう捉えるのかを考えさせるためのある種のファンタジーなんだろうと思うんですよ。行くところまで行くとこうなるよ、それでも見過ごすんですか? という問い。
確かにやりすぎな展開もあったとは思いますが、とは言えそれは当事者としては必死なのも当然だし、「くだらねえな」で済ませる人はストレートに人として冷たすぎるんじゃないかなと思います。
それともう一つ考えたいのは、これが香港映画であるということ。
かつてイギリス統治下で映画の文化が花開くも中国に返還され、この映画が作られた当時から今においてもさらに(民主主義的な)状況は悪化し、どんどん中国化が進行している香港において、「虐げられている人たちの物語」を作って考えさせようとする姿勢というのは、おそらく(声高に言わないでも)反大陸的な思想が入ってきてる気がしてならないんですよね。
それ故に「このまま行くとこういう人も増えますよ、その時あなたはどうしますか?」という問いも重なっていると思えてなりません…。
そりゃー日本で観てたら嘘くさいとかあり得ないとか思っちゃうのも仕方がないとは思いますがぶっちゃけそれは平和ボケ以外の何物でもなく、きっと香港で忸怩たる思いをしている人たちにとっては一笑に付すわけにもいかない切実さがあるはずで、だからこそファンタジーのような「現実味のない不幸」を見せて人々に考えてもらいたかったんじゃないかな、と思うんですよね。僕は。
ポックは幸せだったのか
まあやっぱり「くだらない」「陳腐」と言っちゃう人の多さを見て、日本がどんどん冷たい社会になってきている気がして暗い気持ちになりました。
いつ自分がこういった立場になってしまうのか、そんなことは誰にもわからないのに下に見て蔑んでおしまい、はちょっと心のほうが貧困すぎやしませんか、と言いたい。
観ていて僕はずっと、果たしてポックはブイブイ言わせていた頃と今とでどっちの方が幸せなんだろうか…と考えていました。明日をも知れぬ貧しい暮らしの今の方が実は幸せなんじゃないか、と。
もちろんそんなことはわからないし、そう見えるように作られているのも理解しつつ、でも「寄り添う以外に方法がない」状態で見えてくるものって絶対にあると思うので、そこに気付けたポックはやっぱり幸せだったと思うんですよね。
もちろんそうではない部分もあって、特に家族については悔やんでも悔やみきれない後悔しかないだろうし、「100%幸せ」ではないのもまた間違いないでしょう。
ただちょっとしたことに喜びを見出したり、それこそ文字通り“生きてる”と感じる機会はきっとホームレスになってからの方が多かったんじゃないかなと思うし、そこがきっと一つの救いになる物語なんじゃないかなと思います。
年の瀬故に社会についていろいろ考えてしまいウダウダ書きましたが、人情物語的な話が好きであれば観てみると良いでしょう。ただ評価は分かれているのでそのつもりで。
最後にどうでもいい余談ですが、僕がもっと若かった頃、渋谷で合コンして終電近いときに「次も行こう!」と盛り上がった…かと思いきや先輩が急にブチギレて場が白けて解散になり、「女子と仲良くなれなかった上に帰ることもできない」状況でやむなくマックで1泊したことがあります。
周りは外国人だらけでうるさくて寝るに寝られず、ただテンションが下がった状態で呆然と始発を待っていたあの日を思い出す映画でした。
酔ってキレやすくなる人間は最低だと思うので、みなさんもゆめゆめお気をつけて頂きたいところです。
このシーンがイイ!
ベタですがその後の活かし方も含めて「自撮り」のシーンかな…。さすがにいい写真でした。
それとエキストラのバイトのシーンは珍しく笑いもあってあそこも良かった。
ココが○
それぞれ生きるために何をして“何をしない”のか、選択が見える話が良かったと思います。自分だったらどうするか、どこまでプライドを捨てられるのか…いろいろ考えちゃいますね。
ココが×
インの貧困の原因については「さすがに逃げるべきでは」と思いますよね、あれはね…。贖罪の意識があったにせよ、娘のことを思えばどこかで見切るべきで、それが出来ないのは周りが見えてないと言われても仕方がないかなと思いますが…思考停止にならざるを得ない状況でもあったからそれもまたやむを得なかったのかもしれません。
それと最初に書いた通り、家出少年はいらなかった気がする。
MVA
この人かなぁ。
ミリアム・ヨン(ジェーン役)
場末の酒場で歌う女性。売れないまま夢も捨てきれず、落ちぶれたポックも捨てられずに生きる女性。
客観的に見ればもったいない、バカな人生を歩んでるなと思いますが、ただその分情が深くて素敵だなとも思います。
彼女はファストフード店に行く必要はまったくないのに、ポックの存在が大きかったとは言えそこでの人間関係を大切に日々を過ごす、包摂を絵に描いたような人に見えましたね。
ホームレスだらけの中でこういう外からの人は対外的にも大きな存在だったと思うし、そこに少しの救いも感じました。
もう若くはないけど美しさも感じさせる雰囲気も素敵でしたね…。
それとインを演じたリウ・ヤースーもかわいくて気の毒でよかった。