映画レビュー1357 『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』

毎年恒例の年末進行がやってまいりました。おそらく年明けまで以降毎日更新になります。

ですが今年はレビューもジャケ絵もまったく追いついておらずピンチなんですが、まあなんとか適当にさばいていこうと思います。

ということで今回はウォッチパーティより。珍しくちゃんとした映画が選ばれました。(ちゃんとした映画とは)

LION/ライオン 〜25年目のただいま〜

Lion
監督

ガース・デイヴィス

脚本

ルーク・デイヴィーズ

原作

『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』
サルー・ブライアリー
ラリー・バットローズ

出演
音楽
主題歌

『Never Give Up』
シーア

公開

2016年11月25日 アメリカ

上映時間

129分

製作国

オーストラリア・アメリカ・イギリス

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(ウルトラワイドモニター)

LION/ライオン 〜25年目のただいま〜

過酷ながら希望も感じる良作。

8.5
ちょっとした行き違いで家族と離れ離れになってしまった5歳児
  • 家族と離れてしまい、戻ろうにも家がわからない5歳児
  • やがてオーストラリアの夫婦に引き取られ、大人になった後に本当の家族を探す
  • インドで問題になっている大量の行方不明児の一事例
  • 実話系だからこその希望も

あらすじ

見るからに「いい映画なんだろうな」とは思うものの地味そうでなかなか自分からは観に行かないタイプの映画なので、こうしてウォッチパーティみたいな機会で触れられるのは大変ありがたいですね。そして思っていた通りにとても良い映画でした。

インドの貧困地域で暮らす5歳児のサルー(サニー・パワール)は、貧しいながらも家族で仲良く暮らしております。

ある日の夜、兄が出稼ぎに行くというのでダメだと言われても無理矢理付いていくサルー。お兄ちゃん大好きっぽいですね。

やがて駅に到着するともうすでに眠いサルーは兄の手伝いなど忘れて駅のベンチで寝てしまい、仕方なく兄は「そこから動くんじゃないぞ」と伝えて出稼ぎへ。

その後目覚めたサルーは兄を探して停車中の列車に乗り込んだところその列車が動き出してしまい、しかも運悪く貨物だったために地元から遠く離れた街(どこか忘れたよ)までノンストップでたどり着いてしまいます。

街行く人に声をかけてなんとか警察まで行きますが、地元の正しい名前がわからないサルーの証言では家族を探し出すこともできず、やむなく少年院のようなところに収容されてしまいます。

その後オーストラリア人の夫婦が彼を迎い入れたいとのことでさらに遠く離れたオーストラリアに養子としてもらわれていったサルーは成長し、デーヴ・パテールとなって美人の彼女(ルーニー・マーラ)までゲットして順調な人生を歩んでいるように見えますが、ある時急に過去のインド時代がフラッシュバック。

本当の家族、本当の母親の存在を思い出した彼は、Google Earthを使ってかつての家を探そうと行動を始めますが…あとはご覧ください。

育ての親が素晴らしい

ノンフィクションの回顧録『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』を原作とした映画で、例によっていろいろ脚色も入っているとは思いますが大枠は実話の物語です。タイトルでネタバレしている気がしますがまあそこは目をつぶりましょう。

「5歳で家族から離れ、一人異国の地で育つ」という経験からして壮絶ですが、むしろたどり着いた異国の地及びその両親がかなり恵まれていたことからも「不幸中の幸い」のような側面もあり、実際はこんなに恵まれた人生を歩めずに“行方不明のまま”貧困に喘いで暮らしていたり、もっとひどいと成長すらできずに子どものまま亡くなってしまう子たちも多いであろうことが伺い知れるのがなんともつらい。

インドでは毎年こうした行方不明になる子どもが結構な数いるそうで、そもそも「親元から離れてしまう」不幸自体がしんどいのは間違いないんですが、それでもやっぱり“その中では”サルーは相当に幸運だったのも事実でしょう。英語圏の国に行ったのも大きい気がしますね。やっぱり英語が使えると様々な活動がしやすいのは確かだろうし。

オーストラリア人夫婦がインド人の孤児(厳密には孤児では無いんですが)を迎え入れるというのもなんだか突飛な気がしたんですが、その辺りの価値観を体現する育ての親のご両親がまた素晴らしい。日本人でここまでできる人はいるんだろうか…とちょっと考えたりもしました。人種云々ではなく、国としてここまで包摂の意識を持てる社会ができていないし、そもそも養子縁組自体が“普通の”出産育児より下に見られているような価値観もあるだけに、いろいろ難しいなぁと本題とは逸れたところで考えちゃいましたね。

成長したサルーは明るく優しく優秀な人物に育ったみたいなんですが、彼と同じく養子縁組の“弟”として一家にやってきたマントッシュがかなりの問題児で、成長後も家族を悩ます存在になっているのもまたいろいろと考えさせるものがありました。

ぶっちゃけサルーは迎え入れた両親にとってもとても良い子どもだったと思いますが、必ずしも誰もがそうではない…という厳しい現実を弟の存在が示していて、他人事として言ってしまえば「余計な荷物を背負い込まされる」ような形になっていながら、それでも受け入れてなんとか自分たちの役割を全うしようとするご両親が本当に尊い話だなと思います。

なので実はサルー自身もそうですが、それ以上に彼を含めた家族の形を問うような話にもなっていて、そこが奥行きを感じさせてよかったとも思いますね。

一方でルーニー・マーラ演じる彼女の存在はなんだか微妙な気も。あんまり必要性が無いと言うか…。かわいいんだけど。むしろ「ルーニー・マーラが彼女になってくれる未来が来るなら俺も迷子になればよかった」みたいな余計な雑念を招きかねないのがつくづく残念です。

残念なのはお前だ…!

最後の最後にやられた

僕はこの映画を観ていて、キャンプ場で失踪してしまった女の子の事件を思い出しました。ちょっとだけ目を離した隙にいなくなってしまった彼女の未来がこういうものであれば、親御さんも多少は救われるのにな…と。同時に「こういう可能性もある」と一生諦めきれなくなってしまう気持ちもわかってそこも辛かったんですが…。

かなり劇的な話だとは思いますが、全体的に抑え気味で誠実な作りなのも好感が持てます。その分地味ではあるんですが、きっちり「何が大事なのか」を感じ取れるようなセリフとシーンの見せ方はとても良かったと思います。

事実を淡々と提示するだけではあったんですが、最後の最後に泣かされる見せ方も上手く、これは本当に「いい映画」のお手本みたいな作品だと思います。

これもまたきっと「観る人が増えれば世の中が少し良くなる」映画の1つでしょう。オススメです。

このシーンがイイ!

ネタバレにならない差し障りのないところで言えば、少年期のサルーが引き取られた先で母親に寄り添う優しさを見せるシーンはちょっとグッと来ちゃいましたね。いい子だな、と…。

ココが○

やっぱり実話の強さでしょうか。これが創作だとどうしても一段落ちると思うんですが、実際にこういう少年、そしてご家族がいるというのがただただすごい。

ココが×

特に大きな問題点は無いですが、上に書いた通りやっぱりちょっと彼女の存在が微妙。彼女自身に問題はなく、単純に比重としてルーニー・マーラまで使ってそこにいさせるほど重要人物には見えなかったというか。

MVA

少年期のサルーがすごくかわいくて印象的でしたが、演技的にはこの人かなと。

ニコール・キッドマン(スー・ブライアリー役)

サルーを引き取ったオーストラリア人の母親。

ちょっと美人すぎやしないかいと思わなくもないですが、その凛とした佇まいで子どもを守ろうとする強い意志が感じられてとても良かったですね。セリフもすごくいいのが多くて。

主人公のデーヴ・パテールは軽い役しか観たことがなかったので、この役みたいな真面目で重い役は結構意外だったんですが(当然)きちんと演じられていてこちらも良かったです。

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