映画レビュー1358 『マダム・ヌーの家』

JAIHOより。多分初めてのベトナム映画です。

こういう珍しい国の映画が観られるのは本当にありがたいですね。

マダム・ヌーの家

The House of No Man
監督

チャン・タイン

脚本

Hoang Ngoc Huyen Tran

出演

レ・ザン
フイン・ウィエンアン
カ・ヌー
チャン・タイン
ゴック・ジャウ
ソン・ルアン

音楽

ヌゴ・ミン・ホアン

公開

2023年1月22日 ベトナム

上映時間

103分

製作国

ベトナム

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

マダム・ヌーの家

みんな絶妙に好きになれない感じが◎。

8.0
恋愛を厳しく禁じる毒母 vs 反発して恋愛しちゃう系女子
  • 大人気カニ麺店を営む一家の大黒柱は女主人マダム・ヌー
  • 旦那に捨てられた過去から男を敵視するマダムに反発し、彼氏を作る“看板娘”の次女
  • さらに妊娠も発覚、問題は徐々に大きくなっていくが…
  • こなれた作りで安心して観られる

あらすじ

初のベトナム映画ということでハテどんなもんじゃろと少しアクの強い可能性を覚悟していましたが、いやはや全然普通に観られて面白い映画でした。

ここは行列のできるカニ麺店、マダム・ヌーの家…! いやお店の名前は違うと思うけど。

タイトル通り、マダム・ヌーが取り仕切るお店は2階が住まいになっているよくある家なんですが、そこにはボスであるマダム・ヌー(レ・ザン)を中心に、その母ガー(ゴック・ジャウ)、長女ニュー(カ・ヌー)とその夫ニュアン(チャン・タイン)、そして次女のニー(フイン・ウィエンアン)の5人で暮らしております。

ギャンブル大好きなおばあちゃんのガーは気ままに暮らしていて、長女は美容系インフルエンサーとして動画作成に勤しみ、その夫のニュアンは妻にも義母にもいいようにこき使われ尻に敷かれる日々。次女ニーは学生ですがお店の手伝いもしていて、一部は「ニー目当てで店に来る」ぐらいに評判の看板娘です。

マダム・ヌーはかつて夫に出て行かれた経験から男を敵視していて、ニーの恋愛は絶対に許さないと門限等もかなり厳しく、ほぼ束縛しているような状況。

「言うて長女は結婚しとるやん」と思うんですがその時もかなり一悶着あったようで、その煽りも受けて自由に生きられないニーは腹いせのように親友のいとこであるジョン(ソン・ルアン)と隠れてデートを重ねます。友だちと飲みに行きたいニュアンを利用してね…!

しかし当然隠し通すこともできず、やがて大変な事態へと発展するわけですが…あとはご覧ください。

絶妙なリアルさ

ベトナム産女家族(+マスオさん的婿)ドラマ。

僕よりもさらに上の世代がよく観ていたような家族ドラマみたいな映画だなとふと思いましたが、最近こういう家族をテーマにしたドラマってあんまり見ない気がしますね。そもそもドラマ観てないからかもしれませんが。

結構絶妙に(主人公のニーを含め)各人難があり、みんな好きになれない微妙なキャラクターだなと思うんですがそこがリアルで非常に良かったです。第三者としては「もっとこうすればいいのに」と思うんですが、当事者としてそれができないのもまた人間、と。そこも含めてリアル。

結構今の時代ならもうちょっとフェミニズム的な流れに寄っていきそうな気がしたんですがそれもなく、お国柄なのか確信犯なのかはわかりませんがそこがまた観客に媚びてない感じがしてよかったですね。登場人物の振る舞いが良い悪いではなく、話の総体として妙にコンプラ意識に寄せていない感じが良かったというか。

そこがまたリアルなんですよ。そればっかり言ってますけど。現実社会だったら多分こうなるよな、っていう。

一方でマダム・ヌーの毒親っぷりはなかなか見ないレベルで凄まじく、まあよくこんな母親の元で暮らせるよな…と誰もが思うに違いありません。さっさと出て行けばいいのにって話なんですが、それができないぐらいに幼少期から力関係を植え付けられていて服従せざるを得ない状況なんでしょう。

その反発故に恋をし、その先に家族の成長が見えてくるお話なんですが、最終的な落とし所にありきたりさはありつつ、でもちょっと意外な展開もあったりして楽しめました。共感はできなくても雨降って地固まるならいいんじゃない? みたいな。

完全に偏見にはなりますが、やっぱり発展途上国の映画はどうしても一段落ちても仕方がない…とハードル低めで観てしまうものの、さすがにこれだけあらゆるものがボーダーレスになってきた現代においては、各国の映画製作者は自他国の優良な映画を吸収してみんな質が高くなってきているんだなと改めて思います。

今作も演出・演技・映像どれをとっても他国の映画と引けを取らず、ベトナム映画もレベルが高いんだなと新たな発見があって嬉しかったですね。

ちなみにこの映画は本国でも歴代興行収入1位を記録したほどの大ヒット映画だそうで、さぞかし名監督なんだろうと思ったらあの情けない婿(じゃないんだけど)的な存在であるニュアン役の人が監督だとか。びっくりだぜ…!

僕とあんまり年齢も変わらなそうな感じだったし、(監督としては)若い人が歴代興行収入1位の映画を作る、っていうのは業界に元気がありそうでとても良いですね。今後も期待したいところ。

悪くないよ

ちょっと調べたところでは世間的には「まあまあ」と言った微妙な評価っぽいんですが、そう言いたくなる気持ちはよくわかりつつ、でもそこそこ裏切りもあるし言うほどありきたりでもないので悪くないと思いますよ。本当に。

もちろん詳細は書けませんが、「裏切り」っていうのはびっくりするような展開とかではなく、「あ、そっちに行くんだ」みたいな意味での裏切りで。結構割り切った作りじゃないかと思うんですよね。

全部が全部フォローはしない、そこに現実味を持たせている気がして、なかなか巧みな部分もあったように思います。

他のベトナム映画も観てみたいところですね。

ネタバ・レーの家

大したネタバレではないんですが。

意外性という意味ではいくつかあって、まずニーがジョンと結ばれないのが結構意外。なんだかんだあって戻るのかなと思いつつ観てたんですが。最後ずっと近くにいた彼にチャンスをあげる、っていうのも僕は嫌いじゃないですね。

それとマダム・ヌーの再婚は結構びっくり。あの近所のおっさん良いやつだなとは思ってたけどまさか結婚まで行くとは。

そして一番意外だったのはニュアンが出ていったまま出てこなかったこと。絶対最後の方でまたニーと会って「お前は頑張れよ」みたいなのが挟まると思ってたので、変にいい人っぽい印象を残さないのがいいなと。監督自身の役を良く見せすぎない、みたいな。

どれも細かい部分ではあるんですが、それぞれちゃんと切るところは切る感じがしたのが個人的には良かったです。全部フォローしようとすると多分くどくて嫌になっちゃう。

このシーンがイイ!

おばあちゃんがへそくり的なお金を渡すシーン、グッと来ちゃいましたね…。

ココが○

タイのコメディみたいなアクの強さもなく、至って観やすい作りなのは人を選ばなくて良いのではないかなと。

カニ麺美味しそうだったけど丸々1匹入っていくらするんだろ…。

ココが×

細かい部分を気にしなければ「ベタでつまらない」と思っちゃっても仕方がないとは思うので、その辺りをどう捉えるかで評価が変わりそう。

MVA

ニー役の女優さんもかわいくてよかったし、マダム・ヌーの毒親っぷりも見事でしたが…この映画はこの人が一番良かった。

ゴック・ジャウ(ガー役)

ニーの祖母。ギャンブル好き。

めっちゃかわいいんですよね、このおばあちゃん。マスコットキャラクターみたいで。

もうちょっと娘(マダム・ヌー)になんか言うたれよ、と思ったりもするんですが、でもしっかり締めるところは締めるし、むしろなんでこのお母さんと一緒に暮らすマダム・ヌーがああなっちゃったのか…と疑問に感じるぐらい良い人でした。義母なのかな…。(実母か義母かの描写はなかったと思われます)

初見はなかなか強烈なビジュアルだなと思ってたんですがもうどんどんかわいく見えてきて、最終的には大好きになりましたよ。

あと鴻上尚史似の監督も良かった。情けない男っぷりが見事で。

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