映画レビュー0745 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

レンタル5本目もオススメされた映画です。

マイ・ブルーベリー・ナイツ

My Blueberry Nights
監督
ウォン・カーウァイ
脚本
ローレンス・ブロック
ウォン・カーウァイ
原案
ウォン・カーウァイ
音楽
公開
2007年11月28日 フランス
上映時間
95分
製作国
香港・フランス・中国
視聴環境
TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

マイ・ブルーベリー・ナイツ

彼氏と別れたエリザベスは、彼が通っていたカフェのオーナー・ジェレミーが作るブルーベリーパイを食べては彼と話をして慰めてもらう毎日だった。しかしそれでも元カレを忘れられないエリザベスは、ある日一人で旅に出る。

出会いと別れ、過去と今を「人の集まる場所」から語らせるシナリオが秀逸。

9.0

ジャケットとタイトルの雰囲気からベタアマ恋愛映画なんじゃないかと思い、オススメされておいてあんまり気乗りしなかった一本だったんですが…これがもうめちゃくちゃ良かったです。

恋愛映画であることは間違いないんですが、僕はこれはロードムービーとして自分の棚にしまっておきたいと思いました。ロードムービーらしい出会いと別れ、そして成長(というか変化)が描かれ、その雰囲気はまさに僕の好きな世界そのもので。気乗りしなかったから余計にかもしれませんが、そのギャップに思いっきりやられちゃいましたね…。

主人公のエリザベスは物語冒頭に「クルーチ」というカフェを訪れ、自分の彼氏がお店に来なかったかをオーナーのジェレミーに尋ねます。彼の話では別の女性と来ていた…ということで浮気が発覚、エリザベスは彼氏と別れることに。

そんな経緯からクルーチに入り浸るようになったエリザベスは、いつも売れ残るというブルーベリーパイを食べながら、ジェレミーといろんな話を重ねます。ロシア語で「鍵」という意味の名前のこの店は、様々なお客さんからたくさんの鍵を預かっていて、それぞれの鍵について持ち主の物語を語って聞かせるジェレミー。次第に親しくなっていく二人ですが、それでも彼を忘れられないエリザベスは、ある日突如として旅に出て、旅先で仕事をしながら様々な出会いと別れを経験していく…というお話です。

まずこの「クルーチ(鍵)」という店名からお客さんの鍵を預かって、それぞれの物語をオーナーが覚えている…っていうのがですね、ツカミとしてものすごく良いんですよ。もちろんそんな覚えてるわけないじゃんとか別の人の話を適当に聞かせてるんでしょとか思わないでもないんですが、そんな野暮なことは言わないでおいてですね。どことなく絵本のような物語っていうんでしょうか。その入口がもうたまりませんでしたね。

こういうお店やってみたい、「鍵」に物語を持たせる世界観がものすごくいいな、って。ジュード・ロウ演じるジェレミーが言う「鍵を無くしたらその扉は二度と開かない」というセリフもとても響きます。

「鍵」そのものが持つ意味、「開く」「合う」「閉じる」、そういう含意が人の関係性を示唆しているようで、まずこの時点で深いな…と開始早々にこれはやばいぞと。良い映画感すごいぞと思わされました。

やがて突如として旅に出る主人公・エリザベスによって、この映画はロードムービーだと思い知らされるわけです。やばい、いよいよ自分が好きなパターンだ…!

旅先では当然ながら出会いと別れがあり、その場で暮らす人々の物語が語られます。オープニングの舞台が(バーとレストランを兼ねた)カフェ、そして旅先でエリザベスが就く仕事がウェイトレスということで、そこでの舞台もバーやレストラン。自ずといろいろな人が集まる場所なんですよね。

この「人が集まる場所で出会いと別れを経験し、その流れでそれぞれの過去と現在を写していく」という作りがとても良くて、その場で過去から今までを過ごしてきた人たちの中にエリザベスがやってきて、今を通してその人たちの人となりを知り、その姿から少しずつ自分も影響を受けて成長していく…といういかにもロードムービー的な要素もたまらなかったですね。

エリザベスが見ているその人は当然ながら「今」だけど、なぜその人たちが今そういう状況にあるのか、それを過去を含めて見つめていくことでその人たちに体温が感じられる「人間臭さ」を作り出していくのがすごく良かったんですよね…。

決して作りとして珍しいわけでもないし、むしろありきたりな表現方法に近いかもしれないけど、でもそれだけそのエリザベスが出会った人たちの人間臭さがすごく染みるし、そこがまたすごくロードムービーっぽくて良いんですよ。旅ってこうだよな、こういう出会いがあるから旅をするべきなんだよな、と思わされる感じというか…。

前に「イントゥ・ザ・ワイルド」を観たときにも「旅に出るべきだ、俺は無駄な時間を生きすぎだ」と反省したんですが、その時と同じような感覚を覚える“ロードムービー感”にものすごくしてやられましたね…。

話の結末はありきたりかもしれませんが、道中のエピソードの良さを思えば絶対に観る価値はあると思うし、手元に置いておいて何度も観直したくなるような深さのある映画だと思います。

なんなんでしょうね、ロードムービー特有のこの「その時の立ち位置によって感覚が変わりそうで何度も観るべき」と思わせる感覚。これがあるから僕はロードムービーが好きなのかもしれません。

今迷いの中にある、背中を押して欲しい人は特に観るべきかもしれない、とても良い映画でした。オススメ!!

マイ・ネタバレー・ナイツ

オススメしてくれた人とは別の観たことがある人は「ナタリー・ポートマンと遊んでお金もらってジュード・ロウが待つところに帰るなんてご褒美でしかない」と言っていましたが確かにそう言われればそうかもしれない。そんなお話。(どんな)

やっぱりデヴィッド・ストラザーン演じるアーニーと、レイチェル・ワイズ演じるその妻スー・リンの話が印象的でしたね…。ズルいっちゃズルい話ではありますが、どうもうらぶれた悲哀を感じる男の話に弱い…。

ナタリー・ポートマンのパートにしても「死」が重要なポイントなので、ありきたりで安易だなーという気持ちがありつつも…やっぱり「死」でしか描けない感情というのはあるよなぁとしみじみ思いました。旅に出たからこそ関わりを持った人たちの「死」と出会い、そこでまた何かを吸収して変わっていく自分、というのがまたいろいろと考えさせる良い材料になったんでしょう。

「鍵」にしても「関係性の死」を象徴するようにも見えるし、人と人との関わりが停止する時、そこでまた人は変化していくものなのかもしれません。

うーん、深い。

このシーンがイイ!

アーニーがメダルについて語るシーン。ものすごく響いた。ああいうのほんと弱い…。

ココが○

総じて言えるのは「人間臭い物語」っていうところかもしれません。

どのエピソードも人間臭いし、登場人物たちの絶頂ではない時期をそれでも良い意味で映画っぽく綺麗に描く物語というのが、感情移入という意味でも「映画を観る」という意味でも程よく作り物感があって良かった気がします。多分リアルすぎると面白くなくなっちゃうし、感情が高まる感覚も弱かったんじゃないかな…。

綺麗に閉じる、綺麗につなげるシナリオの巧みさが目立っていたように感じました。

ココが×

気になったのが2つ。

1つは、ある人がウォッカを飲むシーン。ここも結構大事なシーンなんですが…注文したときとその直後に画面が切り替わったときでグラスが変わってるんですよね。ここがすごくもったいないなー! と思いました。シーンがシーンだけにあそこはもっと丁寧に撮影して欲しかった…。

もう1つは、アーニーの処遇。詳細は避けますが、普通あれ捕まらない?

MVA

主要人物は5人ですが、全員が全員めちゃくちゃ良かったですね。

本業が歌手のノラ・ジョーンズはこれが初主演だったらしいんですが、人を信じる真っ直ぐな(やや垢抜けない)女子を完璧に演じていたと思います。すごい。

デヴィッド・ストラザーンは元から好きな脇役さんですが…泣かせますよねぇ…。本当にこういう悲哀のあるくたびれた男感に弱い。素晴らしかったです。

レイチェル・ワイズもハッとするような綺麗さが役にハマっていて素晴らしかったし、ナタリー・ポートマンの男勝りのギャンブラーも想像以上にピッタリでさすが。本当に皆さんとても良かったんですが、残ったこの人にしましょう。

ジュード・ロウ(ジェレミー役)

「クルーチ」のオーナー。

オーナーって言うとなんか偉そうですが、少人数の店を切り盛りしている若主人、って感じでしょうか。

人懐っこい好青年っぽさと、裏に少し覗かせる人生経験から来る弱さみたいなものがもうめちゃくちゃ良かったですね。この役はこの頃のジュード・ロウにしか出来ない気がする。それぐらいバッチバチにハマってました。

綺麗すぎないかっこよさと、待ち続ける不器用さみたいなものがものすごく合ってたんですよね。こういう役をきっちり演じて観客にビシっと刺さってくるジュード・ロウが久しぶりに観られて、そういう意味でも大満足でした。

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