映画レビュー1193 『スモーク』
今回はJAIHOより、なんとなく良さげだなと思ったので配信終了当日に観ました。結局配信終了に追われる日々です。
スモーク
『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』
ポール・オースター
ハーヴェイ・カイテル
ウィリアム・ハート
ハロルド・ペリノー・ジュニア
フォレスト・ウィテカー
ストッカード・チャニング
1995年6月9日 アメリカ
113分
アメリカ・日本・ドイツ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

一昔前の友情の形に思いを馳せる。
- 主にタバコ屋主人と馴染み客の作家を中心とした市井の人々のドラマ
- 主要人物5人を中心に据えた5部構成
- 様々な形の友情を描いたオムニバス的な内容
- 同じタバコ屋を舞台にした姉妹作もあり
あらすじ
なかなか地味な映画ではありますが、いかにも90年代らしい…ギリギリ今とは違う交流があった頃の世界を描いている映画に感じて、そこがなんともたまりませんでしたね。
ニューヨークのブルックリンにあるオーギー(ハーヴェイ・カイテル)のタバコ屋には、毎日常連さんたちがいろいろ買い物に訪れ、また井戸端会議をしては無駄話に花を咲かせております。
その中の一人、近所に住む作家のポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は数年前に銀行強盗によって妻を失って以来スランプに陥っており、未だ心ここにあらずと言った印象。
その日もオーギーのお店で買物をしたあとにボーッとしていたせいで車に轢かれかけたところをラシードと名乗る黒人少年(ハロルド・ペリノー・ジュニア)に助けられ、しつこいぐらいにお礼をしたいと願い出た結果、後日ラシードはポールの家まで泊まりに来るのでした。
しかし彼がいると仕事が進まないポールは「2日まで泊まっていい」と約束した期日を迎えたため、「お礼もこれで終了」とラシードを出て行かせますが、その後彼を育てたと言うおばさんがやってきて彼の“訳あり”な事情を話します…。
ブルックリンのタバコ屋故の物語
最初に書いた通り、ごく狭い範囲の登場人物たち5人によって分けられたオムニバス形式の映画なんですが、それぞれ登場人物がかぶっているためあまりオムニバス感も無く、普通のドラマと言って差し支えないでしょう。どちらかと言うと5部それぞれで中心となる人物が変わるようなイメージでしょうか。
その5部の中心となる“主人公たち”は、タバコ屋店主のオーギー、常連で作家のポール、彼を助けたラシードの他に、ラシードの父サイラス、そしてオーギーと昔交際していたルビーの5人。
それぞれ絡み合いつつブルックリンにおける人間関係のドラマを描きますよ、と言う映画です。
僕は生まれてこの方ずっと嫌煙家なのでこの手のお店には縁が無いんですが、ただなんとなく「一緒にタバコを吸っているときの何気ない会話に存在する連帯感」みたいなものに羨ましさも感じていて、まさにそんな感じの空気感を映画の世界に広げたような映画でした。
もちろんタバコ自体に物語上で大きな役割があるわけでもなく、あくまで中心となる舞台がタバコ屋だよと言うだけではあるんですが、きっと自分はここに混ざることがない人間なだけに、そこにまた同じような羨ましさを感じましたね。
またブルックリンと言う土地も良い。もちろんこれも詳しいわけではないですが、ニューヨークの中にあってビジネスよりも下町に近いようなイメージがより人情味を感じさせる気がするし、その土地柄だからこそ描かれる物語な気がして舞台としての強さも感じます。雑多な人種が集まる場所故の良さのようなものがありますね。
今は失われた何か
またこの映画は「年代関係なく友情を描いた映画」だと思うんですよね。
比較的歳が近そうなオーギーとポールはもちろん、ポールとラシードもそう。オーギーとルビーは元交際相手なのでちょっと違うかも知れませんが、広い意味では友情にも見えるし。
そういう映画だと思わせた理由は終盤のオーギーとポールのシーンだったんですが、彼らにしても(映画を観る限りでは)タバコ屋の店主と常連という関係が発展して友人関係になったようだし、今はだいぶこういう関係の築き方って減ってきた気がしてそこがグッと来たポイントでした。
オンラインならまだしも、今はこうしてリアルで職場や学校のような常に一緒になる場所以外で交友関係を築くのってだいぶ少なくなってきてると思うんですよ。逆に言えばオンラインに移行したと言えるのかもしれませんが。
あまりプライベートに踏み込まれたくない人が多いし、オーギーのような器を感じさせる“名物店主”みたいなタイプもほとんど見なくなったし。
そういうだいぶ失われてきている交流の先に描かれる友情として、これはなかなか良い映画だなぁとしみじみしちゃって。
「昔のほうが良かった」なんて安易にまとめるつもりはありませんが、間違いなく今は失われた社会性みたいなものが込められた映画だと思うので、その良し悪し以上に「無くなってしまったもの」に対するノスタルジーのようなものが感じられてそこがしみじみ良かったな、と言うお話です。
あとは個人的に「悪そうではないハーヴェイ・カイテル」って結構レアな印象なので、そこも良かったですね。
このシーンがイイ!
これはもう終盤、ポールにオーギーがランチをおごるシーンですね。ここのセリフがすごく良かった。
ココが○
なんてことない日常ではありつつ、人と人との温かい交流を描いているいかにも少し前の映画らしい雰囲気がたまりません。
コロナ禍の今はそこになおさら良さを感じてしまうものがあります。
それとオーギーが撮り続けている写真がめちゃくちゃ良かったのも書いておきたいところ。コンセプト、撮っている姿、カメラのエピソード全部良い。
ココが×
目立った事件が起こるわけではないので、地味と言えば地味。割と大人の映画だとは思います。
MVA
ハーヴェイ・カイテルもとても良かったんですが、もっと良かったのはこちらの人。
ウィリアム・ハート(ポール・ベンジャミン役)
お店の常連でスランプ中の作家。
なんとも言えない作家然とした佇まいと悲しみを内包している雰囲気がたまりませんでしたね。すごく良かった。
この人がこんなしみじみ良さを感じさせる演技をする印象が無かったので結構驚きました。


