映画レビュー0513 『アクト・オブ・キリング』

日本では去年公開された映画ですが、当時から非常に問題作として話題になっていたので、すごく観たかったんですが例のごとく近くでやっていなかったために見逃した一作です。

ちなみにオリジナル版は166分あるそうですが、借りたのは編集された121分のものです。

アクト・オブ・キリング

The Act of Killing
監督
ジョシュア・オッペンハイマー
クリスティーヌ・シン
匿名者
出演
アンワル・コンゴ
ヘルマン・コト
アディ・ズルカドリ
音楽
エリン・オイエン・ヴィステル
公開
2012年11月1日 インドネシア
上映時間
121分
166分(オリジナル全長版)
製作国
イギリス・デンマーク・ノルウェー
視聴環境
TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

アクト・オブ・キリング

1965年、インドネシアのスカルノ大統領がクーデターにより失脚、その後行われた「共産党員狩り」の関係者に当時を再現した映画を撮りませんか、と持ちかけて作られたドキュメンタリー。

これは確かに問題作。

7.0

ちょうど今から50年前のインドネシアで、あのデヴィ夫人の夫であったスカルノ大統領が失脚させられた後に起こった、いわゆる「赤狩り」、共産主義者の大虐殺に関わった人たちが、なんでもインドネシアでは今も割とデカい顔をして闊歩しているらしく、(事実、劇中で選挙に立候補したり大臣を務めている人が出てきたりします)彼らに「あの時を再現した映画を作りませんか?」と持ちかけ、自慢気に再現する彼らを追っていくという異色のドキュメンタリー。

例えば中国で「天安門事件を再現した映画を作りませんか?」なんて言ったらとんでもないことになると思いますが、このインドネシアの当事者たちは悪いことをしたという意識はまったくないらしく、むしろ正しいことをした、という誇らしい思いがあるようで、なんなら「偉業を伝えるのはいいことだ」ぐらいの感覚で映画製作に協力したようです。

うーん…この時点ですごいわけですが…。

やがて被害者側の演技も担当したりすることで、次第に「自分たちのしたこと」を客観視し始め、心情に変化が見えてくる…という流れになっています。

やはり作り方や狙いが「すごい」とは言えドキュメンタリーなので、正直に言って映画として観たらやや退屈さはありました。お昼ご飯のあとに観たのもよくなかったんでしょう。いやー眠かった眠かった。

でもやっぱり「ドキュメンタリー」だからこそ、この事実が衝撃的なわけで。「共産主義者は殺してもいい」という価値観にまったく疑問を抱いていない彼らの姿はとても恐ろしく、また何とも愚かに見えました。

彼らにはヴォルテールという哲学者の有名な言葉、「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という言葉を教えて差し上げたい。

とは言え、これは過去のお話というわけでもなく、例えば「ヘイトスピーチ」なんかの延長線上にこの事実があるとも言えるわけで、そういったところまで考えると「インドネシアはひどいなー」では済まされない、なかなかリアルな刃に見えてくるのがまた怖い。

「自分とは違う意見を否定する」のと「自分とは違う意見を言わせない」のが同化している怖さ。昨今の「政府のテロ対応を批判する」のと「テロリストを利する」を同化しているのとも似てますね。まったく困ったもんです。

そういった、意見の多様さを許容しない世界で何が起こるのか、その事実を伝えているという意味でも価値のあるドキュメンタリーですが、さらにそこにもう一段、「自らの行いをトレースすることで起こる“気付き”」に焦点を当てているというのがこの映画のすごいところで、なるほどこれは「普通のドキュメンタリー」とは一線を画したものであると思います。

この、今も当事者が贖罪の意識を持たずに生きているインドネシアの事件を選んだからできたこと、ではありますが、なんとも残酷で、ある意味ショッキングな内容は噂通りにすごかったですね。彼らの姿は「権力者はもっと自らの醜さに気をつけた方がいいんじゃないですか」というお手本を示してくれている面もあり、いろいろと考えさせられる内容でした。

映画として純粋に「面白い」とは言えない面もありますが、人として知っておいた方がいい事実を描いた映画だと思います。

このシーンがイイ!

やっぱりラストシーンでしょうか。あそこで「人間が変わった」ことが明確にわかるという、すごく印象的なシーンでした。

ココが○

普通ではあり得ない形で、歴史と現在が噛み合っているインドネシアだからこそ作れた内容は奇跡的ですね。普通こんな映画なんて作れませんよ。考えれば考えるほどすごい映画だと思います。

ココが×

やっぱりドキュメンタリーの宿命で、どうしても集中力が途切れがちな面があります。ある程度編集等でカバーできるとは言え、演出どうこうとか物語の山場とか他の映画と同じにできるようなものではないので仕方ないんですが。だからこそ、こういう映画は劇場で観るべきでしょうね。

MVA

ドキュメンタリーなのであまり関係ないんですが、一応この方に。

ヘルマン・コト(本人役)

マツコバリに女装して強烈なキャラクターでした。なんなんでしょうね、この人。

自らの所業に疑問も抱いて無さそうだし、最後までひどい人というか…。ある意味圧倒されました。

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