映画レビュー1530 『愚か者の時代にいる』
少し前に観たドキュメンタリーの流れで地球温暖化関係の別のドキュメンタリーも観たいと思い、調べていたところ名前が出てきたのがこちらの映画で観ましたよっと。
愚か者の時代にいる
フラニー・アームストロング
フラニー・アームストロング
ローレンス・ガードナー
2009年3月20日 イギリス
92分
イギリス
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

今の時代にもう一度作ってほしい。
- すでに地球環境が破壊された未来から今(公開当時)を糾弾する少し変わったドキュメンタリー
- 設定が未来なだけで使われている映像は実際のもの
- 「あのときこう言っていたのに」「こういうことをやろうとしていたのに」等訴える内容
- 内容自体は良いものの、映画としては色々と粗が目立つ
あらすじ
なかなか面白いアイデアのドキュメンタリーでその作りは良いんですが、ただどうにも見過ごせない難点もあって評価が難しいところです。
舞台は2055年、地球はすでに荒廃してしまい、文明も崩壊。人類は一部残っているもののかなり減っているようです。
すでに氷が溶けてしまった北極にはあらゆる動植物や情報をアーカイブする施設があり、そこにやってきた一人の男(ピート・ポスルスウェイト)がアーカイブ映像を観ながら「なぜあの頃、こうなることがわかっていながら対策を講じなかったのか」を振り返っていきます。
巧さもあり、下手さもあり
名優ピート・ポスルスウェイトがナビゲート役を務めるドキュメンタリー。空中UIを動かすぎこちなさにかわいげがあります。
大枠としては最初に書いた通り、「すでに取り返しのつかない地点まで来てしまった未来から“このときに行動していれば違った未来があったのではないか”と過去(映画を公開した時点の今現在)を振り返る」形で、地球温暖化への対応のまずさを一部事例によって語っていく作りになっています。
つまり逆説的に「今のまま行くとこうなるよ」という未来の地球を語っている形になっているんですが、ただその“未来”のシーンは言ってみれば“つなぎ”でしかなく、基本はドキュメンタリー映像の方がメインになります。
何の工夫もなくそれぞれのドキュメンタリーシーンを繋いだところで散漫だし伝わりにくいし面白みもない、だから“未来から振り返る”形にしてまとめる…というのはなかなか面白く、良い作りに思いました。
ただその分やや煽りを感じるような感覚(タイトルがタイトルだし)もあり、それ故に思想も強めに感じられるので地球温暖化に懐疑的な人たち(某国の大統領とか)が考えを改めるには逆効果な気もしました。難しい。
この映画の制作からすでに16年が経過し(ピート・ポスルスウェイトもこの映画の2年後に亡くなってしまいました)、ご存知の通り大方の部分で(全てではないと思います)事態は改善どころか悪化しているわけで、つまりこの映画のタイトル通り、順調に“愚か者の時代”を進んでいるのが現在なんですよね。
果たしてこの映画の舞台である今から30年後にここまで劇的に荒廃していくのかはこれもまた怪しいとは思いますが、しかし緩やかでも確実に地球環境は悪化の一途を辿っているわけで、今年のこの異常な暑さからするともしかしたら案外的外れではないのかもしれない…と思わされるぐらいに今の温暖化の進行はマズいのでは、と反省させられました。
かと言って個人ができることはさしたる影響力もなく、やらないよりはやった方が良いのは間違いないもののもっと大きなムーブメントにならないと劇的に環境が良くなることもないと思われ、それ故に非常に無力感を抱く内容でもありました。
ましてや今まさに地球上で最高の権力を持つ人間が「地球温暖化は史上最大の詐欺」とまで言うぐらいのバックラッシュが起きているだけに、「未来のために対策に取り組みましょう」と言ったところで環境を変えるほどのムーブメントになるとも考えにくいわけで、これほどまでどうしたらいいのかがわからない、途方に暮れるような問題もないね…と暗澹たる気持ちになりました。
とかなんとか言いつつ自分もちゃっかりエアコンの効いた部屋でこの映画を観ていただけに「やってる側」に立つことはできません。
そもそも(この映画を観た)10月の、しかも夜の時間帯でもエアコンが必要なぐらい暑い時点でもう(この前学んだ)プラネタリー・バウンダリーの限界値を越えてしまっているような気がしてならないし、やっぱりもう手遅れなのでは…と思わざるを得ません。
こうした様々な情報を観ていくと、グレタ・トゥーンベリの必死さも理解できるというか…彼女のやり方や意思表示の仕方に好ましくないと思う部分もありますが、彼女たちやその後の世代にとっては文字通り死活問題だろうし、なんなら自分世代でも爺になる頃にはもうかなりヤバいのでは…と思ったところで2055年、まさに爺になる頃の話だなと思ったり…。
そんな色々に思いを馳せられるという点で良い映画だとは思いますが、しかし看過できない粗が目立つ映画でもあります。
まずさして重要な部分ではないものの、オープニングに出てくるCGがPS2レベル。すごい懐かしい感じがしました。テクスチャの感じとか。まあ有り体に言ってしまえば安っぽいです。ものすごく。予算がなかったんだろうけどさ…。
もう一つ、こっちはかなり大きい部分ですが字幕がまあひどい。
フォントがガタガタなのは(大きめに表示される分)まだ許せるんですが、誤字脱字、謎の改行位置のせいでかなり違和感が強く、そっちに意識を持っていかれます。
ここまでひどい字幕は過去にあまり観た記憶がなく(YouTube自動翻訳の「空手ガール」除く)、言ってみれば「通常であればクリアしているはずの一定のクオリティをクリアしていない」ように見えるため、ちょっと大げさに言えば海賊版の映画みたいに見えるんですよね。普通の工程を経て世に出てきた映画に見えない。
結局、この2つを目の当たりにすると「金かけてなさすぎでしょ」という印象が強くなってしまい、それによって内容が胡散臭く見えるとかはないものの、すごく「もったいないな」と感じちゃうんですよね。もっと上手く作ればもっと伝わるであろうことが拙い部分のせいで広まらなくなっているのでは、と。せっかくピート・ポスルスウェイトみたいな素晴らしい役者さんを使ってるのに。
ここは本当に残念ですがかと言って今から修正されるわけもなく、であれば同じような作りで「2025年版」を作ったらいいんじゃないの、というお話です。だいぶ映像のストックも増えてるはずだし。
現大統領なんて格好のネタになりそうですけどね。使った時点で面倒なことにもなりそうだけど。
脳みそツルツル映画らしいです
ということで内容の善し悪し以外の部分で惜しい映画でした。
最後に一つ余談。
この映画の情報を調べていたところ鑑賞した人のとあるブログに行き着いたんですが、「バカな映画監督が作った脳みそツルツル映画」「なぜリベラルはバカなのかを世に知らしめるための無能ドキュメンタリー」「リベラルはバカしかいない」とかなり攻撃的な内容で虚空に吠えていらっしゃる方がいまして、トランプが日本語話者だったらこんな感じなんだろうなと微笑ましく読みました。この映画に親でも殺されたんでしょうか。
この方の説が正しいのであれば世の科学者は99%がバカということになりますが、それはさておきこの方はブログが書けるお猿さんですごいねと感心しきりです。
このシーンがイイ!
ひじょーーーに印象的なエピソードが一つありまして、イギリスで風力発電の施設を建設しようと奮闘している男性が出てくるんですが、その計画に反対している女性が「地球温暖化はもちろん心配しているし、みんな真剣に再生エネルギーの事を考えている。当たり前のこと」って言うんですよ。ただ、自分の家の近くでは景観にも影響を与えるし騒音問題もあるし反対だ、と。(そう言ったわけではないですが、文脈的にそうなる)
真面目な顔してよくこんなことを恥ずかしげもなく言うなとびっくりしたんですが、一方できっと大半の人々は同じなんだろうとも思うんですよね。
地球温暖化をまったく信じていないトランプみたいな(あと上記ブログの人のような)お猿さんは別として、大半は「地球温暖化は心配、でもここ(自分の近辺)じゃなくてもいいでしょ」ぐらいのスタンスなんじゃないかなと。
結局あんまり真剣に捉えていないんですよね。かと言って信じてないと言うのも知性がない人間に見られそうで嫌、みたいな。
ある意味これが一番厄介だと思いますが、ただおそらくかなりの割合はこういう人たちなんだろうと思うので、その人たちをいかに実際の行動に移していけるかが今後の重要な要素なのではないか…と思いますがどうなんでしょうか。
結局人間は損得で動くものなので、温暖化対策に何らかのメリットを作り出せるかが大きそうな気もするんですが…。
ココが○
非常にわかりやすい形で「このままだとまずいよ」という舞台を用意しているのはユニークだし、普通のドキュメンタリーとは一線を画す作りだと思います。ただその設定をもうちょっと上手く使ってほしいなとは思ったけど。
あと邦題がいいですね。
原題だと「愚か者の時代」ですが、邦題だとさらに現代人への責任を問うようなニュアンスが感じられて。微妙な違いですがすごくいいと思います。
ココが×
上に書いた通り、CGがあまりにもショボいのと字幕の問題。
特に字幕は結構なストレスになると思います。もったいなさすぎる。
MVA
ポルスルさんでもいいんですが、ドキュメンタリーなので該当者無しで。
気持ちとしては例の風力発電施設建設に奔走していた男の人にあげたい…。


