映画レビュー1499 『ブラジル -消えゆく民主主義-』

今現在メインの映画摂取先はネトフリのみとなったんですが、何観るかなとポチポチしててもネトフリオリジナルばっかり推してきてウンザリしつつ、そういやネトフリオリジナルと言えばドキュメンタリーだよなということでドキュメンタリーを観ていくことにしました。
これも前から結構気になっていた一本です。

ブラジル -消えゆく民主主義-

The Edge of Democracy
監督

ペトラ・コスタ

脚本

ペトラ・コスタ
デビッド・バーガー

出演

ジルマ・ルセフ
ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ
セルジオ・モロ
ジャイール・ボルソナーロ

公開

2019年6月19日 各国

上映時間

121分

製作国

ブラジル

視聴環境

Netflix(Fire TV Stick・TV)

ブラジル -消えゆく民主主義-

世界の政治への理解が進む…かもしれない。

8.5
ブラジルで熱狂的な支持を受けたまま退任した大統領と、その後継大統領が弾劾されるまで
  • ブラジルの政治の(2019年)現在を追ったドキュメンタリー
  • 現在はまた少し状況が変わってはいるものの、この延長線上の話なので現状への理解も進む
  • ブラジルの話ではあっても日本を含めたどの国にも似たような問題があるのでまったく対岸の火事ではない
  • 基本的にリベラルな人が監督なのでかなりリベラル寄りな視点であることは注意

あらすじ

非常に面白かった…と言ったら結構語弊がある、深刻な内容の映画なんですが、ただ政治ウォッチ大好きマンとしてはかなり興味深く観ることができるドキュメンタリーでした。

2000年代、世界でも「BRICs」と呼ばれ注目されていた国の一角であるブラジルではルーラ・ダ・シルヴァ(通称ルーラ)が大統領を務めておりまして、彼のそれまでの歴史を振り返りつつその後任期満了(ブラジルでは憲法によって連続二期までの制限があるそうです)に伴って退任、後継として指名されたジルマ・ルセフが大統領を引き継ぐもルーラにいくつかの疑惑が持ち上がり、その捜査に国民が熱狂した結果ジルマの立場も危うくなって…と後はご覧ください。

ブラジルの(ちょっと前の)政治的現在地

上記「ルーラに向けられた疑惑」はかなり眉唾なものばかりで、言ってみれば国策捜査のようなものなんですが、ただそれもわかっていない…というか「見た目のいい」裁判官を持ち上げたメディアによって煽られた国民が次第にルーラ・ジルマ陣営に反発するようになり、それを追い風に政敵が浮かび上がってくる…というまあどの国にもありそうなお話ではありますが、とは言え捜査含めいろいろ杜撰で雑な動向によって国の趨勢が決まってしまうというのもなんともやるせないお話であり、非常に考えさせられると同時に絶望的な気持ちにもなりました。
ルーラは退任時の支持率ですら87%という驚異的な数字で、いかにその手腕と人柄が支持されていたかがよくわかるんですが、しかしその後(あえて書きますが)“仕組まれた”疑惑によって力を失っていく姿を観るのは本当に胸が痛みます。
この映画ではルーラとジルマの過去についてもサラッと触れられているんですが、ルーラは叩き上げの労働者階級出身者で、それまでほとんど地主とかお金持ちのような人間で占められていたブラジル政治に風穴を開け、貧困層を豊かにすることでブラジルの経済を一気に成長させた人物。
その後継であるジルマはブラジル初の女性大統領で、かつてゲリラ運動に身を投じて秘密警察に逮捕され、拷問まで受けたことがあるというこれまたとんでもない経歴の持ち主です。
そんな経歴からもわかる通り、この2人は明らかに左翼政治家で、かつ監督もそちらにシンパシーを抱いている(彼らを貶めた右翼政治家たちを批判的に撮っている)ことからもわかる通り、言ってみればかなり“左寄り”の目線で作られた映画です。
僕はリベラル寄りなのでひでえ話だなと監督と同じ目線で観られましたが、果たして保守寄りの人が観てどう思うかは結構気になるというか、多分受け入れがたい映画なのではないかなという気がしました。
ドキュメンタリーとは言っても大体監督の意向(志向)によってどちらかの価値観に寄っていくのは普通だと思いますが、それでもこれほど片方に寄ったドキュメンタリーというのはなかなか観た記憶がなく、それ故に「言っていることは正しいと思うけどあまりにも片側に寄りすぎていてバランスを欠いているために、逆に受け入れられにくくなっているのでは」とちょっと心配するぐらいにはだいぶリベラルな映画だと思います。それぐらい(ブラジルの)保守側がひどい、という話でもあるんですが。
ちなみにルーラ・ジルマコンビが失脚した結果のし上がってくるのがボルソナーロという人物なんですが、彼はトランプと仲が良いという非常に納得感のあるおまけがついてくるのも面白いしつらい。想像通りすぎて。
結局これだけ「証拠もない政治的思惑に支配された雑な疑惑」であることを知ってもまだ保守側を支持し続けるのもまったく理解できないんですが、最近はその問題点を追求されたところで「陰謀だ」と言い逃れれば乗り切れる、そんな志向を突き詰めると現アメリカ大統領の出来上がり、っていうのもなかなかお寒いご時世ですね。つらい。
最近の日本を観ていると、そうやってきっちりファクトチェックしても「マスゴミは嘘つくだけ」と知った風に言って思考停止して支持し続ける人が多いようで、なんというか日本の知的水準もここまで低くなったかと悲しくなります。

民主主義を考える

ちょっと愚痴っぽくなっちゃいましたけども。すみませんね。ちょうどこれを書いている今、参議院議員選挙期間中なもので…。今回の参議院議員選挙はこの国のかなり(悪い意味での)大きな分岐点になりそうで非常に気が重いです。
このまま行くと排外主義と陰謀論政党が“ブーム”を起こすようで、そのこと自体もかなりしんどいんですがそれ以上にそんな政党に(よく知らずに)投票する人がそれだけ多いという事実が絶望的で、本当にこの国どうなっちゃうんでしょうね…。
半分はそのうち化けの皮が剥がれるんじゃないかと思っていますが、現時点でこれだけ騙されている人が多いということはそのまま化けの皮も剥がれずに行っちゃう気もしてより気が重い、というのが半分です。
…と映画とは関係のない話になってしまいましたが、そんな感じで自国の問題にも思いを馳せることになるであろう民主主義を考える上でかなり参考になる映画ではないかなと思います。
内容が内容なので人を選ぶとは思いますが、最初に書いた通り今にも繋がる話でもあるのでぜひ観ていただきたいところ。

ネタバレ民主主義

ネタバレも何も現在進行系でニュースにも出てくるので配慮する必要もないかもしれませんが、一応知らない人も多いとは思うのでこちらに。
エンディングでルーラが収監され絶望的な気分で鑑賞を終えるわけですが、実は2025年現在のブラジル大統領はルーラその人です。見事に返り咲き。
なんでも(当然と言えば当然ですが)いわゆる「カーウォッシュ事件」の捜査がでたらめだったことが判明し、名誉回復がなされたようです。
そして直近の大統領選挙で例のボルソナーロと争った結果、得票率わずか2%弱の差で返り咲いたと。
あんな無能極まりない(そして差別主義者でもある)ボルソナーロがそこまで支持を得ていることにもかなりげんなりしますが、それでもルーラが勝ったことでブラジルは(今のところ、という留保付きではありますが)踏ん張ることができたんだなと安堵感と羨ましさを感じました。
そしてその後今度はボルソナーロが糾弾される側となったわけですが、つい最近のニュースで彼と“仲良し”でおなじみのトランプが横槍を入れる形で「魔女狩りだからやめろ、やめなければ関税50%だ」と意味不明の理論で関税を押し付けているのが現在、という状況です。
国内の捜査を外から口出してやめなければ関税課すぞ、ってものすごい(謎理論の)内政干渉だと思うんですがそういうのは通じないんでしょうね、きっと。
ルーラはきっとかなり頭が痛いことでしょうが…ここもなんとか踏ん張って、頑張ってほしい。

このシーンがイイ!

ルーラの最後の演説がすごく良かったですね。こういう政治家、日本にもほしい…。

ココが○

ブラジルの政治を知るという意味ではもちろん、それ以上に民主主義について考えさせられる内容はとても見応えがありました。
企業献金とかどの国でも問題になってる(けどやめさせられない)んだな、とか。

ココが×

監督の家族の話が結構出てくるんですが、ここは正直そんなにいらないんじゃないかなと思います。
ジルマとの関係でまったくいらないというわけでもないんですが、とは言えあまりにもパーソナルな内容に寄りすぎると余計に私的な価値観が大きい内容に見えてきちゃうので、少し抑え気味でも良かったんじゃないかなと。

MVA

例によってドキュメンタリーなので無しの方向で。
心情的にはルーラですが。あの雰囲気も好きですね。ルーラ。

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