映画レビュー1195 『大仏+』

今回はJAIHOより。

ゴッドスピード」が良かったから同じ監督の別作品だし…と観たんですがどうも監督は別らしく、正しくはゴッドスピードの監督が制作・撮影を手掛けた作品だそうです。ややこしい。

大仏+

The Great Buddha+
監督

ホアン・シンヤオ

脚本

ホアン・シンヤオ

出演

チュアン・イーツェン
チェン・ジューション
レオン・ダイ
チャン・シャオフアイ
チェン・イーウェン
ナードウ

音楽

リン・センシャン

公開

2017年10月13日 台湾

上映時間

103分

製作国

台湾

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

大仏+

物悲しいブラックコメディ。

8.5
末端従業員とその友人の趣味はお盛ん社長のドラレコ覗き
  • 仏像工房の末端従業員とその友達が社長のドラレコ覗きを趣味に、写っていたものは
  • 台湾社会の格差をブラックに、ほんのり物悲しく描いたドラマ
  • ナレーションは監督自身が務め、メタ的シーンもあるちょっと変わった映画
  • 全編モノクロ、一部カラー

あらすじ

なんとも説明が難しい「普通の日常」を描いた映画なんですが、これまたなんとも言えない魅力のある映画でした。しみじみ面白かったし好きですね。

舞台は大仏工房のとある会社。そもそも大仏作るだけでやっていけるんでしょうか。何か他の仏具とかも作ったりしてるんでしょうね、きっと。

そこで夜勤として掃除と住み込みの仕事をしているツァイプー(チュアン・イーツェン)は、母の看病をしつつ真面目に働いていますが、いかにもうだつの上がらなそうな中年と言った風情で会社での立場も弱そう。

彼にはドゥーツァイ(チェン・ジューション)と言う友人がいるんですが、そのドゥーツァイは日々そこら辺のゴミを回収して同級生が勤める廃品回収業者に買い取ってもらって日銭を稼いでいる、これまた輪をかけて社会の末端にいるような人物です。本当にその日暮らしで生きているような印象。

ドゥーツァイは夜になるとツァイプーが勤務している事務所に遊びに行き、一緒にご飯を食べたり喋ったり拾ったエロ本を読んだりといかにも冴えない日常を過ごしていますが、ある日彼の思いつきでツァイプーが勤める会社の社長(レオン・ダイ)のベンツのドライブレコーダーの記録を観ようぜ、と言う話になります。

社長はしょっちゅう違う女性を乗せてはラブホテルに連れて行ったり車中でコトに及んだり…と大変お盛んな模様で、その様子を眺めては下世話に楽しむ二人。

しかしある時、二人はその映像の中にとんでもないものが残っていたのを観てしまったのでした…どうなることやら。

事件はあれど派手さは無い良さ

JAIHOはじめ、あちこちのご紹介ではその「残っていた映像」が何なのかまで書いているんですが、一応お楽しみということでここでは伏せておきます。

さてまず基本的なことを書いておくと、この映画は結構最近の映画ではありますが基本的にモノクロです。ただ最近の映画だけあってモノクロでもすごく綺麗で印象的でした。

そして一部カラーになります。ドラレコの映像とか。そこにはきらびやかな生活を送る社長が“カラー”で、日々生きるのに精一杯な末端の二人は“モノクロ”と言う格差を表現している…とかなんとかそれっぽい説も流れていますがそんな意味はない気はしますね。僕は。

二人が出てないシーンも基本的にモノクロですからね。現実と虚構的な距離感を表しているのかもしれませんが。

それと、オープニングからいきなり「こんにちは、監督です」的に監督のナレーションが入ってきます。そして全編通して彼のナレーションで話が進みます。

やや明け透けに語りすぎるきらいはあるものの、そのぶっちゃけっぷりがあまり他にない感じで面白くもあり、その存在をもって登場人物たちがリアルさよりも「劇中人物」であることを強く感じさせる演出になっている印象がありました。それも良し悪しではあるけれど。

監督はこれが初長編作品になるそうで、その辺も納得というか…初監督ってちょっと変わったことやりたがる印象があるのでなるほどと言った感じ。かと言ってそれが滑っているとも思えず、映画自体の雰囲気も含めて一風変わった妙な味になっているような気もします。

物語の中心には一応それなりに“事件”があるものの、全体的には末端の二人の日常を追ったドラマと言う感じ。

それぞれの周辺事情や人物たちを紹介していった先に件の事件があり、それによってちょっと動き出すものがありつつもサスペンスやスリラーに踏み込むこと無く、むしろその衝撃的な事実に身動きできなくなる主人公たちがリアルです。

その意味でとても人間臭い話でもあるし、彼らの人生について、そして自分と重ね合わせていろいろと考えてしまうものがありました。

人は仲のいい存在についても知っていることは少なく、また自分とは違ういい生活をしていると思っている存在もまた想像とは違った“上手く行かなさ”があって、いかに自分が見ている景色が狭いかと言うことをしみじみと考えさせられるのがたまりませんでしたね。

一方で“オチ”に代表されるようなブラックコメディ感もあちこちで感じられて、ちょっとした居心地の悪さみたいなものが思わず映画に惹き込まれる要素になっているのもうまいなぁと思います。

欧米映画に飽きたら

ただ基本モノクロではあるし、ある程度は心情を理解できないと面白みが感じられない面もあるので、やや大人向けの映画かなとは思います。それなりに人は選びそう。

とは言え台湾映画と言うあまり慣れていない映画なだけにやっぱり欧米映画とは違った味わいがあるし、気分を変えたいときにはとてもいいチョイスになるのではないかと思いますね。

僕は去年嫌と言うほどありきたりなハリウッド映画に「いい加減こういうの観るのやめよう」と思わされただけに、この手のちょっと目線を変えた映画が観られるのは本当に嬉しい限り。

つくづくJAIHOが儲かっていることを願いますよ。早めに撤退されたら悲しすぎる。

このシーンがイイ!

ラストシーンのざわつく感じ、いいですね〜。

ココが○

非常に淡々としつつもしっかり濃いドラマが描かれているのが良いですね。台湾社会も感じられるし。

ココが×

モノクロだしどうしても地味ではあります。主人公からして地味だし。

MVA

悲哀を感じる主役の二人もすごく良かったんですが、やっぱりこの人かなー。

レオン・ダイ(社長役)

多分名前もあるんですが忘れました。

この人は「ゴッドスピード」でも良かったし、今自分の中で一番ホットな台湾俳優のポジションですね。渋い。渋いけど渋くないシーンもあっていい。名優ですね。

この映画でもゴッドスピードとほぼ同じ白シャツ着てたのには笑いましたけど。

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