映画レビュー0918 『新聞記者』

ずっと観に行きたかったんですがなかなかタイミングが合わず、なんとか上映終了直前のお盆期間中に観に行くことができました。珍しく邦画です。

ちなみにこの映画はちょっと問題作なので、内容的に口汚く罵るコメントとかが来るかもしれませんが、その手のコメントは最初から許可しないし全スルーするというのは予めお断りしておきます。議論の価値があるコメントは別です。

新聞記者

The Journalist
監督

藤井道人

脚本

詩森ろば
高石明彦
藤井道人

原案

『新聞記者』
望月衣塑子
河村光庸

出演

シム・ウンギョン
松坂桃李
本田翼
岡山天音
郭智博
長田成哉
宮野陽名
高橋努
西田尚美
高橋和也
北村有起哉
田中哲司

音楽
主題歌

『Where have you gone』
OAU

公開

2019年6月28日 日本

上映時間

113分

製作国

日本

視聴環境

劇場(小さめスクリーン)

NO IMAGE

社会の劣化を邦画で思い知る切なさ。

8.5
“官邸の意向”と正義感の間で揺れる官僚と、一人の新聞記者
  • 現内閣の情報コントロール術の一端を垣間見ることができる社会派サスペンス
  • 政治的主張に寄り過ぎず、あくまで現状を娯楽に変換する作りが◎
  • 画作りは少々あざとい
  • この時代にこの映画が作られた意味の重さ

あらすじ

かねてから話題になっていたように、当然ながら総理の名前も大臣の名前も出てこないにも関わらず「現政権」のやり口と起こった事件を元に構成した、半リアル社会派サスペンスってなところでしょうか。

主人公は日韓ハーフの女性新聞記者、吉岡エリカ。ある日彼女の勤務先の新聞社に、とある大学の申請についての資料が送られてきまして、内容的にどうもきな臭いぞってことで取材を命じられた彼女がある種青臭いジャーナリスト魂で取材を進めていきます。

一方、もう一人の主人公・杉原。彼は元々は外務省の官僚なんですが、現在は内閣情報調査室(内調)に出向しています。内調っていうのは簡単に言えば「内閣の意向によって動く諜報部門」みたいな感じでしょうか。

彼は“政権の延命が政権の最大の目的”になっている某政権の意を受け、あることないことをでっち上げては世論を操作していきます。ジャーナリスト志望の女性をレイプした「総理お友達フリージャーナリスト」の援護射撃とかね。どっかで聞いたことあるなー。おーこわ。「ひどく酔っ払っていたので落ち着かせるために抱いた」とか意味不明の理論を振りかざすおっさんです。ちなみにこれは劇中のセリフではなくリアルの弁明でマジクソです。なんで逮捕されないんだろ。(すっとぼけ)

まあそんな輩を守ったりとかのお仕事を“政権延命のためだけ”に行い、やがて一民間人をも対象にした露骨な情報操作の仕事を命じられたことで自らの正義感と職務との間で悩む杉原。

彼の恩義ある元上司のとある事件をきっかけに接点を持ったこの二人、“きな臭い”大学設立を巡ってさらに関わっていくことになるんですが…あとはご覧ください。

社会派サスペンスとしての作りの良さ

僕は現在の政権は日本の歴史上最も劣悪な政権だと思っているんですが、その最大の理由がこの映画で触れられる情報操作の部分と、露骨な人事介入による権力操作なんですよね。まあ理由を上げようと思えばもっと山ほど出てきちゃうのでやめておきますが。

その政権がこの映画を公開するタイミングでも継続しているにも関わらず、あからさまに現実に起きた事件をモチーフに醜い権力の姿を味付けにしながら社会派サスペンスを描く、そのセンスがまずすごいしまあよく上映したよねと思います。

よく「上映できてるんだから情報操作なんて無いだろ乙」みたいなことを言う人がいますが、情報操作なんて100%全部流させないようにするって話じゃないのであんまり関係ないです。情報操作が“うまい”人たちはそんなあからさまなやり方なんてしませんよ。むしろ制作を進めていた映画を潰したとなるとそっちの方が大騒ぎになっちゃうので、これはもう企画が立ち上がっちゃった時点で権力側がそれまでの所業を省みるべき話でしょう。

ただ内容的に配給側が尻込みする可能性は十分にあったわけで、これが単館系にとどまらずイオンシネマで上映することになった、そのイオンの姿勢というのは褒められて然るべきではないかなと思います。いやホント、よくこの映画を上映してくれましたよ。

ただ上に「味付け」と書いた通り、「政権批判」がお題目の映画ではないので、そういう期待で行くと肩透かしを食らう可能性もあると思います。実際のやり方はもっとえげつないと思いますが、でもそれは主題ではないのでそこは描かず、あくまで「内調という(普通の人には)得体の知れない存在によって裏で何が起こっているのか」をジャーナリズムと絡めて娯楽に昇華した映画であり、そこが良いなと。

政権を批判するのが目的であれば、もっと描くべきことも描ける内容もあると思うし、だからこそ現政権に批判的な(この映画の力を借りて政権を攻撃したい)人たちからすれば物足りなさも感じるんだろうと思うんですが、そもそも大前提として映画ですからね。

プロパガンダ臭が強すぎると余計に分断は進むだろうし、おそらく観客の政治的な立ち位置によって印象は変わってくるんだろうとは思います(最も現政権擁護の人たちはほぼ観ないんでしょう)が、個人的にはこの辺が「現状の醜悪さを美味しく頂いた娯楽映画」として良い落とし所だったんじゃないかなと思うし、そこが良かったとも思います。

僕は例えば「東京原発」にしても、テーマは面白いものの演出の拙さと下手なコメディ色のせいで「内容を語る以前に映画として出来が良くない」状態になっていたことがすごくもったいないと思っていたので、この映画の「しっかり“楽しめる”作りになっている」上に現状への批判的なメッセージが込められているというのは社会派サスペンスとしてとても大切なことだと思うし、そこをクリアしている点で“映画として”評価できる点が素晴らしいんですよ。

社会の劣化による良い映画との出会いを邦画で味わうつらさ

なんプロアワード辺りで何度か書いていますが、「社会が劣化すると良い映画が増える」っていうのはよく聞く話で、簡単に言えば「映画で描くことで観客にリアリティと重みを味あわせるだけの社会問題が多い」のもその一因なんだろうと思うんですよ。極端に言えば、みんなハッピーでお金持ちだったら貧困問題の映画なんて誰も真に受けないですからね。

つまりその分現実が劣化してきているからこそこの映画が“面白く”感じられるわけで、まあその「社会劣化=良い映画」の構図をまさか邦画で味わうことになるとは、と複雑な気持ちにもなりました。日本でこの映画の内容が現実味を帯びてしまっている現状と、それによって「いや〜なかなか攻め込んだ力作で面白かったね〜」と楽しめてしまうことのつらさ。

内調が世論操作に一役買っているのはある程度政治に興味がある人にはよく知られている事実なので、例えばグラサンアイコンで有名な某ツイッターアカウントなんてまさにこの映画で描かれた「内調による情報操作ツイッター」の最たるものと言われてますが、その意図に気付かずに乗らされているのか善悪関係なく自分の主張と近いから広めているのか、自ら率先して奴隷根性を発揮し無邪気にその“情報操作”を広める人たちの多さに絶望する気持ちと、この映画に対する「面白い」と感じる気持ちがシンクロすることで、「良く出来てるんだけどつらい」という娯楽を楽しむにしてはちょっと悲しい状況に置かれたのも事実です。

そして観ていて一番つらかったのは、内調の手口よりもツイッターに連なる無数の無責任な一般人による罵詈雑言だったりするわけです。頭を使わずに「気持ちがいい」から攻撃的なことを言う人間の多さ、そのリアルさに気持ちが沈むんですよ。

現政権を擁護したい人たちは「全部フェイクだ」と某アメリカ大統領(現在の日米首脳はかなりの部分で似ているのでさもありなん)のように言っていますが、その現実から見える「事実から目を逸らすことで自分の精神を守る幼児性」を持つ人間の多さにまた辟易するわけで…これはなかなかしんどい。

映画単体として観れば、当然不満もありますが見応えもあったし邦画でこれほど骨太な社会派映画が作られたことに対する喜びもあるんですが、その喜びが現実と合わせ鏡で苦痛に跳ね返ってくるだけにしんどい。

その感覚はあまり他では得られないものなので貴重と言えば貴重ですが、今後良くなるのかと言うとこれまた(政治の問題のみならずメディアの問題が大きいんですが)絶望的なので、その絶望に対する答え合わせを強引にさせられてしまう罪深さもこの映画にはあったと思います。

政治的な社会派映画に興味があるなら一見の価値あり

一応書いておきますが、僕は別に政権に批判的だからこの映画が面白かったと言っているわけではなく、「現実に即した内容だったから面白かったしそれがつらい」と言っているわけで、これが別の現実を伝えるものであっても同じようにリアリティを感じれば面白いと思うでしょう。

要はそのリアリティの部分を感じ取れるのか目を背けるのかでこの映画に対する評価も変わってくるんだろうと思うんですが、さすがにこの映画で描かれている内容を「全部フェイクだ」と言い切っちゃうのはちょっとお花畑すぎると思います。

現政権に限らず、権力者、権力闘争というのはそんな生易しいものではないので、「本当に純粋な事実だけが流通した結果、安定して支持率も高い」と思っていたらそれはもう幼すぎます。

(昔から)権力闘争では情報操作が行われていたのは周知の事実だし、過去には(逆に)官僚側が主体になって政権を転覆させた例もあるわけですからね。そもそも過去の自民党内の権力争いでもそういうことはあったわけで。

ただそのやり方の部分が、より狡猾で品がなく、執拗で美学がないから現政権が嫌いなんです。僕は。「国民のためにどうしても実現したいことがあるから手段を選ばない」のであればいくらお金を使おうが(やり方にもよりますが)情報操作をしようが構わないと思いますよ。それが本当に国民のためになるのであれば。

現政権はそういう意志がまったくなく、政治家個人の地位安定と功名心とごく近しい人たちの利益のためだけにあらゆる権力を行使しているから醜いし到底容認できないわけで、その醜悪さの一端を描いているからこそ、この映画がリアリティを帯びているんだろうと思います。

ちょっと政治的な話ばっかりになっちゃって申し訳ないですが、まあそういう議論が起こらざるを得ない映画でもあるのでご勘弁を。とりあえず政治的な社会派映画に興味があるなら、一見の価値はあるでしょう。面白くないという意味ではなく、別の意味で「観なきゃ良かった」と思う可能性もありますけどね…。

このシーンがイイ!

ん〜〜杉原と元上司・神埼が食事するシーンかなぁ。あれは後半に向けてもすごく大事なシーンだったし、タイミング的にも杉原の苦悩を浮かび上がらせる絶妙なところで入ってきたように思います。

ココが○

やっぱり単純に「権力に楯突く」部分がある企画なので、よくこれを撮って公開したなというところは絶対に外せないところでしょう。

加えて監督が「新聞もろくに読まないし政治にも興味がない」ノンポリだった、っていうのもかなり大きなポイントだろうと思います。

観る人の立ち位置によっては“色がついて”見えるかもしれませんが、やっぱりこの映画の本質は「現実をうまく利用して政治サスペンスを作った」部分で、決して声高に批判の声を挙げている内容ではないと思うんですよ。そこが映画として良いんじゃないかなと。

ココが×

やっぱり世間的にも言われてますが、ラストは少し引っかかりましたね…。早い話が「逃げた」ようにも取れるので。

ただまあ「あとはご想像にお任せします」系エンディングも普通に多いし、その一つとして各々どうだったのか考えれば良いんじゃないの、と。

MVA

ウソかホントかはわかりませんが、何人かの日本人女優に主演女優を断られたから韓国人のシム・ウンギョンになったとかなんとか…ほんとかなー。でも確かに(彼女は良かったんですが)主人公としてたどたどしい日本語を話す人物である必要があったのかは少し気になりはしたので、そういうこともあったのかもしれません。

売れっ子でありながら“問題作”に出た松坂桃李や本田翼はすごいしエラいと思いますが、一番良かったのはこの人かなー。

田中哲司(多田智也役)

肩書きは出てこなかった気がしますが、おそらく内閣情報調査室室長。杉原の現在の上司です。

もう脅しの堂に入りっぷりが素晴らしくて悪役として最高だったと思います。もちろん脚本の良さもあるんですが、ご祝儀の渡すタイミングだとか家族の存在を匂わせる言い方だとか…最高にブラックな上司でしたね。この人あってこそのこの映画でしょう。

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