映画レビュー1533 『太陽を盗んだ男』

引き続き特に観ようかなと思うタイトルがなかったんですが、時間的にそこそこ余裕があったのでいつか観ようと思っていたこちらの映画をチョイス。

太陽を盗んだ男

The man who stole the sun
監督

長谷川和彦

脚本

長谷川和彦
レナード・シュレイダー

原作

レナード・シュレイダー

出演

沢田研二
菅原文太
池上季実子
北村和夫
神山繁
佐藤慶
伊藤雄之助
風間杜夫
西田敏行
水谷豊

音楽

井上堯之
星勝

公開

1979年10月6日 日本

上映時間

147分

製作国

日本

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

太陽を盗んだ男

すんごいパワー。

8.5
無気力な理科教師、原爆を作って政府を脅し好き放題
  • 中学校の理科教師がプルトニウムを強奪、原爆を完成させる
  • それを元に日本政府を脅迫、ナイター中継を延長させたりと好き放題
  • いつも聴いているラジオDJも巻き込んで世間を騒がせる
  • 後になってじわじわ思い出しそうな特異な映画

あらすじ

かなり評価が高いので期待していた分、面白かったけどそれほどではなかったかな…と感じたんですがそれは多分僕の感受性と知性の問題かと思われます。

とある中学校の理科教師である城戸誠(沢田研二)が生徒たちを引率して社会科見学に行ったあと、乗っていたバスが突如武器を持った老人(伊藤雄之助)によってバスジャックされ、城戸と生徒は人質となった状態で犯人の求める皇居まで向かいます。
天皇との謁見を求める犯人に対し、丸の内警察署の山下警部(菅原文太)が交渉役としてやってきてなんやかんやあった後に事件解決、城戸たちは日常へ戻ります。
が、それがきっかけとなったのかなんなのか…それ以降の城戸は勝手に原爆の作り方についての授業を行うなどの奇行が目立ち始め、やがて東海村の原子力発電所からプルトニウムを強奪、アパートの自室で原爆製作に取り掛かるように。
苦労の末完成した原爆を使って日本政府を脅迫する城戸、最初の要求は「プロ野球のナイターを試合の最後まで見せろ」でしたが…あとはご覧ください。

この時代だからこその強烈さ

普通の中学教師が原爆を作って日本政府を脅す、というとんでもない話。あらゆる面で今の時代では作れない映画だろうな、と思います。
ストーリーもそうですが、それ以上に国会議事堂や皇居前広場でゲリラ撮影してたり、首都高で無許可カーチェイス撮影してたりとかなりダイナミックな演出がなされていたようで、いやもうなんというか時代。時代すぎる。
「昔は良かった」なんて安易に懐古主義なことを言うつもりはありませんが、ただこうして無茶苦茶なやり方でもすごい映画作ってやるぞという熱量と、ダメだとわかりつつも大目に見ちゃうような大衆の時代性はちょっと羨ましいですね。今だったらたとえ同じように撮影できたとしても間違いなく大量の苦情により問答無用で公開中止になるでしょう。
それ以外にもなかなか大変なエピソードが聞こえてくるだけに、劇外の部分でも規格外な“ものすごい”映画だったことは間違いないところです。

そんな撮影現場からしてカオスな映画ですが、内容的にもぶっ飛んでるしさすが今も名を聞く一本だなと思いつつ、やはりこれまた時代故か若干テンポ的に退屈してしまう面もあってなんなら少し眠くなったりもしました。
特に序盤の原爆製作過程はもう少し削っても良いんじゃないかなと思います。かなりご丁寧に工程を見せてくれるので。
その割にレクチャーではないので当然これを見たからと言って「みんな作れるようになるぞ!」という話でもないし、見せ場としてそこまで強いわけでもないのでちょっと中途半端な時間が長かったかなと。
その他大枠で見ても結構雑な展開はあるし、全体的に勢いと攻撃力で見せきる映画、というような印象。

まあやっぱり言うまでもないことですが、唯一の被爆国である日本を舞台に原爆を作った日本人が政府を脅す、というストーリーはいろんな意味で劇薬だろうと思うんですよ。
ちょっと方向性がズレただけでものすごい批判を浴びそうなセンシティブなテーマだし。入口の時点でちょっと構えてしまうというか、政治的な意図があるんじゃないかと思いながら観てしまうような側面もあって。
しかし観てみると完全にエンタメに振り切った内容だし、逆に言えばエンタメに振り切った内容の映画でこのテーマを引っ張ってくるセンスがすごい。
それに加えて撮った監督が胎内被爆者であることで黙らせる説得力を持ったような作品でもあるので、もうそのバランスからして伝説的な映画になるべくしてなったような作品かと思います。出自もテーマも撮影もすべてがとんでもない。
言ってみれば日本人が持つスティグマを吹き飛ばすかのような、かなり高所から「どうだ」と豪快に叩きつけられる気持ちよさのようなものも内包していて、いやほんと考えれば考えるほどすごい映画だなと思います。
観終わった当初は「主人公(城戸)の動機もよくわからないまま成り行きで展開していく感じだし微妙だな」ぐらいに思っていたんですが、逆に城戸がもっと明確なメッセージ性を持って原爆を作ったとなると一気に政治的な意図が感じられてしまい、エンタメから離れていってしまう上に裏読みの余地が出来て余計な軋轢を生みかねないとも思うので、多分この主人公のキャラクターは相当考えられているものなんでしょう。そこも含めてやっぱりすごい映画だと思います。
最初の脅しが「ナイター延長」からもわかる通り、城戸は大きな目的があったわけではないんですよね。きっと。
なぜ原爆を作ったのか、と聞かれれば恐らく「作ってみたかった」、「作れるか試してみたかった」ぐらいなのではないかなと。
そうであればその後の成り行きで進んでいくいい加減な彼の行動も納得できるし、その作り出したものの影響力と彼の動機がアンバランスすぎるところにこの映画の妙な破壊力があるのではないかと今改めて振り返ると思います。

一度観てみてもいいのでは

これも時代的なものかもしれませんが、なんとなくアメリカン・ニューシネマっぽい映画でもあるし、そこも結構好きでした。
でもカーチェイスはブルース・ブラザース、みたいな。カオス。
観終わったあとに「これは恐らく鑑賞直後よりも後からじわじわ思い出してすごさがわかってくるタイプの映画じゃないか…?」と思ったんですが、レビューを書いていてまさにその通りになりました。
ちなみに僕はこれを個人的な経験から「ブレードランナー方式」と呼んでいます。

なんとなくまとまらないんですが、簡単に言うと「映画そのものの完成度の先にある何かよくわからない存在にやられる」ような映画ですね。
作り手の情熱やら執念やら喜怒哀楽やらが映画を通して浴びせられてくるような映画というか。
こういう映画はやっぱり記憶に残るし何かが違うんですよね。何かが。それが何かはわかりませんが。
世間一般で言われるほどテンション高く「傑作!」とは言えないんですが、ただ日本人として一度は観てみると良いような気はします。
それによって何かが変わるとか一皮むけるとかでもないんですが…一種の通過儀礼というか、唯一の被爆国国民として変わった角度からの自己回顧になるような気がしないでもない、みたいな。
そう言った面でも結構不思議な映画ですね。ハチャメチャだし雑なんだけど深い何かがある、そんな映画です。多分。

ネタバレを盗んだ男

ここに書くようなことでもないかもしれないんですが一応。
城戸が飼っていたニャーン、原爆製造の過程で死んでしまうのですごくつらいしここは無くても良いんじゃないか…と悲しくなったんですが、Wikipediaによると撮影時業者に「(死んでも代わりは)何匹もいますから」と暗に殺しても構わないと言われたものの、監督がどうしても死なせたくなくて「絶対に殺さずに死んだように見せろ」と命令して撮らせた、とあってすごく良いエピソードだなとほっこりしました。死んだ猫なんていなかったんだ…!
ちなみにその命令されて撮った第二班の監督があの相米慎二だそうです。

このシーンがイイ!

やっぱり終盤の文太さんと対峙するところでしょうか。いろんな意味ですごすぎて笑っちゃう。

ココが○

ん〜やっぱり映画そのものが持つエネルギーでしょうか。
後付でゲリラ撮影のエピソードとかを知ったんですが、知らなくても観てれば「なんかすごいことやってんな」ってわかるんですよね。一発勝負感が伝わってくるというか。
そういう部分がつなぎ合わさっている映画なので、自ずと何かよくわからない凄みが感じられてそこが良いなと。

ココが×

城戸がニャーンを飼っているんですが、この子の扱いが結構ひどくてそこがつらかったですね…。愛猫家の方は要注意でしょう。

MVA

ジュリーも若い頃の文太さんも池上季実子もみんな初めて見たので新鮮でしたが、やっぱりこの人かなー。

沢田研二(城戸誠役)

主人公の理科教師。原爆作ります。
ノンポリっぽさがすごく上手で、この人のこの無気力っぽい雰囲気がこの映画に変な色をつけず受け入れられやすい内容にしたのかなと思います。その意味ではこのキャスティング自体がすごい。
当時は超大人気アイドルだったはずですがあんまりそんな雰囲気もないのも逆に良い。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です