映画レビュー1472 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』
もう某Xは見なくなって久しいんですが、代わりに生息しているタイッツーですら結構な話題に上がっていて気になっていた映画。少し前ですが金曜の仕事終わりに急いで観に行って来ました。
トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦

娯楽アクションの極み。
- 九龍城砦を舞台に繰り広げられる縄張り争いと過去の因縁
- アクションに人情、笑いに友情と古き良き娯楽映画感
- 出てくるやつがどいつもこいつも強くて草
- 九龍城砦での生活のエネルギーが伝わってきて元気になる映画
あらすじ
前評判通り、きっちり楽しませて頂きました。即座にもう一回観たいぜ!
1980年代の香港。
熾烈な裏社会(黒社会)の縄張り争いが落ち着いた後。
密入国したチャン・ロッグワン(レイモンド・ラム)は黒社会の大ボス(サモ・ハン・キンポー)が主催する賭け試合に出場し、その腕を大ボスに見込まれ組織に誘われますが黒社会には入りたくないと拒否、身分証だけくれと伝えて後日取りに来るとあからさまに粗悪な身分証を渡され憤慨。
近くにあったずだ袋的なものをひったくって逃走、大ボスの支配が及んでいない九龍城砦に逃げ込みます。
袋の中身は金かと思いきやどうやら薬物の様子で、やむなく九龍城砦で捌いているらしき連中のところに売り込みに行くと「トラブル持ち込んで来るんじゃねぇ!」とこれまた追われるハメになり、逃げ込んだ理髪店の店主を人質に取って逃げようとしたところその店主がとんでもねー強さで返り討ちにあってしまいます。
改めて聞いてみたら彼はロンギュンフォン(ルイス・クー)という九龍城砦のリーダーでしたとさ…!
後日トラブル防止のため、また命を守るため盗み出した袋をロンギュンフォンに明け渡すよう言われたチャン・ロッグワンは渋々承諾、しかし金もないので行くアテもなく、仕方なく九龍城砦で“野宿”生活を始めますが…あとはご覧ください。
舞台よし、アクションよし、キャラクターよし
今さら説明するようなものでもないですが、「九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)」とはその昔日本においては「九龍城(くーろんじょう)」と呼ばれていた場所で、無計画に(当然安全性やインフラの配慮など無い形で)増築され続けた巨大なスラム街です。
今はもう取り壊されてしまいましたが、現存していたら一度観に行きたいぐらいには他にないカオスな魅力がたっぷり詰まったまさに名所。軍艦島辺りと同じようななんとも言えない魅力を持ったスポットですね。現代では絶対に作れない遺構みたいなもんですよ。(ちなみに細かいことを言うと「遺構」は“残っているもの”なので取り壊されている九龍城砦に使うのは間違っているんですが細かいことなので文句言うな)
で、今作ではそんな九龍城砦を舞台にバトルが繰り広げられるわけですが、主要な舞台だけあってセットも非常によく出来ていて、なんでもプロデューサーが実際に幼少期九龍城砦で育った人だったことからもわかる通り、相当その出来にはこだわっていると思われます。チラ見した情報によると10億円かかったんだとか。(でもハリウッド映画の予算感を考えると“たった”10億円でこれが作れるのは逆にコスパが良いような気もする)
そんなわけで、まずこの舞台となる九龍城砦の作りの良さとその中での暮らしが垣間見える作り、というのがめちゃくちゃ良かったですね。それこそ「観に行きたかったあの場所」を再現してくれたような感じで。
今「暮らし」と書きましたが、ただのアクションやら因縁やらの話に終始せず、しっかりそこで暮らす人たち、主要人物ではない人たちの生活も垣間見えるところが本当に好きでした。
カオスだけど、いやカオスだからこそでしょうか、場所そのものにものすごくエネルギーがあって、その生活感からあの頃の時代を感じさせてくれるような。
九龍城砦と言えばそれこそ裏社会的な、治外法権のようなイメージが先行しがちだったんですが、そういう形ではなく普通に人々が暮らしていて、そこには子どもも居ればじいさんばあさんもいて、美味しそうな料理が出てきて…みたいな、文字通り「生きている」九龍城砦の姿が見られたのが本当にものすごく良かったです。そこが主役と言ってもいいぐらい。
が!
本当の主役はもちろんアクションだ! バカヤロウ!!
ということでさすがの香港映画、アクションはやっぱりワクワクさせられて素晴らしいの一言。
特に(これまた香港映画では珍しくないですが)出てくる主要人物は大抵拳法の心得があって強いのが最高です。爺だろうが強い。やっぱりそうこないと…!
我らがサモ・ハン御大もすでに70を越えてますが当然強い。なにせ大ボスですからね。彼のアクションシーンこそ少ないものの、しっかり強者感のある見せ場があって大満足です。
まーでも何と言っても今作はロンギュンフォンを演じるルイス・クーですよ。
主人公は一応レイモンド・ラム演じるチャン・ロッグワンですが、でも観た人のほとんどはロンギュンフォンに痺れたんじゃないでしょうか。漢字で書くと「龍捲風」ですからね。もう字面からしてかっこよすぎる。
初登場シーンでチャン・ロッグワンに格の違いを見せつけるんですが、くわえタバコをスッと投げる→殴る→ズバッと2本指でタバコキャッチ、の流れがかっこよすぎて笑いました。劇場で。俺ァ人類史上最もかっこいいタバコキャッチを見たね。
その後も人情味あふれるタイプながら終始くわえタバコ&渋顔で佇む彼に痺れない人はいるんでしょうか。そして当然のように超強い。まあそりゃあそうですよ。九龍城砦率いてますから。
そして物語上重要な意味を持つ彼の過去も語られつつ現在への繋がりを描いていくことになるよ、と。もう完全に裏主人公です。
ちなみに今作、前日譚と後日譚が製作されることが決定しているそうで、となると当然ロンギュンフォンも出てくるでしょうよ…! スーパー楽しみですね。またやってくれよタバコキャッチ。
また本来の主人公であるチャン・ロッグワンは九龍城砦に転がり込んできた言わば“外様”なんですが、次第に住人たちとも打ち解けて友情物語的に展開していく後半戦も非常にアツい。そしてもちろんみんな強い、と。
医者ですら強いですからね。最高ですよ。
そしてイケメン揃いでもあるのでご婦人も大満足に違いありません。
特にロンギュンフォンの右腕であるテレンス・ラウ演じる信一(読みはソンヤッ)なんて男の自分が見てても「はえーイケメン来たね」と感心しちゃうぐらいわかりやすくイケてます。日本のファンもすごく増えそう。
その他にも詳細は書きませんが「うわこいつモブ感すごいな」と思って観ていたキャラが徐々に存在感を増していくのも意外性があって面白さに加担していたと思います。(面白さに加担)
ラスボスなんて文字通りマンガみたいな強さで「こいつ絶対キング・オブ・ファイターズ開催するクチだろ」と思わざるを得ません。凶悪なCPU戦の強さを思い出させるレベル。ルガール・バーンシュタインよもう一度。
日本人スタッフの貢献度も高い
僕は自分ではそんなにアクション映画は好きではないと認識しているんですが、やっぱり香港アクション、格闘メインの映画は違うなと改めて感じました。
ちなみに散々「さすが香港映画のアクションは違うぜ…!」と書いておいてなんですが、アクション監督はなんと日本人です。「るろうに剣心」等でも実績のある谷垣健治さんが担当しているんですが、インタビュー等読んだら完全にジャッキー・チェンに感化された人生を歩んでいるお方らしく、おそらくは香港のスタッフ以上に香港映画への想いが強いと思われるのでこの出来も納得しかありません。
たまにいますよね。日本人より侍や忍者に詳しい外国人とか。そういう感じかなって。
音楽は「イップ・マン」シリーズでおなじみの川井憲次さんで、ここでも日本のスタッフが活躍しております。こういう国を超えたオールスター感みたいなのもまた良いポイントですね。
例によって細かくアレコレつつくような映画ではないので、もう耳元で「観ろ!」と叫んで終了です。
当然こういう映画なので細かく突っ込めば矛盾するところもチラホラ見られましたが、「そんなことはどうでもいいだろ」という勢いがあるので全部許せます。「何か月も身体1つギリギリ入るような檻の中で生きてたんかワレェ…」とか言わない!
とにかく観ていると熱が上がる、元気が出るようなエネルギーを存分に浴びられる作品なので、ぜひ観て頂きたいところです。最高でした。
このシーンがイイ!
麻雀のシーンとかいろいろいいな〜ってところもあったんですが、まあやっぱり僕としてはロンギュンフォン初登場シーンですね。「ウヒョー」って言ってましたね。確実に。「ウヒョー」って。
ココが○
描写としては嘘くささも強いアクションなんですが、それが逆にマンガっぽくてより乗せてくれる感じがあるというか。インド映画とかにも近い、やりすぎることでのめり込んでしまう作りなのが最高です。
リアリティを求めちゃダメ。
ココが×
おそらく劇場の問題だと思いますが、画面がかなり暗かったのが残念。もうちょっとしっかり何をしているのかを観たかったので早いとこ配信に来てほしいですね。
それと唯一と言っていいぐらい惜しいと感じた点は「女性強者」がいなかったこと。ここに超強いミシェル・ヨー姉さんでもいたらヨダレで溺れるぐらい最高だったんですが。総じて女性の影が薄めだったのがちょっと残念でした。
前日譚 or 後日譚にそういった女性が出てくることを期待しましょう。
MVA
これはもう脳内満場一致でこの人です。
ルイス・クー(ロンギュンフォン役)
九龍城砦のリーダーで理髪店店主。
理髪店っていうのがまたいいじゃないですか。全然強そうな職業じゃないのが。
もう渋みの外に渋みがコーティングされているような渋さでイケオジ好きにはたまらないキャラクターであることは間違いありません。世のイケオジ好きは絶対に観たほうがいいです。
かなり枯れ感も出ていてそこもすごく良かったんですが、普段のルイス・クーはもうちょっとこってりした印象もあるのでやっぱり役者さんすげーなというところ。