映画レビュー1171 『殺人蝶を追う女』
これ絶対「すごいんだけど面白くはない」だろうと観る前からわかっていたので観ようかどうかむちゃくちゃ迷ったんですが…こんな機会は滅多に無いだろう、ということで祝日前の夜に観ました。知る人ぞ知るカルトムービー…だそうです。
殺人蝶を追う女
キム・ギヨン
イ・ムンウン
ナムグン・ウォン
キム・ジョンチョル
キム・ジャオク
パク・アム
イ・ファシ
キム・マン
ユ・スンチョル
ハン・サンギ
1978年12月2日 韓国
110分
韓国
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

10年に1度の衝撃、ただしオススメはしない。
- 殺されかけて自殺願望に取り憑かれた男の生活
- vs爺、vs骨女、vs自殺願望の女の3部構成
- 「なんの映画だよwwwww」とツッコミ続けることウケアイ
- しかし不思議な魅力あり
あらすじ
いやすごかったですねこれは。本当にすごかった。
面白いかと聞かれれば「面白かった」とは言いにくいんですが、かと言ってつまらなかったとも言えない、通常の「映画鑑賞」の範疇には収まらない“何か”がありました。一期一会でクセの強い面白い人と酒を飲んだような感覚。(わかりづらい)
陰鬱とした雰囲気の主人公・ヨンゴルは大学生。ある日友人に誘われピクニックに行くと、一人座っていた女性にいきなりジュースを勧められます。
グイッと飲むとそれは毒入りのジュースで、女は「死ぬために誰かが来るのを待っていた」と出会い頭の無理心中。いきなりすごい。
女は念願叶って死んだものの、ヨンゴルは一命を取り留めます。しかしその日以来死に取り憑かれてしまい、家で自殺しようとしたところに勝手に上がりこんで本を売りつけようとする爺さん登場。
爺さんはやたら持っている本を買えと勧め、「意志の力があればなんでもできる、俺は意志の力で死なない」と全力アピール。うるせえ爺だったら殺してやるとヨンゴルが殺そうとアレコレしますが爺は言う通り死にません。
もう殺す手立てが無くなったヨンゴルは爺を生きたまま火にかけますが、やがて骨になって舞い戻る爺…! マジで死なない…!
その他、骨を拾って来たらリアル女に戻った話や彼と同じく自殺願望に取り憑かれた教授の娘とのお話など、3部構成でお楽しみください。(全体的にこいつ何を言ってるんだ感のあるあらすじ)
東洋のプラン9説
もう説明が難しいことこの上ない映画なので「あとは観てね」で終わりたいところですが…そういうわけにもいかないので何か少し書きます。
まず上に書いた通り、大きく分けて3部に分かれています。とは言っても「第1部」とか出るわけでもなく、同じ主人公で話は一貫して続いていて普通の映画と一緒ではあるんですが、その1〜3のパートにおける話にあまりシームレス感がなく、(つながりはあるものの)独立した話として見える部分が大きいので便宜上3部構成になっている…と言う感じ。
最初のパートで「死なない爺」相手に結構な立ち回りを演じ、もはやそのエピソードのみで世界中にその名が轟きかねない大事件であるにも関わらず、シーンが切り替わると普通に大学生としてそのまま生活しているという衝撃。あの爺さんなんだったんだ感。
続く第2部では洞窟から骨を拾って組み上げたらリアル女性に復活した、というこれまた天地を揺るがす大事件なんですがそれも一段落ついたら何事もなかったかのようにダンディな教授の助手として働き始める、という塩梅。俺が観ているのは幻なのか…!?
終始こんな感じで何を言いたいのかよくわからないまま話は進み、またいちいち突っ込んでいたら話が進まないぐらいにツッコミポイントだらけでとにかくスゴイ。
「ちょっとプラン9っぽい」と言うご意見もあるんですが、確かにあんな感じでチープかつ謎の話ではあります。ですがあそこまでナンセンスな感じでもなくて、一応通底するテーマは(最後まで観れば)これだろうなと言うものはあるし、それぞれのシークエンスではそれなりにきちんとドラマっぽいやり取りはしてるんですよね。
鑑賞前にあまりにもゲテモノ的な評判を聞いていたのでかなり身構えていたんですが、その想定よりかはよほどちゃんと「物語」を展開させてくれる映画ではありました。何を言っているのかはわからないが何となく言いたいことはわかる、みたいな。
そんな映画なのでどう評価すればいいのか非常に判断が難しいんですが、ただ「くだらねぇ」と捨て置くほどひどいものでもなく、決して「(物語が)面白かった」とは言い難いものの、しかし楽しめたのは事実だしきっと一生忘れないであろうぐらいには衝撃を受ける映画だったので、結果的には観て良かったなと思います。まーすごかった。
まさにカルト映画
最後まで観るとところどころ衝撃的で、これはもう観たことがある人と語れば絶対に盛り上がるであろう“ものすごいシーン”がいくつかあるんですが、しかしいかんせん結構な中だるみ感があるのも事実です。(便宜上の)第3部、教授が出てきてからしばらくはかなり退屈なのも確か。
それでもエンディング間近になるとそれまでの衝撃を超える“ものすごいシーン”が出てくるので油断なりません。
「それする必要ある!?」と突っ込まざるを得ないとあるシーンは衝撃的すぎて茫然自失になり、その後笑いが押し寄せてきました。この映画マジでなんなんだ…。
監督はあのポン・ジュノが師と仰ぐ(と言われている)キム・ギヨンですが、後年「どんな内容かすっかり忘れた」と語っていたらしく、「実は観客が理解できないだけですごく深い映画なんだ」と思いきや単純にいい加減に撮った映画なのかもしれないし、そうであればそのままひでえなと言う話なんですがそれでもどこか勢いと愛嬌があるのがすごい。
僕も今までそれなりに映画を観てきたと思いますが、その中でもダントツにカルトな映画だと思います。機会があれば一度は観て欲しい。
多分最も正しい形容詞は「すごい」だと思うんだよな、この映画…。いろいろすごかったです。監督とは違い、自分は本当に一生忘れないでしょう。
このシーンがイイ!
一番はろうそくのシーン。次点でポン菓子作りながらアレするシーン。機械止めろよ!! 意味がわからなすぎて大爆笑しました。
あと序盤しょっちゅう袋のインスタントラーメン作るのもツボだし、唐突にハーモニカ吹くのもツボでした。もう本当にあちこちでめちゃくちゃ笑いましたよ…。
ココが○
なんでしょうね…唯一無二なところ、でしょうか。極めてチープかつ意味がわからないものの、決してふざけているわけではない(気がする)妙な実直さみたいなものも感じます。
それと完全ナンセンスと言うわけでもなく、一応通底したメッセージがあると思われるところも良い点と思いたい。
ココが×
やっぱりどうしても常識から外れた話なだけに物語性は評価しづらい面があり、正直「面白いのかつまらないのか」すらきちんと判断できないぐらいに脳が混乱しました。「映画を観よう」と思って観るとまったく違う疲労を感じると思います。
もはやこれがなんなのかも自分にはわからず、何でできているのかわからないものを食べてそれなりに美味しかったもののこの先自分にどんな変化が起こるのかわからないような気味の悪さがありますね。果たしてこれを摂取してよかったのか、みたいな。
MVA
正直誰でもいいよ(主要メンバー全員癖が強い)と思いますが、この人に。
キム・ジャオク(ヘウォン役)
何分あまりにも情報がなさすぎて誰が誰なのか調べるのも一苦労なんですが、歳をとってからの画像に若かりし頃の面影があったのでおそらくこの人で合っていると思われます。第3部に登場する教授の娘役。
一番しっかり芝居をしていた気がするし、今観てもかわいい。この映画にはもったいないぐらいの頑張りが伺えました。
主人公の人も良かったですけどね。ずっと眼力強くて疲れないのかな、っていう。最後はアレだし。すごかった。