映画レビュー0368 『十二人の怒れる男』
「知ってる名作ご紹介」シリーズ。今勝手に作っただけなので続くかは不明です。2度目の鑑賞。
言わずと知れた密室劇の金字塔的サスペンス。
十二人の怒れる男
いまだにいろいろリアル。他人事ではない奥深さ。
「陪審員が事件を検証し、有罪・無罪を判断する」と書いちゃうと難しそうですがまったくそんなこともなく、老若男女誰もが楽しめる名作中の名作です。
確か僕の記憶では「初めて観たモノクロ映画」だったんですが、当時「色なんて関係ねぇ!」とショックを受けるほどの面白さを感じて、その後の映画チョイスにも影響を与えた偉大なる作品と言えます。
概要は上に書いた通りで、ひたすら12人で議論をするだけ、舞台もほぼ陪審員室のみという低予算を絵に描いたような映画ですが、それぞれが個性的な、でもいかにもいそうなタイプの人間像を見事に体現、「演技に見えない演技」でリアルな議論に集中させてくれます。
事件の概要自体は予め語られるようなこともなく、観客はこの陪審員たちの議論から断片を拾っていく形になるので、言ってみれば「エンディングでの結論ありき」の事件とその証言・証拠になっている感はあります。
ストーリーの流れに沿ったタイミングでの新事実や検証が入るので、全体的に都合がいいと言えば都合がいいんですが、そういう「作り物っぽさ」を排したリアリティのあるセリフが本当に見事で、自分もその場で議論に参加しているような臨場感がスバラシイ。
何度か(物語上の)休憩が入って、そこでまったく中身とは関係のない「登場人物の日常」が見えるような会話が挟まったりするんですが、そのおかげで議論一辺倒にするよりも登場人物がより生々しくなって、「この議論に終わりは来るんだろうか」という陪審員たちの焦燥感のような苛立ちに似た感情も共有できる、その観客の巻き込み方がものすごくうまい。
「12人の優しい日本人」はやっぱりどこか舞台っぽかったんですが、こっちは臨場感が全然違うと思いましたね。登場人物の肉付けとそのためのさりげないシーンの入れ方がすごくうまい。さすがシドニー・ルメット。
結論はある程度読めるし、上に書いたように事件の解説もストーリーありきではあるので、実はこの映画の一番の見どころは「人間」なんだと思います。どういう価値観を持った人間がどういう意見を持っていて、どこでその考えを変えるのか、その立ち居振る舞いのリアリティがこの映画なんでしょう。
「人間」そのものが見どころだからこそ、今観ても古くないし、楽しめるんだなと。
例えば一人、偏見まみれのオッサンが出てきますが、これなんて「うわぁ、ネトウヨっぽい」って思いましたからね。完全にネトウヨが中韓朝・在日の人たちをこき下ろす理論と一緒で、いかに滑稽な価値観なのかあぶり出す残酷さがありました。
人間はいつの時代も変わらない、と。悲しくもありますが、反面、ヘンリー・フォンダ演じる陪審員8番のような人も相変わらずいるんでしょう。そこに希望があるのかなと。
今の日本は検察・司法ともズブズブでひどいもんなので、もう一度そういう職に就く人たちにはこの映画を観て頂いて、初心を思い出せよと言いたいですね。いやこれほんとに。
このシーンがイイ!
エンディングかなぁ。どうってこと無い終わり方ですが、さらっとオトナな感じが素敵。言外にいろいろ含んでる感じが良かった。
ココが○
これはもう、散々書きましたが「リアリティ」に尽きるでしょう。登場人物、理論の進め方、セリフ、そして演技とどれも完成度が高く、古典的名作としてこの先もずーっと愛される映画であり続けるでしょうね。
最後は少ししんみりしたりもして、味わい深い映画です。
ココが×
最初に観た時は気にならなかったんですが、今回は数人、なんで意見を変えたのかが見えてこない人がいました。丁寧さを欠くような部分が少しだけあったかな、と。
本当にちょっとだけ、なんですが。
MVA
本当にどの人もそれっぽく、演技とは思えない名演ぶりで。「ああ、そう言えばこの爺さん、昔観たときにおひょいさんっぽいと思ったなー」とか思い出したり。やっぱ似てた。で、チョイスするのはコチラの方。
リー・J・コッブ(陪審員3番役)
激しやすい、息子と喧嘩中のオッサン。
本当にこういう人なんじゃないか、っていう勢いのある演技が良かったですね~。まあ、ただどの人も“それっぽく”て、文句無しですよ。