映画レビュー1451 『アド・アストラ』
今回はまだ終了来ていないやつです。
ちょうどAudibleで「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を聴き終えたタイミングで、宇宙熱が高まっている今こそ…! と若干微妙な評価なのも承知の上で鼻息荒く観ることにしました。
ちなみにプロジェクト・ヘイル・メアリーは超良かったです。
アド・アストラ
ジェームズ・グレイ
イーサン・グロス
2019年9月20日 アメリカ
123分
アメリカ・中国・ブラジル
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

もう少し若手の方が良いのでは。
- 宇宙飛行士の父にコンタクトを取るため宇宙飛行士の息子が火星へ向かう
- 父の生存(未確認)情報は極秘、任務も極秘
- 途中まではスリラー感も上々で悪くないが…
- 父も息子もちょっと歳を取りすぎでは
あらすじ
イマイチと聞いていたのでハードルが下がっていたこともあり、思ったよりも面白かったんですが…やっぱり地味だし気になるところも多いしで微妙なところ。
優秀な宇宙飛行士のロイ(ブラッド・ピット)は上層部に呼び出され、16年前に連絡を絶って海王星付近で死亡したと思われていた伝説的な宇宙飛行士の父、クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が実は生きているらしいこと、そして彼とコンタクトを取るための極秘任務に就いてほしいことを伝えられます。
通信は火星に築いた基地から行う必要があるため、月経由で火星に行くことになったロイですが、しかし(当然)いろいろなトラブルに見舞われることになります。
どちらももう1世代ぐらい若い方が…
あらすじにもありますが、一応設定上は「火星に基地を建造するぐらいの近未来」が舞台のお話です。
今よりもだいぶ進んではいますが、しかしあまり未来感も強くなく、割と現在の延長線上的なSFで難解さも無くて観やすいお話。
ブラピ演じる息子の方は優秀と言われつつも“伝説”とされる父親に引け目を感じている部分があり、また若干ぎこちない関係でもあったようで、要は父親に対してコンプレックスを抱いているような関係のため、結局「太陽系を広く使って対父コンプレックス解消の旅に出る」ようなお話になっています。
ただねー、そういう「父親に対する複雑な思い」を抱く人物としてはちょっと歳を取りすぎだと思うんですよ。
ブラピはもちろん好きだし、トミー・リー・ジョーンズも良いんですよ。良いんですけど、さすがに宇宙飛行士としては(近未来であることを差し引いたとしても)歳を取りすぎではないかと思います。トミー・リー・ジョーンズなんてマジでお爺ちゃんですからね。もう。
ブラピはギリありかなと思いますが、どちらかと言うと父をブラピが演じて息子はもっと若い役者さんがやった方が絶対すんなり納得できた話だと思うんですよね。いくらイケてようが還暦近い男が父親へのコンプレックスを云々するのはさすがにちょっと無しじゃないかなぁと。
息子をやるならせいぜい40代前半ぐらいまでの役者さんだと思います。ATJ辺りでも全然良いと思う。
で、お父さんはジョージ・クルーニーとかその辺。そうするとだいぶ納得感が出てくると思うんですよね。(ゼロ・グラビティのおかげでほんのり宇宙飛行士のイメージあるし)
もうそればっかりずっと気になっちゃってちょっと気が散った面はありました。お気楽さを封印したブラピの演技はすごく良かったんですけどね。
トミー・リー・ジョーンズは途中退場しちゃうドナルド・サザーランドと合わせて「スペース・カウボーイ」のファンサ的な側面もあったんだろうと思うんですが、でもやっぱりちょっと年寄りすぎる。
おそらくプロデューサー兼任のブラピが「俺がロイやるでぇ」となってじゃあ逆算的にそのお父さんとなると、「スペース・カウボーイ」もあるしトミー・リー・ジョーンズで…となったんじゃないかなと推測しますが、となるとやっぱりもう主人公選定の時点で違うだろと思わざるを得ません。
これが主人公だけの話であればまだ全然構わないんですが、父親が重要な話でもあるので…。
なんならあの年齢で宇宙に一人だとボケててもおかしくないぐらいの年齢なので、そこでもよりフィクション感が強まってしまうというか…。
本当にそこが非常にもったいない映画でした。役者さん自体は好きだけどキャスティングに不満があって話の魅力が削がれる、ってあんまり経験した記憶がない(役者さんが好きじゃないのはいっぱいある)ので、その意味では自分の中では結構レアな残念感だったかもしれません。
それともう一つ、僕なんて完全に「ただのSF好き」程度の一般人ですが、そんな大して科学に詳しくない人間から観ても「これはちょっとおかしくないか?」と思うような科学的描写が散見されたのも非常に残念。
一番思ったのは火星での通信シーン。火星から海王星に向けて通信するんですが、手紙を読んだ直後に「リアクションは?」みたいに聞いてるんですよ。早すぎない!?
いくら近未来だろうがさすがに光の速度を超える通信速度が実現しているとは思えないんですよね。物理的に不可能じゃないかと。
もっと言えば何らかのテクノロジーによって光で通信したとしても相当な時間差があるはずで、もうこの時点で「ウソでしょ」となりました。
ちょっと調べたんですが、Wikipediaによると太陽⇔地球間でも光速で片道8分19秒かかるそうです。太陽と地球の距離が約1億4960万km、太陽と海王星の距離が約45億km、地球と火星の距離が(一番遠くて)約1億kmぐらいらしいので、簡単な計算でも4時間ぐらいはかかるはずなんですよね。片道で。
もちろんそんな詳細な数字を浮かべるまでもなく、普通に考えて「もしもし?」「はい」なんてやり取りが可能なはずがないのはフツーの人間ならちょっと考えればわかるはずです。増してや宇宙飛行士とか火星の基地で働いてる人間が、ですよ?
「演出上、待ち時間はカットした」って感じでもないんですよね。ブラピずっとマイクの前に座ってるし。
これはちょっとさすがにどうなんだと思うのが普通でしょう。読み上げ終わったら一旦自室で待機→その間父親への思いを巡らせる→結果、って流れなら全然良かったんですが…。
それとネタバレ回避的に詳しくは書けませんが、終盤のパワープレイも衝撃的すぎて失笑もの。一つだけでなくいくつも強引なので「マジカヨ…」と絶句しました。
SFコメディなら全然いいと思うけど、この真面目なドラマでこれは…。
雑すぎる科学的描写は潰してほしい
ちょっと周辺事情への苦言が多くなってしまいましたが、肝心の物語そのものは悪くないもののやはり地味な面は否めず、そして“仕立て”がよろしくないと来ると…やっぱりいろいろ厳しい評価になってしまうのはやむを得ないように思います。
特に科学的側面はもう少しきちんと作ってほしかったなぁ…。
もちろん宇宙を舞台にした映画のすべてにおいて現実に忠実に作れ、なんてことはまったく思っていなくて、ウソもいっぱいあって当然だと思うんですが、さすがに誰もが「これウソじゃん」ってすぐ気付いちゃうレベルの描写ぐらいはちゃんと潰してほしいんですよ。
なぜこんな真面目な映画でそこの手を抜いてしまったのか…不思議でしょうがないです。
雰囲気としては悪くない映画だっただけにつくづく残念。
このシーンがイイ!
オープニングになりますが、地球規模で大規模なサージ電流が流れて基地が爆発するシークエンスが緊張感あってすごく良かったですね。っていうかあれでブラピ死ぬだろと思って観てましたけど。
ココが○
全貌が明らかになるまで、中盤ぐらいまでのスリラー感は結構良かったです。話の膨らませ方は悪くない映画だったかなと。
ココが×
上記以外で言うと、途中で出会うトラブル(月での襲撃、航行中の危機信号)も振り返るとあれなんやったんや感があり、「危機を見せるために用意した危機」って感じがしてイマイチでした。
あれがないと余計平坦になって地味だから、って映画的な意味合いはわかるんですが、本筋と関係なさすぎてなんなんだ、っていう。
MVA
ん〜ぶっちゃけ選びづらいんですが、演技的にはやっぱりこの人かな。
ブラッド・ピット(ロイ・マクブライド役)
主人公の宇宙飛行士。鉄のメンタルを誇る優秀マン。
演技的にはいつもの軽快さを抑えて悩み深い人物を見事に演じていたと思います。
ただ上に書いた通り、役としては少々歳を取りすぎなのが残念。
プロデューサー兼務だしどうしようもないけど、もう1世代若い俳優さんにやらせてほしかったのも事実です。