映画レビュー0245 『不都合な真実』

昨日は下品極まりないモラルゼロな映画でしたが、今日は社会派のドキュメンタリーということで、この許容範囲・守備範囲の広さがいい男感を醸し出してますよね。まったくもって。

いつもの通り、誰も言わないから自分で言うってやつですよ。まったくもって。

不都合な真実

An Inconvenient Truth
監督
デイビス・グッゲンハイム
出演
アル・ゴア
音楽
公開
2006年5月24日 アメリカ
上映時間
94分
製作国
アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

不都合な真実

若い頃より地球温暖化問題に熱心に取り組んできた、元アメリカ合衆国副大統領アル・ゴアの講演を中心に構成したドキュメンタリー。

講演としてレベルが高いから“面白い”。

8.0

地球温暖化について云々というのは、観る人個々人が判断することだと思うので、ここで特に声高に「エコれよコノヤロウ!!」とか言うつもりはありません。とりあえず“(ドキュメンタリー)映画として”観てみた感想を。

まずまたも勝手な先入観ですが、観るまではもっともっと衝撃的な、よくある自然破壊の映像をつなぎ合わせたような煽りだったり、プロパガンダ的な演出が色濃い、「正義を語る」匂いの強い映画なのかと思ってましたが、実際はほぼ全編、「とある日のゴアの講演」という内容。自分も大学生に戻ったかのような感覚で、素直に内容に集中できたのがまず良かった。

えーとすみません、大学行ってませんでした

途中途中でゴア自身の過去を振り返るような映像が挿入されますが、これは彼のイメージアップ作戦に利用しまっせというよりは、どちらかと言うと「講演ばっかりだと飽きちゃうから」という目線を変えるためのクッションみたいな意味合いが強く、1つ1つのシーンもかなり短めで、“ゴアゴア”しすぎていないのがまた良かったですね。

特定の、しかも政治家という職業の人がメインで登場するドキュメンタリーだけに、かなり政治色の強い、それこそプロパガンダ臭の強さを懸念してたんですが、その辺を前面に押し出す雰囲気はなく、「わかりやすく環境問題を伝えたい」という意図がまず先に来ている感じの映画なので、全体的に非常にスマート。

その辺の「ドキュメンタリー映画の基本的なマナーをクリアしてきてます」となると、やはり重要なのは「講演者の力量」に尽きるわけですが、この辺りはさすがに元副大統領、諸説ありますが投票のゴタゴタ故“幻の大統領”と言っても差し支えないほどの人物なので、まず講演、語り方自体がすごくうまい。「少なくとも1000回はやっている」と語っていただけに、構成もかなり練られたものだと思います。入り口から惹きつけて、最後までしっかり見せてくれる流れの巧みさもあってあっという間の100分弱でしたね。

この語り口のうまさに加えて、資料や図版の映像も質がすごく高い。

当たり前ですが、パワポのスライドショーを延々と見せつけられるような眠くなる講演とは全然違います。わかりやすいイラストと動きで理解しやすく、また飽きさせない一助にもなっているので、内容云々関係なく、講演自体のレベルがものすごく高い。これは間違いなく、日本の政治家には絶対にできない講演ですね。

これだけスマートで練られた構成を、わかりやすく情熱的に伝える力量というのはさすが“幻の大統領”。プレゼンの勉強としてもかなりいい教科書ではないでしょうか。

ちなみに僕自身の地球温暖化に対するスタンスとしては、元々はやや懐疑的な方でした。なんでもエコに結びつけて商売っ気丸出しのメーカーとかメディアとか場合によっては消費者とかに反発する気持ちもあって、ですが。燃費だけで車選ぶんじゃねーよタコ、と。

ただ、この映画を観た結果、やっぱり地球温暖化っていうのは現代に生きる人間としては考えざるを得ないテーマだろうし、それより何より、「地球にいいことをやろう」という考え方自体は反対する理由なんてどこにもないような真っ当な話ばかりなので、そういう視点は持つべきだな、と自戒の念を込めて思った次第です。わかりやすく言えば、「太る太らない以前に揚げ物ばっかり食ってたら体に悪いからサラダも食おうぜ」みたいな。

資料の正当性やらは僕が判断できるものではないし、何か行動を起こすにしても「温暖化防止のために」と言い出した時点で現実味が薄れていく部分があると思うので、あまり前のめりにならず、少しずつ行動や身の回りのモノを変えていくようにしたいな、という価値観の変化はあったように思います。

そしてそれこそがまさにエンディングで控えめに訴えていたメッセージの数々だし、そういうところから一人ひとりが変えていくと世界も変わるよ、というありがちですがリアリティのある話で考えさせられたなぁ、と。

映画としては、ある意味では非常に不謹慎な言い方になりますが、率直に言って「面白い」映画でした。スマートで、知的好奇心をくすぐられるような作りで。

“信者化”するようだとマズイとは思いますが、全然敷居も高くなくてわかりやすく「面白い」講演なので、気軽な気持ちで観ていい映画だと思います。その上で個々人が考えて、「関係ねーよ」でも「ちょっと変えよう」でも、それぞれが選択をするきっかけとして、ぜひたくさんの人に観て欲しい映画だな、と。

本当にもっともっとおどろおどろしいような、強迫観念の塊が飛んでくるような映画なのかと身構えていたので、予想以上の観やすさ、“優しさ”に、ちょっと気分良くすらなれるような。

観て良かったです。

このシーンがイイ!

何分ドキュメンタリーなので、「このシーンがいい!」っていうのもなかなか無いんですが、一つ地球温暖化の弊害として語っていたエピソードで印象的だったのが、「今まで飛んで来なかったような高地にも蚊が来るようになった」という話。その結果、いろんな病気も広まるよ、という怖さ。なるほどこういう弊害もあるのか、とすごく印象的でしたね。

ココが○

何よりも講演一本に絞って観やすくしている点でしょう。「たくさんの人に観て欲しい」という意図がよく活きている構成とうまさがあって、ちょっと重たいタイトルがもったいないぐらい、観やすいのがいい。

ココが×

そのタイトルが、強いて言えば少しもったいないかな、と。ニュアンスとしてはすごくよくわかるんですが、なんとなく敷居の高さを感じちゃうタイトルなんですよねぇ。

MVA

ドキュメンタリーな上に主役一人のみの映画なので、MVAもへったくれも無いんですが。

アル・ゴア(本人)

今となってはアメリカ人もほとんどが「ブッシュよりゴアの方が良かった」と思ってるだろうと思いますが、果たしてこの人が大統領だったらアメリカは、いや世界はどうなっていたのか…ちょっと考えちゃいましたね。

もちろんこの映画からは良い面しか見えてこないのはわかってますが、日本の政治家でもこういう高所大所に立った見方のできる人物が欲しいですね…。

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