映画レビュー1490 『アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判』

今回は何観ようかなとポチポチしていたら発見した映画。
アマプラは前回のCM挿入タイミングに激怒して解約が決まったので、それまでにアマプラオリジナルを観ておこうということもあって選びました。

アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判

Argentina, 1985
監督

サンティアゴ・ミトレ

脚本

サンティアゴ・ミトレ
マリアーノ・リナス
マルティン・マウレギ

出演

リカルド・ダリン
ピーター・ランサーニ
アレハンドロ・フレッチナー
サンティアゴ・アルマス・エステバレーナ
ノーマン・ブリスキ

音楽

ペドロ・オスナ

公開

2022年9月29日 アルゼンチン

上映時間

140分

製作国

アルゼンチン・イギリス・アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判

史実を元にした法廷映画に外れなし。

8.5
軍事政権時代の国民弾圧を裁くべく、様々な妨害に遭いつつ戦う検事
  • かつて軍事政権時代に3万人が行方不明になったと言われる国民弾圧の罪を糾弾する
  • まだ民主化間もない頃のため、かつての権力者たちの反発も強く脅しは日常茶飯事
  • 堅物で理念の人である主任検事と家族を敵に回す形になる副検事のコンビも良い
  • 重くなりがちなテーマに程よい軽さも織り交ぜて観やすい作りになっているのも◎

あらすじ

史実を元にした社会派法廷映画ということで、ドストレートに僕が好きなタイプだなと思って観たんですがその予想通りに面白かったよ、という形。いい映画でした。

アルゼンチンの軍事政権が倒れ、民政に戻ってまだ間もない頃。
避けているお偉いさんからの電話やアポに逃げ続けるフリオ・セザール・ストラッセラ検事(リカルド・ダリン)ですが、ついにダイレクトアタック(事務所乗り込み)に遭いまして、渋々話を聞いてみると「軍事政権時代に国家が行った弾圧によって多数の行方不明者が出ている件について、軍幹部を裁く民事裁判を担当してほしい」との依頼を受けます。
仮に軍事政権に戻るとすれば問答無用で命の危険にさらされる事案でもあり、当然誰しも乗り気ではない仕事なのでのらりくらりとやり過ごそうとするフリオですが、なんやかんやあって覚悟を決め、受諾。
まずはチームメンバーを…と思いますが優秀な仲間たちは軒並み辞退、そのことからすでにかなり厳しい戦いであることが想像されます。
結局、実務経験のないルイス・モレノ・オカンポ(ピーター・ランサーニ)という検事が副検事としてサポートしてくれることになりましたが、そもそもフリオにとって面識もなく、さらに経験もないとのことで不安しかない状況。
さらに時間も限られる中で軍幹部の関与を証明する必要があり、その資料探しすら膨大な量があり大変…ですが同業者には当然断られるのは明らかなため、これまた経験のない若者たちをリクルーティングし「チームフリオ」を結成、裁判に備えます。
当然のように家族までもが明確な脅しを受けたりする中、裁判の行方はどうなるんでしょうか。

無知野郎も安心

例によって僕はアルゼンチンの歴史について何も知らない無知野郎なんですが、そんな無知野郎でも十分に楽しめ、「知った気になれる」という史実系社会派映画のお手本のような作品だと思います。
気の滅入るようなかなり重い内容ではあるし、ナチス関連の裁判のようなつらさも感じる作品なんですが、そう感じさせないような軽さも持ち合わせているのが非常に上手く、誰でも観やすい作品になっているのが素晴らしいですね。
同じ裁判ものとして「シカゴ7裁判」にも似た感じ。「コリーニ事件」っぽさも感じましたね。この辺が好きであればきっと楽しめると思います。

背景を知らないとピンとこない部分もありますが、それでも序盤から「協力を打診した仲間全員に断られる」ことからもその仕事の難しさがよくわかるように作られている辺りもお上手。
まあいくら「軍事政権が終わりました」と言ってもつい最近変わったばかりという状況なので、まだまだ軍政時代の残り香というか、元権力者に権力が残ってたりするのはよくある話じゃないですか。元首相が闇将軍として幅を利かせてるような話も身近にあるわけで。
おまけにまた軍政に戻る可能性も全然ある、早い話が「不安定な時代」真っ只中という状況の中、かつての上層部を糾弾するような仕事はそりゃあなかなか大変だよね、というのは細かい部分を知らなくてもわかるところです。
また主人公が最初っからやる気満々でご登場してこないのもいいですね。なんならやりたくねーぞ、って逃げ回ってますから。
でもやらざるを得ないとなったら腹をくくって真っ直ぐ進むぞと。それがすごく人間臭くて良かった。
彼につく形になった副検事もほぼ新人(この辺もコリーニ事件っぽい)で不安を感じさせるのも物語のスパイスとして良かったんですが、さらにその彼のバックボーンが軍人家系というのもポイント。
血筋と仕事に引き裂かれつつ信念に従って戦う姿、それはやっぱりどう見たって胸熱ですよ。
そして何より2人が雇う若いメンバーが良い。
副検事も含め、「これからのアルゼンチンを背負うのは若い力」という価値観を明確に示してくれます。密かにフリオの息子も優秀で、若い力を体現した存在にも見えるのが面白い。
もうどこの国もそうですよ。結局若い人たちが頑張れる環境がないと停滞するのみですからね。
彼らは(実績のある人たちが拒否したことで)結果的にその役割が回ってきただけと言えばそうなんですが、ただやっぱり若い=実績がない=しがらみもない、というのはどんな業界でも、どんな国でもほとんど当てはまることだと思うし、その実績のなさを志ある大人(この場合は主人公)がカバーして力に変えていくチームプレイというのはこれまた非常に胸熱で良かったですね。

他国から学ぶ

そんな感じで導入が上手なので「ほうほう」と観ていくことになるんですが、そこから明かされる事実は本当に醜悪で胸糞悪い話ばかりで、その事実を命の危険を顧みずに証言する人たちによって事態が動いていく後半は目が離せません。
なにせ軍事政権が自国民に対して行った拉致や拷問、そして処刑といった弾圧によって3万人もの人が行方不明になっており、その一端を裁判で語る被害者たちの言葉は想像を絶するものがあります。
こういった話を見るにつけて「自分たちで民主主義を勝ち取ってきた」国の凄みのようなものを見せつけられる思いですが、かと言ってこんな歴史はない方がいいのも確かなので難しいところ。
ただ良し悪しは置いといて、こうした歴史が国民の政治への興味や参加を促す源流になるというのは間違いないだろうし、そこに羨ましさも感じます。

結局、直接体験しなくても他国の事例でもこうして知っていくことで政治や社会への興味が増していく側面は間違いなくあると思うので、ある意味ではこういった映画等で「学習」することが大事なのかもしれないですね。
その意味でも非常に勉強になる良い映画でした。おすすめ。

このシーンがイイ!

資料を探しに来た2人が遅くまで作業するシーンがあるんですが、それを目撃した司書さん的な女子が次のシーンでは仲間に加わっているところが激アツですごくグッと来ました。いわゆる“感染”しているような熱さがすごく良い。
あとはやっぱり「最終論告」のシーンは言わずもがなとても良かった。息子の存在も含めて。

ココが○

お堅い、退屈な内容になりがちなテーマを絶妙に娯楽化している点。これは間違いなく映画だからこそ出来る芸当でしょう。
その分少し脚色も強いのかなとは思いますが、僕のように事情を詳しく知らない人間に「理解してもらう」ためにはすごくいい作りだと思います。

ココが×

少し長めの上映時間ではありますが、中だるみする感じもなく特になにか気になるところもなかったですね。

MVA

みなさん良かったですが…やっぱりこの人でしょうか。

リカルド・ダリン(フリオ・セザール・ストラッセラ検事役)

主人公の検事。
アルゼンチンと言えばこの人。僕ですら知っている名優ですが、その名に恥じぬ素晴らしさ。相変わらずお見事でした。
この映画ではただのおっさんなんですけどね。そこがいい。
清廉潔白で高潔な人物というよりは等身大な人物に見え、それでも良心に従って行動する姿がとても良かった。
なんなら歳も歳なのにここに来て(開き直って)成長しているかのような人物にも見え、そこもまた面白いしアツいところだなと。

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