映画レビュー1048 『シカゴ7裁判』
この日は特に観るものもなく、ネトフリのオススメを募ったところ名前の上がったこの映画を観ることにしました。
公開もつい最近でかなり評判が良いのも知っていたので、願ったり叶ったりというか…ちょうどよかったぜ的な。
ちなみに本来は普通に公開される映画だったようですが、新型コロナウイルスの影響を受けNetflixが配信権を買ったためにネトフリオリジナルとして配信という形になったようです。ただ一部劇場では配信に先駆けて公開もされたとのこと。
シカゴ7裁判
エディ・レッドメイン
サシャ・バロン・コーエン
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世
ジェレミー・ストロング
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
アレックス・シャープ
フランク・ランジェラ
ジョン・キャロル・リンチ
マイケル・キートン
マーク・ライランス
2020年9月25日 各国
130分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
豪華キャストが送る素晴らしき法廷劇。
- デモグループの若手リーダーたちを相手取った裁判を描く法廷もの
- テンポもよく今っぽい演出もあり程々に地味すぎない巧みな作り
- 豪華キャストで役者的見どころも多い
- 大統領選挙があった今年こそ観るべき映画
あらすじ
僕は元々いわゆる“法廷もの”が大好物なので、今回も期待しつつ鑑賞しましたが期待通りに良かったよと。おまけに実話系(それなりに脚色は多そうですが)なのでなおたまらないという一作。同じように法廷ものが好きな方には無条件でオススメできます。
舞台は1968年、大統領選挙を控えた8月。民主党の全国大会が開かれるのに合わせ、各地で活動していた反ベトナム戦争派の若者グループが揃ってシカゴ入りし、大規模デモを開催、警察と衝突し多数の負傷者を出す事件が起こります。
結局その年の大統領選挙は共和党の(あの)リチャード・ニクソンが当選するんですが、彼のもとで司法長官に任命されたジョン・ミッチェルは前任者への当てつけと政治的動機から、シカゴで起こった前述の事件を主導したとして8人の若者を逮捕し、裁判にかけるよう検事らに命令。
かくして「被告が暴動を扇動したのか」を争点に争われる裁判が開始。長きに渡る公判はどのような結末を迎えるのでしょうか。
興味を惹かないテーマかもしれないけど…
タイトルにもある通り、“シカゴ7”の裁判ではあるんですが、実際は途中までもう1人いるため“シカゴ7.5裁判”と言ったところでしょうか。なぜその1人が途中離脱するのかは観ていただくとして、世の中的には残った7人を指して、歴史上“シカゴ・セブン”と呼ばれるようになったようです。
彼らは学生だったりヒッピーだったりおっさんだったりといろいろ属性はありつつも、総じて(基本的には)若く、またベトナム戦争への反感が強い時代の空気もあってだいぶ今で言うところの左派寄りのポジション。彼らはこの大統領選挙で民主党代表として最有力視されているハンフリー副大統領に不満を抱いていたようで、その意志を表明するべくシカゴで行われる民主党の全国大会に合わせて集結し、そして警官隊と衝突することになります。
現実においてこの“流血事件”が全国放送されてしまったダメージは大きかったようで、結局共和党(ニクソン)に負けてしまい、その上この事件を利用せんとする司法長官によって裁判にかけられ、政治利用される7人(+1人)の姿を描く映画、ということになります。
オープニングにサクサク時代背景を見せていくんですが、この辺りは正直日本人ではよほど詳しくないとなかなか理解するのも大変で、いきなり主要人物がドコドコご紹介されることもあってややついていきにくい気はしました。というか正直に言うと(観たタイミングの悪さもあって)序盤は結構眠くなったりもしたんですが、全編観た後に振り返るとこのオープニングの作りだけちょっと特殊で詰め込み過ぎな印象もあり、意外と流して観ちゃっても良いような気がします。あとあと嫌でも誰がどういう人なのかはわかってくるようになっているので。
法廷ものだけに裁判が中心で時間的にもかなり比重が大きいのは事実ですが、ところどころで過去のシーンだったり各人(主にサシャ・バロン・コーエン演じるアビー)が自らのグループに対して状況説明をする=観客に対して説明をするシーンが挟まってくるので、全体的にはオープニングほどややこしい感じもなく、段々と無理なく状況を理解できるような作りになっていて、その辺りがなかなか巧みだなと思います。
また裁判一辺倒ではない分飽きにくく集中力を保ちやすいような作りにもなっているし、裁判にしてもテンポよく必要な部分だけ抜粋して見せてくれているような印象で、法廷ものらしい重厚さのような部分はやや欠けているかもしれませんが、その分誰でも観やすい良質な“娯楽法廷劇”に仕上がっていると感じました。
テーマ自体は少し地味というか、古い時代の政治裁判なのでそっち方面に興味がないとなかなか観ようかなと思いづらい面もあると思うんですが、そういった地味さをカバーするように豪華キャストと仕立ての良さで上手く観客を引っ張ってくれているように見えるし、その辺りからも単純に映画としての完成度が高いように思います。
さすが最近調子のいいアーロン・ソーキンさんやで…!(※なんとなくのイメージ)
アメリカの歴史から今を見る
まあなんと言ってもこの映画が今年公開されたこと自体にとても大きな意味があるというか、今年の大統領選挙の結果を見ると、なんだかんだこの映画で描かれたような歴史を踏まえた先に今現在のアメリカが存在しているということに非常に感慨深いものを感じるわけですよ。
やっぱりこの辺りの積み重ねたものについては、日本はまだまだアメリカに及ばないんじゃないかなと思います。戦って勝ち取ってきたもの、逆にもぎ取られてきたものの重みがすべて今年の大統領選挙に集約されているような気がして、そこがアメリカの強さ、強かさなんだなと。
逆に言えば、こういう歴史があっても現下の分断を招いているのも確かなわけで、この先のアメリカがどうなっていくのかもまた気になるところではあります。果たしてまとまるのか、それとも回復不能なほど分断が進むのか。
僕は後者のような気がしますが、となるともはや民主主義自体が危機的な状況と言えるわけで、もっと脆弱な(民主主義的な)歴史しか持っていない日本もまた同じような道を歩むような気がしてなりません。まさに昨日今日と動きのあった前首相の一件もまあひどいもんだしね…。
そんな感じで今の社会と照らし合わせつつ楽しめる、非常に良い作りの社会派娯楽法廷劇だと思うので、今を生きる我々誰もが必見の映画と言えるかもしれません。
このシーンがイイ!
話の中ではすごく小さいシーンではあるんですが、事務所の受付のお姉ちゃんが電話で強く出るシーンがあるんですよね。あそこがものすごくよかった。みんなで戦ってるんだぞ、って感じられて。
ココが○
法廷ものとしても、映画としても良く出来てるし、社会派映画に興味がある人であれば誰が観てもおそらく面白いと思います。
ココが×
オープニングが妙にポップなので、「あれ? こういう映画なの?」と少し違和感がありました。今っぽいと言えば今っぽいんですが、情報の出し方も含めてオープニングは少し違う感じの方が良かったかもなと。あくまで好みの問題です。
MVA
なかなか豪華なメンバーで皆さん当然のように良かったんですが…この人かな。
サシャ・バロン・コーエン(アビー・ホフマン役)
“シカゴ・セブン”の一人。ヒッピー風。
舞台回しの役回りも担っていて、まあこの人らしい芸達者っぷりを感じるお上手さがありましたね。そんなに好きな役者さんでもないんですが、さすがだなと。
あとはちょい役なんですがマイケル・キートンの使い方が素晴らしかったです。そこも必見。