映画レビュー0881 『THE GUILTY/ギルティ』
一部映画好き界隈で話題になっていたこちらの映画、幸いそこそこ近い浦和のユナイテッド・シネマで上映してくれるぞってことで観に行って参りました。
アップは前後しますがこの前に「特捜部Q」の3作目を観ていて、もしや今一番熱いサスペンス/スリラーの国はデンマークなんじゃ!? という説が自分の中でだけ浮上。
THE GUILTY/ギルティ
ヤコブ・セーダーグレン
イェシカ・ディナウエ
ヨハン・オルセン
オマール・シャガウィー
カティンカ・エヴァース=ヤーンセン
カール・コルマン
キャスパー・ヘッセラゲール
2018年6月14日 デンマーク
85分
デンマーク
劇場(小さめスクリーン)
電話だけで見せきる! 内勤捜査を見守るハラハラ感が楽しい。
- 舞台は緊急通報システムの一室のみ
- オペレーターのほぼ1人芝居に電話の先のセリフだけ
- 事件性がある分引き込まれる
- 予想外の展開で感じる先入観の怖さ
あらすじ
事件性のある電話を受けたオペレーターが、断片的な情報から他の人たちを動かしつつ「その事件」を解決しようと奮闘するサスペンス。
話を進めるのは電話だけ、画面に出てくるのは(ほぼ)一人だけ…ということで、どうしても「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」と比較する人が多い映画だと思いますが、「これが俺という男だ」的な地味すぎるテーマだったあの映画と比べると、もう単純に事件が発生して解決せねば的なお話なので、限定的なシチュエーションながら緊張感も先の展開への興味も段違いだと思います。
主人公はアスガー・ホルムという男性。彼は日本で言うところの119番とか110番的な電話を受ける場所でオペレーターをしているんですが、それも期間限定のボランティアらしく、どうやら前までは普通に警察官として現場に出ていた模様。
その辺の周辺事情は徐々に明かされますが、どうも何らかのトラブルを起こしてしまったらしく、おそらく謹慎処分だか休職処分だか休職願いだか、そんなようなことで本業とは離れてこのオペレーターのお仕事をしていますよ、と。
デンマークでもご多分に漏れず「緊急でもない」電話がしょっちゅうかかってくるようで、この映画で描かれる事件の始まりを告げる電話もそれらと同様にくだらない電話と思いきや…実はそうではなかったわけです。
彼が受けた電話の主は女性なんですが、最初は間違い電話かと思いきや、即座に事件の匂いを嗅ぎ取ったアスガーは機転を利かし、「YesかNoだけで答えて」といくつかの質問を投げかけたところ、どうやら電話の先の女性は誘拐されたらしく、犯人に車で連れ去られている途中ということがわかります。
彼女の名前と車の種類・色等の僅かな情報から現場近くの警察を手配し、犯人確保のために電話で指示を繰り出すアスガーですが…果たして犯人逮捕なるのか、そして彼女は助かるのか…! あとは観てチョーダイタケモトピアノということで。
「オン・ザ・ハイウェイ」の発展版
まあそんなわけで非常に地味ですよ。またも。絵面はオッサンが電話してるだけですからね。
一応「隣の部屋」という概念こそあれど景色は小さめのフツーのオフィスだけだし、「オン・ザ・ハイウェイ」とは違って同僚の姿もチラホラ出て来はしますが会話は一言二言であとは本当にアスガーが電話をしてるだけの物語です。
とは言えメインの電話が誘拐事件で一刻を争う状況なだけに、物語開始から(観る側の)テンション高くグッと惹き付けてくれる良サスペンスと言って良いでしょう。
というか余計な情報がない分わかりやすいし、情報が限られるということは観る側の知識や能力にあまり依存しない物語になるので、誰が観ても同じように惹き付けられ、大体の人が面白いと感じられる映画になっていると思います。これがなかなか良い点じゃないかなと。
ぶっちゃけ(体調もあってだと思いますが)中盤辺りは結構眠くなる時間もあって、やっぱりさすがにずーっと電話のみだと飽きるというか観ている側の集中力も途切れがちになる面もあると思うんですが、それでも「事件性」と「実際にありそう」なリアリティによってきっちり最後まで楽しませてもらいました。
割と「オン・ザ・ハイウェイ」も「すごい! こんなの観たこと無い!」とベタ褒めされているのを見かけるんですが、僕としては「アイデアは面白いけど話が地味過ぎてさすがに飽きる」と思っていたところ、それに対するカウンターパンチ的に「一人で見せ切るならこうしろ!」みたいなアイデアとしてよく出来ていたと思うし、言わば「オン・ザ・ハイウェイ」の発展版、進化版みたいな形としてより完成度の高い映画と言えると思います。
“CTU”の内勤一人を見守るような印象
主人公のアスガーは元々警察官ということもあり、良くも悪くもただのオペレーターとして関係部署につなぎますよ的なお仕事ではなく、自ら考え事件解決へ導こうと(電話で)奔走するわけですが、その「電話を受けて発信源を突き止めその後の展開を指示する」感じが、どこか「24」のCTU内勤の一人みたいな感じもあってですね。
さすがにクロエとまでは言いませんが、「ある日のCTU内勤を追うドキュメンタリー」的な雰囲気もあって、あの手の話が好きな人であれば間違いなく楽しめるんじゃないかと思います。CTU自体がフィクションなのにそれのドキュメンタリーってなんなんだよと思いますがその辺はいい感じに解釈してください。
やっぱりこのご時世、電話一つで色々わかるのは事実だと思うんですよ。番号から持ち主がわかり、持ち主がわかればその家族構成がわかり、家族構成がわかれば自宅の電話もわかり…と良い意味で“飛躍しすぎていない”テクノロジーの後ろ盾がありつつ、昔よりは電話を受けた側が拾える情報が広がっている分成立するお話だと思います。
そういう意味ではローテクの「電話」というアイテムを駆使しつつも実に今らしいサスペンスになっていて、そこがまた良いんじゃないでしょうか。
できれば劇場で
あとはもう気になったら観てねとしか言いようがない映画ですね。
くどいようですがテーマが地味で、ある意味奇をてらった「シチュエーション頼み」の印象が強いオン・ザ・ハイウェイと違い、しっかりとした「事件」が背景にあるので興味を失いづらい良さがある映画なので、割と誰でも楽しめる映画だと思います。
ただ何せメインはずーっとオッサンの電話のシーンなので、集中力を保ちやすい環境で観ないとイマイチ感が出てくる危険性もありそう。そういう意味でも実は最も劇場で観るべき映画の一つかもしれません。
と上映終了近い今になって言うダメさ。
このシーンがイイ!
さすがに映像面では変化に乏しいので、どのシーンが良かったみたいなのはあんまり思いつかないんですよね。なので無し。ただだから悪いってわけでもないんですが。
ココが○
ワンシチュエーションのほぼ一人芝居で見せ切る、っていうのは当然なかなか力量のいる作業だと思いますが、それでしっかりエンタメとして成立しているのがやっぱり素晴らしい。
あとは上にも書いた通り、情報を限らせることで観客側のスキルに依存せずに誰でも楽しみやすくなっているのはかなり大きなポイントだと思います。
ココが×
早々に出てくるので書いちゃいますが、リアリティという意味では、ちょっと犯人と直接コンタクトを取るのが早すぎるんじゃないかな、という気はしました。
あれだけ早いタイミングで直接容疑者扱いした連絡をするのは、被害者を助けるというミッションにおいては危険すぎるんじゃないかなと。あれで逆上して…みたいに考えないのかな。
MVA
電話だけの被害者女性もとてもそれらしくてうまいなぁと思ったんですが、まあこの映画はほぼ一人芝居なので自ずとこの人になります。
ヤコブ・セーダーグレン(アスガー・ホルム役)
元々現場の警察官ということもあってか、「オペレーター」というにはちょっとガチ感が強いと言うかストロングスタイルっぽい雰囲気があって、それがまた事件解決へ向けての立ち回りにマッチしていたような気がするという噂です。
実際どうやって撮ったのかはわかりませんが、電話のやり取りだけでこれだけきっちり焦燥感を見せるのは大変だろうと思うし、当然ながら見事だったと思います。