映画レビュー0354 『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』

久々BS録画ヨリ。

これまた有名なキューブリック作品ですが、こんな映画もやるとはなかなかBSもやるわね、と。ちなみにモノクロ映画です。

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb
監督
脚本
ピーター・ジョージ
原作
『破滅への二時間』
ピーター・ジョージ
出演
ジョージ・C・スコット
スリム・ピケンズ
音楽
ローリー・ジョンソン
公開
1964年1月30日 アメリカ
上映時間
93分
製作国
イギリス・アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

アメリカ空軍基地のリッパー将軍が、独断でソ連への核攻撃を意味する「R作戦」を発令。事態を察知したアメリカ大統領その他政府首脳部は、ソ連大使も交えて核戦争を止めるべく協議を始める。

かなりブラックなリアルコメディ。

7.5

僕の中では、どうしてもキューブリックというのは「2001年宇宙の旅」の印象が強すぎて、「なんか難解で高尚な映画を作る人」みたいなイメージがあってですね。この映画もタイトルはもちろん知っていたんですが、ひたすら狂った博士がイッヒッヒ言いながらひたすら水爆の美しさを語る、みたいなよくわからない映画だと勝手に思っていましたが全然違いました

舞台は冷戦下、とある空軍基地の司令官・リッパー将軍が、共産主義への敵対心から陰謀論を膨らませた結果、独断でソ連へ核攻撃を仕掛ける作戦を発令。元々報復を想定して作られた作戦であるために、大統領をもってしても止めることができない状態になってしまい、さて困ったぞ…と政府首脳部が集まって会議。刻一刻と迫る核戦争の脅威を止めるべく、リッパー将軍から中止コードを聞き出そうと部隊を派遣して…というお話。

「核戦争の危機」というのはこの後もかなり語られることが多い定番のテーマの一つですが、作戦の内容と進行具合、首脳陣のやりとりなんかは非常にリアルで、さすがに良く出来ていました。

全体的にかなりブラックに、シニカルな視点で展開する映画で、簡単に言えば非常に皮肉っぽい内容になってます。ただ、それだけにかなり斜に構えた内容なのかというとそうでもなく、全体的にはかなりわかりやすく、誰が観ても楽しめる内容になっていると思います。登場人物のキャラクター、思想や行動の部分で皮肉が利いていて、今観てもまったく古くない、よくできた映画と言っていいでしょう。

全体的にはそんなイメージですが、やっぱり強い印象を残したのは、タイトルにもある「ストレンジラヴ博士」。彼は登場人物の一人で、主要人物の中ではかなり登場シーンが少ないんですが、総統な…じゃなくて相当な強烈さがあり、最後の彼のセリフで全部食われちゃうようなすごさがありましたねぇ。直接的には共産主義を否定したがるアメリカを皮肉っているようでいながら、実は強烈にナチ的な思想への皮肉を描いた映画という感じ。

「こんなキチガイじみたやついねーよ」と思いつつも、いわゆるマッド・サイエンティスト的な人ってこうなのかな、という妙なリアルさも感じられて、「科学顧問の博士」っていう設定が絶妙だな、と。同時に演技の怪しさも相当なもので、これまたかなり強烈でした。

その博士のキャラクターや演者に結構クセがあるので、すんなり誰もが入っていけるかと言うと微妙な気はしますが、それでも(全然詳しくないですが)キューブリック作品としてはかなり観やすい映画のような気がします。上映時間も短いし、軽く観てみようかな、程度でも全然観られる映画ではないかと。

ただ、悲しいかな個人的に「キューブリック作品」というと(なんだかんだ文句たれつつも)かなり他にない特色を求める部分があって、この映画は観やすかった反面、監督に起因する強烈な個性のようなものは僕自身は感じ取れなかったので、もっとキワドイ色を出して欲しかったような気もします。

一説にはケネディ大統領暗殺事件の影響があったみたいですが、さすがのキューブリックも歴史的大事件には抗えなかった、ということでしょうか。

でも、おそらく僕のようにタイトルの奇怪さから難解なイメージで避けている人もいると思うので、「もっと全然気楽に観られるよ」というのはお伝えしておきたいな、と。ものすごく惹きつけられる何かがあったわけではないんですが、純粋に面白かったです。

このシーンがイイ!

まあ、やっぱり最後の博士が語るシーンでしょうねぇ…。わざとらしいしバカバカしいけど、でもすごい皮肉だな、と。っていうかこんなやつ科学顧問にするなよ、っていう。

ココが○

かなりブラックなコメディですが、そこまで知識が必要無いのは素晴らしい部分じゃないかと。この手の政治絡みのブラックコメディって結構頭使ったり知識が必要だったりするものもあったりする気がしますが、単純に娯楽として観られる映画になってるのはいいですね。この辺は僕のキューブリック観にはなかったので、意外な収穫でした。

ココが×

特にこれ、っていう不満点は無かったんですが、なんとなく波が高くならなかったような感覚というか、割と起伏のないような印象がありました。多分「渦中にいる人々」を皮肉る映画なので、物語の起伏よりも人々の滑稽さが主眼になっている分、観る人を引きこむような“熱”は無かったというか、いわゆる「冷笑」の雰囲気で流れていくので、映画の世界に入り込むというよりは、演劇を客席から眺めているような、少し引いた感じの鑑賞になった気はします。

そこが良さでもあるとは思いますが、もう一歩物足りないような印象にもなったかな、と。

MVA

これはもう、他に選びようがないですね。

ピーター・セラーズ(ストレンジラヴ博士、ライオネル・マンドレイク大佐、マーキン・マフリー大統領役)

一人三役。

多分、言われなかったら気付かなかったでしょう。途中でwiki見ちゃったんですが、その時知りました。単純にすげーな、と。妙な変装をしているわけでもなく、きっちり演じ分けています。

そしてまあ何よりも博士ですよね。あのキャラクターの強烈さは他がかすみます。キューブリック映画で三役、ってドMにも程があるだろと思いますが、例外的にアドリブも認められていたらしく、相当な役者さんだってことがわかりますねー。

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