映画レビュー1435 『みんな元気』
もう無くなって久しい盟友のブログ「たまがわ」で、確か「思いの外よかった」みたいな評価を受けていたので、いつか観たいと思っていたところアマプラそろそろ終了のところに来ていたので急いで観ることにしました。
みんな元気
カーク・ジョーンズ
カーク・ジョーンズ
2009年12月4日 アメリカ
100分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)
名演技対決で言外の理解が捗る。
- 期待も愛情も大きすぎる父親に、本当のことを言えない子どもたち
- 誰もが共感できる理想と現実のギャップから来る痛みが胸に迫る
- 父親も子どもも豪華な名優揃い
- 「東京物語」の孫みたいな映画
あらすじ
もっとのほほんとしたファミリーコメディかと思っていたんですが全然違い、ほろ苦大人ファミリードラマでした。想像以上に良かったです。
仕事を引退し余生を送るフランク(ロバート・デ・ニーロ)はつい最近妻を亡くして一人暮らし。
彼には4人の子どもがいて、みんな揃って近々帰って来るとのことで庭の手入れをしたりたっかい肉焼きマシン(日本で入手できるのか不明なアメリカの映画でよく見るやつ)を導入したりと気合いが入りまくっておりますが、しかし直前になってみんななんだかんだと理由をつけて帰ってこないと聞かされしょぼくれデ・ニーロです。
しかし彼は無職のため暇であり、妻もいない一人暮らしで寂しいこともあって「だったら俺が会いに行って驚かせよう」と子どもたちの家にサプライズで訪問することを決めます。
子どもたちはみんなそれぞれいろいろと問題を抱えていて、フランクの“想像通り”の訪問にはならないんですが、果たして…。
親子ともども豪華
元は名匠ジュゼッペ・トルナトーレの同名映画(未鑑賞です)があり、そのハリウッドリメイクってやつですね。日本では例によって劇場未公開の地味な映画ではありますが、本国ではスマッシュヒットとなったそうです。
ちなみに「父親が子どもたちに会いに行く」という設定からもお察しの通り、トルナトーレ版の方は「東京物語」をオマージュしたものだそうで、今作は言わば「東京物語」の孫みたいな映画と言っていいでしょう。
「1人1人に会いに旅をするロードムービー」という側面からすると少し「小公子」っぽさもあり、それ故やっぱり好きな映画でした。こういう作りの時点で好きというか弱い。
んで会いに行く子どもたちなんですが、最初に行って空振りに終わったデイヴィッドはメタ的に言うと端役(物語上の役割はまた別です)なので置いておくとしても、長男はサム・ロックウェル、長女がドリュー・バリモア、次女がケイト・ベッキンセイル(ちなみに実年齢はドリューよりケイトの方が上)となんともまあ豪華な面々。そして親父は言わずと知れたロバート・デ・ニーロ。最強のファミリーですね。
ただ各人がオープニングで適当な理由をでっち上げて実家への帰省をキャンセルしたことからもわかる通り、子どもたちはそれぞれ父親との間には微妙な距離やわだかまりが存在していて、それが父親の訪問によって徐々に明らかになっていく、という流れです。
その各人が抱えるものについては仰々しいものであればつまんねーなというお話ですが、当然そこは誰もが絶妙に「うっ(わかる)」と共感できるようなリアルなもので、その辺の話の描き方、盛り込み方がお上手でした。
「父親とのわだかまり」にしても口も聞きたくないとか会いたくないとかそういう険悪なものではなくて、それぞれみんな(子どもたちも年齢的にいい大人であることもあってなんでしょう)父親の愛情そのものはよくわかってるし感謝もしてる、でもすべてに応えられるような子どもにはなれなかった負い目のようなものを引きずっていて正直になれない…みたいな現実味のある“人生”の描写が非常に良かったですね。
またセリフとデ・ニーロの演技が見事なので、観ている人にいろいろと幼少期の家庭状況を理解させてくれるのもとても上手いなと思います。
愛情豊かだけどそれと同じかそれ以上に期待が大きいために愛が重荷になってしまう父親像。偏見かもしれませんがブルーカラー出身なのもそのキャラクターをより強調してくれます。
しかし押し付けるわけでもなく、うまく行かなかった部分も包摂する優しさも持っているように見えるんですが、おそらく子どもにはそこまで伝わっていなかったんだろうし、その優しさも「妻を失ったから(最近になって生まれたもの)」なのかもしれない…とかいろいろ察しちゃうんですよね。
その父親の持つ大きな愛情と、それすらも重荷になってしまっている子どもたちのギャップがすごく生々しくて、よくできたお話だなぁとしみじみ感じながら観ました。
それは結局「唯一会えなかった」次男・デイヴィッドの話に帰結していくんですが、その作りもまた非常にお上手で考えさせられます。
やっぱり「親の期待に応えられなかった」思いって大体の人が持っているものだと思うんですよね。よほど成功していない限りは。
それは「大体の親の期待は過剰である」ことの裏返しなのかもしれませんが、いずれにしてもこの「親の期待に応えられなかった子ども」という立ち位置に共感できる人はすごく多いと思います。
その観点で観ていくと、やっぱり父親の愛情の大きさは素晴らしいと思いつつも「そうじゃないんだよ、やっぱりわかってないよね…」みたいな煩わしさもすごく感じるんですよね。この話。
で、父親の方もそんな風に思われている雰囲気をうっすら感じ取っているんだけど歩み寄れない…みたいな絶妙な距離感を見事にデ・ニーロが演じていて、その「言えないけどにじみ出る子どもの思い」と「受け入れたくないけどうっすら感じ取る父親の感情」を名優同士が演じているところがすごくよくて、キャストの良さもあっての映画だなと思います。
人生はままならない
その他のポイントとしては、挿入歌がどれもすごく良い。映画の雰囲気作りに相当貢献していると思います。なんかしんみりしちゃうようなチョイス。
それと余談ですが次女の家、庭にゴルフのショートコースがあるぐらいのド豪邸だったのが衝撃。あんな家あるのか…。
それもあって次女は一番「成功に近い」ように見えるんですが、しかしやっぱり「成功=金じゃない」のもまた真理でそこを描いている辺りも良いですね。
人生はままならない、まさに「十三機兵防衛圏」の比治山の心境です。難しいですね。
このシーンがイイ!
ネタバレになる終盤のシーンを置いておくと、かなりのサブエピソードなんですがトラックで移動するシーンがすごく好きでした。ロードムービーの良さが出ているシーンで。
しかも運転手はメリッサ・レオという。贅沢な使い方。
ココが○
等身大で感情移入しやすい各人のキャラクターとセリフがすごく良かった。なんてことない地味な話かもしれませんが、中身はすごく丁寧に作られていると思います。
ココが×
若干ネタバレになりますが、父親が諸々を理解するシーンが結構強引なのがもったいない。もっとも薄々勘付いていたからこそああなったんでしょうが…。
MVA
そんなわけで皆さんいいだけに悩ましいですが、とは言えこの人だよなと。
ロバート・デ・ニーロ(フランク・グード役)
父親で主人公。
もはや説明不要の名優ですが、久しぶりにデ・ニーロの良い演技を観たなとしみじみ感じました。
最近の他の役がヘタとかそういう話ではなく、デ・ニーロが演じるに足る深みを感じる役だったなというか。
そこがまたグッと来る映画でしたね。