映画レビュー1434 『侍タイムスリッパー』

最近“第二のカメ止め”として話題のこちらの映画、朝のニュースで知ったんですが例によってテレビで取り上げられた時点でもう遅いぐらいなので、若干話題に乗り遅れた感も抱きつつ気になったので先々週末の土曜日、劇場まで行ってきました。
ちなみに1日1回の上映のみだったこともあってか、客席は8割ぐらいが埋まっていてやはり話題性の高さを感じた次第。

侍タイムスリッパー

A Samurai in Time
監督

安田淳一

脚本

安田淳一

出演

山口馬木也
冨家ノリマサ
沙倉ゆうの
峰蘭太郎
紅萬子
福田善晴
田村ツトム

公開

2024年8月17日 日本

上映時間

131分

製作国

日本

視聴環境

劇場(小さめスクリーン)

侍タイムスリッパー

緊張と緩和、お見事!

8.5
幕末の侍が現代にタイムスリップ、時代劇の斬られ役として生きていくが…
  • 設定的にはベタなタイムスリップもの
  • 「本物の侍」であることは表に出さず、現代に適応して生きていく
  • ところどころベタだったり安っぽかったりもするものの、全体的には熱を感じる良作
  • 緊張と緩和の生み方が素晴らしい

あらすじ

期待通り、評判通りに面白い映画でした。やっぱり「◯◯製作委員会」みたいなテンプレビジネス化した映画ではない、制作者の好きなことへの熱が伝わる映画は良いなと改めて思いましたね。

幕末の会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は密命を受け、もう一人の仲間とともに長州藩士を討ちに京都へ。
そこで若くして剣の達人と評判の侍と切り合いをしている最中に激しい落雷が発生、気を失ってしまいます。
どこかわからない場所で目覚めた高坂ですが、近くで町娘を脅す侍たちを発見、止めに入ろうとしたところで「心配無用ノ介」と名乗る侍(田村ツトム)が救い出す現場に出くわします。
その後近くの人にここがどこなのか聞き出そうと話しかけたところでまたも懲りずに侍たちが町娘を脅し、そしてまた心配無用ノ介がやってきて…っとここは現代の時代劇撮影所でしたとさ…!

緊張と緩和がぶっ刺さる

ラノベみたいな映画だな、と思ったのが鑑賞する前の最初の印象。「侍が転生したら斬られ役になっちゃった件」みたいな。
それもあって(?)設定的には結構ベタで、実際そこから想像できるギャップで笑いを作ったりと割と前半戦は予想通りの映画だな、という感じではありました。
ただ「カメ止め」同様、後半になると少しこっちの視点が変わる要素が混ざってきて、その辺りがひじょーにお上手でした。思わず「なるほどそういうことか〜」と唸っちゃうような展開。
また(例によってネタバレ回避的にちょっと抽象的にしか言えませんが)その後半以降は「予定調和の時代劇の斬られ役」という“作り物”の世界と現実との境界線があやふやになっていくような側面があり、それによって「作り物ながら凄まじい緊張感」を生み出しているのが本当にお見事でしたね。「作り物(時代劇)を作っている作り物(映画)」を観ている、つまり二重に作り物なんだけど現実以上に緊張感を持って観てしまうような、手に汗握る展開に持っていく脚本の素晴らしさ。
よく言うように笑いは「緊張と緩和」なので、そんな“緊張”の作り方がお上手なだけに“緩和”の方の刺さり方もエグい。結果劇場みんなで爆笑という得難い経験を得るに至りましたよと。
そしてその両面を演技できっちり見せつけた主演の山口馬木也がめちゃくちゃいいお仕事をしていたと思います。
真面目で純朴な侍を本当に“それっぽく”演じていて、そのおかげで大げさなぐらいのギャップが生まれ、笑いにつながるという。
「カメ止め」でも主人公の濱津さんが序盤の鬼監督っぷりと後半の人の良さしか感じさせないゆるキャラっぷりのギャップで楽しませてくれましたが、今作の山口さんは実直すぎるが故にギャップが生まれるキャラクターを見事に演じていて、多分(仮に)不倫報道とか出たらそのギャップでアンチ化する人が激増しそうなぐらいの好印象キャラでしたね。高坂新左衛門が優子ちゃんのいないところで町娘ナンパしてたら「なんだよ!」ってなるでしょ。ううん、知らないけど絶対そう。

それと鑑賞後にいろいろインタビューを読んで知ったんですが、劇中で語られている通り現在は「時代劇不遇の時代」にも関わらず、今あえて自主制作でやろうという監督の心意気に打たれた面もあって東映京都撮影所が全面協力している、というのもとても大きいポイントだと思います。
衣装や小道具のように目に見えるものもそうですが、それ以上にやっぱり「時代劇を終わらせてたまるか」みたいないろんな人の熱が込められていると思うんですよね。この映画に。
そういうのは絶対成果物に現れると思うので、その分良い映画になったのは必然なのではないかなと。
監督はほとんどの私財を注ぎ込んで完成にこぎつけたそうですが、背水の陣というか、やっぱり「これは行ける」と信念を持って作り上げたものには魂が宿る…と表現としては陳腐ですがそんなような感覚を覚えたのも事実です。
まあ、そうやって魂込めて作り上げて評価されずに死んでいった監督もいるので全然アテにならないんですけどね。エド・ウッドって言うんですけど。

海外での評価が気になる

一点だけ、言っちゃ悪いけど劇伴がちょっと安っぽいというか弱いなぁと思って観ていたんですが、監督によると「周りに音楽が作れる人がいない」ので既存のものを使っているとか。そのアラに気付いちゃうの、すごくない!?
それもあって少し気恥ずかしくなるような「笑い」の強調があったりもするんですが、その辺は序盤の話だしまあ御愛嬌ですよ。
後半は本当に見事な展開で、よく考えられた素晴らしい脚本だと思います。
全体通して観れば突飛なものでもないしオーソドックスと言えるかもしれませんが、組み合わせと積み上げ方が本当によくできています。
これは確かに「第二のカメ止め」も納得。
ちなみに11月6日時点での興行収入は6億円、カメ止めは最終的に31億円ぐらいまで行ったそうなので、果たしてどこまで伸ばせるか…楽しみですね。
こっちには「時代劇」という日本オリジナルの要素があるだけに、海外でより引きが強いのではないかと思いますが…どうなんでしょうか。
今後の展開も楽しみです。

このシーンがイイ!

やっぱり緊張感溢れるクライマックスとその後、でしょうか。山口さんの演技と間のとり方も本当にお見事でした。

ココが○

わかりやすくコメディ的に面白いのはもちろんですが、そっち一辺倒ではなくきっちりクライマックスに向けて高めてくれる作り。

ココが×

上に書きましたが劇伴が弱い点。ただこれで売れたからきっと次は良い作曲家の方とお知り合いになれるでしょう…。

MVA

優子ちゃんがメガネ女子でかわいさアップしていて非常に良かったんですが、ご本人はメガネ嫌だったそうです。それを聞いて監督が「わかってない!」と言ったそうで監督さすがだなと思いますが、それはさておきこちらの方に。

山口馬木也(高坂新左衛門役)

主人公の侍。
本当に「そのもの」という感じで雰囲気から素晴らしかったんですが、笑いの作り方もすごくお上手で文句なしでした。
「カメ止め」は若干素人芝居感もあってそこも良さだったりしましたが、こちらは自主制作にも関わらずきちんと普通に活躍している方々が出ている分、演技の質の面でも安っぽくならなかったのは「カメ止め」とは違った魅力だと思いますね。

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