映画レビュー0800 『カメラを止めるな!』
記念すべき800本目は、いつ頃からだったか…日に日にタイトルを目にする機会が増えていったこちらの作品。
今一番話題の映画と言っていいでしょう。もはや映画クラスタどころか一般層にまで広がっていっているだけに、これはやっぱり観に行かなければ! ということでレイトショーにて鑑賞。
ちなみに観に行った劇場はあの「Re:LIFE〜リライフ〜」以来のイオンシネマ大宮。同じレイトショー、同じスクリーンながらあっちは自分を入れて4人、こっちは7割方埋まるほどの人気ぶりに旬を感じましたね。
邦画の劇場鑑賞は「シン・ゴジラ」以来。邦画っていうだけで劇場に行くハードルはかなり上がるんですが、果たして評判通りの面白さなのか…ミシュラン調査員のような気分で行ってきたぜ!(どんな気分)
カメラを止めるな!
シンプルだけどレベルが高い、納得の傑作。
- 割としっかりゾンビ映画…なんだけどコメディ
- 無名の役者さんのみだけど演技もまったく文句無し
- ワンカットすごい
- あとはもう観てとしか言えない
もはや散々言われているように、「事前に何も情報を入れないで観た方が良い」映画の最たるものなので、ネタバレ無しを基本とする当ブログにおいてはぶっちゃけ特に書けることもねーな、ということで今日は撤収! というわけにもいかないのでちょっとだけなにか書きます。考えながら書きます。
オープニングはゾンビ映画の撮影シーンから。どうやらその映画のクライマックスとなるシーンの撮影のようですが…演技に不満な監督は役者に激烈なダメ出しを食らわせ、42回目となる今回の撮影もNG。キューブリックかよと。シャイニングかよと。ただあれは190回以上撮ったらしいのでまだまだかよと。
で、じゃあ一旦休憩しましょうということでベテランメイクさんが演者二人へフォローを入れつつ、リラックスさせようと雑談に興じていたところ…外に出て行ったクルーの叫び声、そして飛んでくる腕…!
ゾンビ映画撮影中に本物のゾンビが出てキヤー!! 果たして誰がゾンビに食われるのか、誰が逃げられるのか…! 突如として始まるサバイバルに観客はハラハラドキドキだーっ!!
…という映画ではないんですが、まあ導入がそうなのであとは観てくださいねということで。
本当に仕掛けの一つでも書いちゃうと興を削ぐ(Wikipediaも予告編も見ちゃダメ)ので、書けることが極端に少ない映画なんですが…差し障りのないところで言えば、まずこのオープニングから始まる「ゾンビ映画の撮影」の一連のシークエンス、これがワンカットで37分あるんですよ。それだけでもうすげーな、っていう。
後で調べたら6テイク目で終わったらしいんですが、まあ一回ミスったらまたやり直しだし…って考えるともうその「ゾンビ映画の撮影シーン」だけでも緊張感すげーな、と単純に感心。
ご存知の通り(?)僕はホラー≒ゾンビ映画は苦手なので、正直この序盤のゾンビ映画のシーンは「意外とちゃんとしてるなぁ…」と微妙な気分で観てました。コメディだと聞いていたので、もうちょっと軽く作ってるのかな、と思ってたのに安っぽさはあれど意外とマジじゃん、みたいな。
ぶっちゃけ前半は完全なる前フリでしかないので、僕もそうでしたが多くの人は「これ評判だけど…そんな面白くなるのかなぁ」って半信半疑で観てたと思うんですよ。無名=知らない役者さんたちがゾンビ映画を熱演したところでねぇ…っていう。
ところが…! ところがですよ奥さん。
その「完全なる前フリ」を回収する後半の作りが本当に見事でですね。
どういうものなのかは当然興を削ぐので書きませんが、ぶっちゃけ構造的にはそんなに珍しいものでもないし、一部言われているような「完全なる新しい企画」的な驚きがあるわけではありません。
ただ、簡単なように見えてすごくうまく構造と設定を配置した巧妙さがある映画だと思うんですよ。それがどこかを書くこともできないので知ったかぶり感も出ちゃうわけですが。
これね、観終わってから「まあこういうの他にもあるし、作ろうと思えば作れるよね」って言っちゃうのは簡単なんですが、実際はそう簡単な話じゃないわけで。多分、同じような構造のものを真似して作ったところで、ここまで面白くはならないと思います。それだけ細かくしっかり計算されて作ってると思うし、万人受けする笑いながらセンスもしっかりあるという…「うまさを見せないうまさ」がある、武術の達人のような映画でしょう。ドニー・イェンかよと。
もうあらゆるジャンルで言われることですが、「誰にでも理解できるほどシンプルでありながら良質なものほど価値があるし難しい」んですよ。まさにその道を行く映画だと思います。
何かを知った後に「ああ、そうだよねこれだよね」って言うのは誰にでも出来るわけで、その「自分にも思いつきそう」な線っていうのはイコールそれだけ理解しやすい内容と言って良いと思うんですが、じゃあそれを生み出すのも簡単なのかと言うと当然そうはいかないわけです。
よくできた広告とかもそうじゃないですか。としまえんの広告でデーブ・スペクターを起用して「一刻も早くすべりたいです」とか。古いですけども。
ビジュアルを見て、「デーブ・スペクターを使ってスケートリンクの広告を打つ」という構造を知った後であれば、似たようなキャッチコピーを考えるのはそんなに難しい話じゃないと思いますが、そこに到達するまでが難しいしセンスなんですよね。99%はそこが仕事と言っても言い過ぎじゃないと思います。
この映画もそういうタイプの映画だと思います。構造を知ってからなら「こういうの観たことあるな」とか「まあうまいけど難しくはないよね」みたいな感想はいくらでも言えるじゃないですか。そうじゃねーんだよと。だったら先に作れよと。
それだけすごく良い“置き所”を用意した映画なんだと思うんですよね。突飛すぎて意味がわからないとかちょっと敷居が高くて高尚な笑いとかじゃないんですよ。誰でも笑えるし誰でも理解できる、それ故に簡単そうに見えるけどそこに到達するには相当な計算がないと無理だよっていう。
そういう巧みさをサラッと軽く見せてくる、そこがこの映画のすごさだなと思います。
全然違う話になりますが、僕はもろダウンタウン世代なので彼らの笑いで育ってきたと言っても過言ではないんですが、たまに松ちゃんが作っていた「笑いのわかるやつだけ笑えばいい」みたいな作品があんまり好きではなかったんですよね。「頭頭」とか「寸止め海峡」とか。今観るとまた違うのかもしれませんが。
それはそれで方法論としてはアリだとは思うんですが、「わかるやつだけ笑えばいい」っていうやり方が嫌いで、それってもう最初っから自分に保険かけてるようなものじゃないですか。彼がそう考えていたと言いたいわけではなくて、そう見えるという意味で。
「評価が低い、それはわかる人が少ないだけ」みたいな。そういうやり方は好きじゃないな、と思っていた自分に対する一つの解というと大げさですが、そういう要素がこの映画にはあると思います。
みんなわかるし、みんな笑える。それだけ単純な笑いかもしれないけど、単純な笑い(≒ベタ)ほど笑えない人も多いので、その分シチュエーションが大事になってくる。そういう笑いの技術論みたいなものを考えていくと、やっぱり「単純なようですごく考えられた作り」だと思うんですよね。この映画。だからすごいなと。
これだけ敷居が低いのに面白い、ってすごいですよやっぱり。劇場でも堪えつつ出ちゃう笑いみたいなのがすごく聞こえてきたし、もういっそ「烏龍茶口に含み上映」とかやったらいいと思う。応援上映的なノリで。往年の内Pのように。吹き出しますよ絶対。
まあそんなわけでですね、ホラー嫌いとしては最初ちょっとだけ嫌な気分になりつつも、最終的には敷居が低い上に面白いというものすごいパワーを持った映画だなと感嘆致しました。
これだけ(嘘くさいほどに)高評価ばっかり聞こえてくる、というのはやっぱり敷居の低さにあるんだと思います。「よくわかんなかった」って感想があり得ないですからね、きっと。それがすごいんですよ。くどいようですが。
ちなみに余談ですがこの映画は前回の「オーシャンズ8」と日をまたいで連続で観に行ったんですが、かたや制作費300万円、かたや制作費7000万ドルですよ。1ドル110円とすると77億円です。2500倍超。
もちろんまったく違う映画なので比較するのも野暮ではありますが、これほど端的に面白さと制作費の妙を感じる組み合わせの2本はなかなか無いので、またいいタイミングに観たもんだなぁと思います。
ということで。
邦画の傑作では常に書いている気がしますが、母国語の映画でこんな面白い映画がある、って時点で観ないと損ですよ。ぜひ!!
このシーンがイイ!
ちょっとねー、どのシーンって書いちゃったらもうネタバレになっちゃうので書けないんですよね。
まあ多分みなさんそうだったと思うんですが、最初のゾンビ映画で一番「え? あれなんだったの?」って感じたシーンの答え合わせのところと言っておきましょう。あそこが一番笑ったし、一番笑い声も聞こえた。
ココが○
ネタバレ項に書きましたが、一見単純なようでいろいろ巧みに込み入っているのがすごいし好きです。
やっぱり上に書いた通り、観客にはシンプルに見える作りの背景に考え尽くされた巧妙さが見える、「よくできた広告」のような作りという点でしょうか。
それとゾンビ映画を観ていて感じた違和感ほぼすべてに答えが用意されているのも気持ちが良い。これから観る方はしっかりじっくり観て違和感を覚えつつ答え合わせを楽しみにしましょう。
ココが×
構造上、どうしてもかなりの部分が前フリになっちゃうのはいかんともしがたい部分があり、そこはどうしてもマイナスかなと思います。仕方ないんですけどね。そうするしかない話だから。
でもやっぱりそれこそこの前の「フォールアウト」みたいに、全編ひたすら引っ張ってくれてあっという間! っていう映画と比べると、どうしても没入度で劣っちゃうのは確かでしょう。それ故満点じゃないかな、という感じ。
ただその前半の退屈さあってこその後半でもあるし、そのフリの部分が退屈だからダメ、って言っちゃうのも抵抗があるんですけどね。難しいところです。
MVA
主演の監督役の濱津隆之はさすが主役と言った演技の幅を感じて、具体的にどこがいいとは(これまた興を削ぐので)書きたくないんですが、すごく良かったです。
それとヒロインの秋山ゆずきもまた幅があるしかわいいしショーパンのお尻を惜しみなく晒す素晴らしさも込みでとても良かったと思います。「ミニスカならもっと良かったのに」と思いながら観ていましたが、それはそれで趣旨が変わりすぎるのでショーパンで良いです。
この二人は埼玉県出身ということで良いぞ埼玉! と言いつつですね、結果的に選ぶのはこちらのお方。
しゅはまはるみ(日暮晴美役)
ベテランメイクの人。通称「ポンッ!」
もーね、オープニングからずーっと若かりし頃のもたいまさこ感を感じてですね。たまんなかったんですよね。「やっぱり猫が好き」の頃のもたいさんのようで。声もなんだか似てるし。
もたいさんも「ポンッ!」ってやりそうじゃないですか。観た人ならわかると思うんですが。
もたいまさこ的存在感の時点でもう優勝だなと。こういうバイプレーヤーすごく大事だし。キャラ設定もとても良かったです。