映画レビュー0799 『オーシャンズ8』
ついに来ましたね。オーシャンズシリーズ最新作。
そりゃあもう鼻血が出るほど楽しみにしておりましたよ。ええ。きっちり数日前に「11」と「13」を再度鑑賞してから臨みました。(12は割愛)
ただ今は「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」公開真っ最中ということもあり、公開初週にもかかわらず近くの劇場では小さいスクリーンでしか上映していないという体たらく。
釈然としない気持ちを抱きつつも観てまいりました。
オーシャンズ8
ただのオシャレ映画に成り下がる。
- 雰囲気は「オーシャンズ」らしいオシャレ犯罪劇
- 笑いもトラブルも少なめで女性らしい華やかさ重視
- オーシャンズ11に準じた「もう一つの狙い」も
- カメオ出演もちらっとあるよ
一応「オーシャンズ11」の女性版リブート作品という位置付けのようなんですが、冒頭で語られるように時系列上は「オーシャンズ13」の後、ということになっています。というか現代が舞台でなんとダニーは亡くなってしまった(!)という衝撃のスタート。
まあね、こういうのは「追跡をかわすために偽の情報を流した」とかいくらでも後付で言えるので、亡くなった設定自体は特にそんなに気にしなくても良いと思います。最も演じたジョージ・クルーニー自身が「もうオーシャン役はやらない」と言っているそうなので、多分死んだまま出てこないんでしょうが…寂しい気はする。
さて、なんと「オーシャンズ13」からもう11年も経ってるんですね…こっちの方が衝撃だわ実際。そんな現代において、ダニー・オーシャンの妹、デビー・オーシャンが「オーシャンズ11」オープニングよろしく仮出所の面談シーンからスタート。そうそうこれこれ! 的なオープニングにオーシャンズファンとしては否が応でもテンションが上がります。「あれ? デビーってダニーと一緒に宇宙漂ってなかったっけ?」とか言うのは野暮です。ボーヤーですよ。
出所後早々に買い物するフリして窃盗を繰り返し、手癖の悪さをアピールしつつ相棒であるルー(ケイト・ブランシェット)の元へ。彼女はデビーの右腕的存在、つまりまんまラスティ(ブラッド・ピット)の立ち位置と言って良いでしょう。
デビーは彼女に服役中に練り上げた盗みの計画を伝え、必要メンバーを集めるべくともに行動を始めます。あとはまあ観てちょーだい電話してチョーダイタケモトピアノです。いつものごとく。
まず最初に、ネットを見ている限りでは女性ほど快哉を叫んでいるというか…「待ってました!」とか「素敵! 憧れる!!」みたいな大絶賛が聞こえてくるので、僕の率直な意見を書くと「だからお前はいつまで経っても独り身なんだよクソちんこ早漏野郎」とか言われそうでとても怖いわけですが、まあ読む人も少ないし良いじゃんといういつもの理論で好き勝手書きます。先に言っておきますが、評価点以上にダメ出しすると思われるのでこの映画が大好きという方は読まないことをオススメします。読んでから文句言っても知らないからな!!
まず大前提として、ジェンダー論的な意味合いで「女性のみの主人公チーム」という点についてはまったく不満はありません。そりゃー事前情報で知った上で超楽しみにしてたわけだし。
「ゴーストバスターズ」よろしく、今の時代こういう女性中心の物語は大きな流れの一つでもあるし、それが良さにつながるものがあるのも重々承知しております。なので、批判=女性だから気に食わない、みたいに取られると辛いぞということはまず先に書いておきたいなと。
その上で不満点を書きますが、まずもうそもそもの「盗みの計画と実行」にオーシャンズ的な良さがまったくないのがとても気になりました。
オーシャンズシリーズの良さというのは3部作それぞれで微妙に違うものの、こと「盗みの計画と実行」という意味での比較対象はやっぱり(リブート元となる)11だと思うんですが、11はかなりミスリードのうまい作品で、早い話が観客が「うわー、そういうことかやられたー!」ってなる気持ちよさが一番のキモだったと思うんですよ。同時に「え、これ失敗してない? 大丈夫?」って疑わせるうまさもあって。
そのミスリードをやりすぎたのが12、犯罪よりも友情に重きを置いたのが13だと思いますが、それはさておきその「ミスリード上手だった11」と比べた時、まず全体的に作りが素直過ぎるんですよね。例えばナインボール(ハッカー)は優秀過ぎてトラブルがまったくなく、リビングストンみたいな怪しさが無いから緊張感も薄い。
ミスリードを盛り込まない素直さのせいで順を追って犯行を見ているだけでスリル感がほとんどない。「これこのままじゃまずい…!」みたいなピンチの場面がほぼ無くて、そのせいで惹き込まれる強さがまったく感じられなかったんですよね。
それともう一つ、これもかなり大きかったんですが…笑いを取りに来るシーンがほとんどないんですよ。クスクスニヤニヤするような小ネタ満載だった過去3部作のような軽さがほぼ消え失せ、その分オシャレ感をこれでもかとアピールしてくる印象で、いやオシャレなのはわかるけど…ただのオシャレ映画になっちゃったら面白くないじゃん、って言う。
僕はオーシャンズシリーズに対して「オシャレ映画でしょ?」って言われるのがすっごい嫌いなんですね。それは言外に「(ただの)オシャレ映画でしょ」っていう“ただの”が入ってくるからだと思ってるんですが、11と13(12はアレなので置いといて)の良さというのはオシャレの一言で片付けられるようなものじゃないんですよ。ないんですよ!!(熱弁)
コメディ感にしてもそうだし、仲間の良さ、友情というのもそうだし、巧みなチームプレーの良さもそうだし。
この映画に関しては、チームプレーだけはちょっとだけ見せてはくれるものの、友情的なものは基本的にデビーとルーだけだし、その関係性もちょっとあざとく感じるような腐女子的要素をチラッと覗かせて媚び売ってきてるように見えるしで…我慢ならん!!
はっきり言おう、こんなのはオーシャンズとして認められんわ!!!
単体映画として観た場合は…まあまあかなと思います。ただ核となる犯行がかなり微妙な内容で犯罪モノとしても微妙だし、観客を裏切る要素も予想がつくものだったし、全体的にかなりこじんまりとしている印象で、良さとして挙げるとすれば…やっぱりファッション込みで女優陣の良さぐらいかなと言う気がする。
計画の説明についてもあまり詳細は触れずに説明不足と感じる部分も多いし、説明不足のままさしたるピンチも無くすんなり行っちゃって終わり、っていうのはやっぱりあまり質がいいとは言えません。
初代ポケモンで言えばミュウのような存在と言われるなんプロ愛読者の方々(主におれ)であればご存知だと思いますが、僕はオーシャンズシリーズがむちゃくちゃ好きなんですよ。鼻血が出るぐらいに。特に11と13は。落ち込んだときに一番お世話になっている映画だと言っても過言ではないぐらい、何度も観ては「たまんねーなー」とニヤニヤしてきたわけです。
そういう強い思いを持った人間からすれば、こんな表面上(チームでかっこよく盗むぜ程度のレベル)をなぞっただけの映画を「オーシャンズシリーズ最新作です」なんて推して欲しくないんですよね。
これはもうひとえに監督・脚本を兼務したゲイリー・ロスの手腕の問題でしょう。
「個性豊かな女性チームが活躍する」その一点で満足できる人であればこの上なく愛せる映画になるのかもしれませんが、元のオーシャンズシリーズファンかつ物語の作り自体にも多少文句を言ってやんぞという人間であれば、とてもこの映画では「復活嬉しい」なんて言えないと思います。
最初こそルーベン登場で盛り上がったものの、それ以降はずーっと「うーん、これは…もしかして…」と疑心暗鬼のまま観続け、そして結果やっぱりダメだなと言う結論に至りました。つらい。つらいぞ。
繰り返しますが、僕は「女性チームだから良くない」とはまったく思っていません。単純に、盗みのテクニックとそれの見せ方が良くない、レベルが低いと言いたいんですよ。表面上だけサラッと似せてきてる感じが余計に腹が立つ。ぶっちゃけ6.0はオマケです。オーシャンズへの思いも込めたら4.0ぐらいが妥当。いかに僕が期待して、そしてその期待を裏切られたのかがおわかりいただけると思います。
なんでこんなダメな監督に任せたんだ…。完全別物にして滑るならまだしも、マネして中途半端な作りにされたのが本当に嫌。
せめてソダーバーグが作ってくれていたらまだ諦めもついたのに…。
このシーンがイイ!
ローズ(ヘレナ・ボナム=カーター)を勧誘しに行く時のルーのファッションがなんかかっこよくてすごく印象的でした。水色のスーツっぽい感じだったんですが…あれ似合うのすげーな、って。
ココが○
デビーとルーのコンビ的な良さはダニーとラスティのそれに近い良さがあって、この二人に関しては(配役含め)良かったと思います。その分、他のメンバーとのつながりの薄さがやっぱり気にはなったかな…。
もっとも過去作でもライナス(マット・デイモン)は親は知ってるけど的な新規参入だったし、結局関係性よりもシナリオの良し悪しの問題なのかも。
ココが×
散々書いた通りですが、まとめると「予想を裏切らない」ところに尽きるのかもしれません。
それと劇伴がねー。なんとなく近い雰囲気で違うものを、という感じはしたんですが…やっぱり3部作のジャズファンク感がものすごく映画のイメージを作っていただけに、それに並ぶ強い個性を感じさせる音楽にして欲しかったなと思います。そういう面でも雰囲気作りの力量が足りない。
MVA
サンドラ姉さんは相変わらずお上手で文句なし、アン・ハサウェイのエロさもお見事でしたが…やっぱり世間的にも一番話題のこの方になるのかな。
ケイト・ブランシェット(ルー・ミラー役)
デビーの右腕。
公開後から女子たちが「ケイト・ブランシェットに抱かれたい!」ってすごい騒ぎなようなんですが、それはもうそのまま11におけるラスティ=ブラピにしびれた僕らの感覚と同じようなものなんでしょうね。かっこいいぜ憧れるぜ、っていう。
確かにすごくかっこよく、これほど「デキる右腕」感が出せる人もなかなかいないでしょう。まあさすがとしか言いようがないですね。ケイト・ブランシェット。
余談ですがケイト・ウィンスレットもケイト・ベッキンセイルも良い女優さんなので、ケイトにはハズレがいない説ありますね。マジで。
そうそう、あといつもクセのある役が多いヘレナ・ボナム=カーターも、今回は少し気弱なおばちゃんデザイナーという役どころでなかなか珍しく、彼女もまたさすがだったなと思います。
キャスティングはすごく良かったんですよね。だから文句言いたいのは監督・脚本なのでまんまゲイリー・ロス。マジゲイリー。