映画レビュー1419 『FALL/フォール』

今回は元々アマプラにインするとやたら推されていた映画(予告編はネトフリだけど)なんですが、この前たまたまつけたラジオで映画好き芸人として有名なこがけんが絶賛していたのを聞いたので「じゃあ観てみるか」ってことでね。こがけん自体初めて知ったんですけど。知らなすぎて「おがけん? こがけん?」って調べました。

FALL/フォール

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監督
脚本

ジョナサン・フランク
スコット・マン

出演

グレイス・キャロライン・カリー
ヴァージニア・ガードナー
メイソン・グッディング
ジェフリー・ディーン・モーガン

音楽
公開

2022年8月12日 アメリカ

上映時間

107分

製作国

アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

FALL/フォール

見せ方は良いんだけど…。

7.5
傷心を癒すべく、解体寸前のテレビ塔に登る女子2人
  • 夫を失って1年経っても引きこもっている親友を連れ出しテレビ塔へ
  • 周りは荒野で人も通らず、いかにも危険な状況でもちろん危機に陥る
  • 絶望的な状況の中でいかにサバイバルするのかを見つめる2時間弱
  • 撮影は見事、しかし終始漂う「何してんの」感

あらすじ

確かに面白かったんですが…やっぱりちょっと主人公に感情移入出来なさすぎてイマイチのめり込めないのがもったいないお話でしたね。スリリングさはお見事でした。

クライミング的なものが趣味らしい夫婦、妻のベッキー(グレイス・キャロライン・カリー)と夫のダン(メイソン・グッディング)。
ある日夫妻と親友のハンター(ヴァージニア・ガードナー)の3人ですげーとこでクライミングしてたところダンがグッバイしてしまい、女子2人だけでのご帰還です。
それから51週後──
未だに最愛の夫・ダンを思い、留守番電話にかけては声を聞いたりして引きこもっていたベッキーを見かねたハンターは、冒険旅行的なものから帰国後すぐにベッキーの元へやってきて「またクライミングしよう!」と彼女を連れ出します。
2人の目的地は荒野の中にひっそりとそびえ立つ解体が直前に迫る使われていない高さ600mのテレビ塔。
周りのそこそこ広範囲が立入禁止となっていて人が立ち入らないというわかりやすいフリを提示されつつ、すっかり錆びついたテレビ塔を登っていく2人。
なんとか登りきって撮影したりウェイウェイするわけですが、当然そのまま降りることは叶わず孤立してしまいます。果たして2人は助かるのか…。

撮影◎、動機✗

「51週後」って「1年後」でよくない? 何そのこだわり? と思いました。(1年は約52週)
おそらくプロではない(そういう話は出てこなかった)、あくまでレジャーとしてクライミング等を好む夫婦だったのが、その趣味のせいで夫を失ってしまい引きこもる中、同じ趣味&インフルエンサー的な活動をしている親友に誘われて再度冒険へ…ってな話なんですが、まあその導入からして結構無理はあるような気はするんですがこればっかりはそういう趣味ではないからわからないだけなのかもしれません。
考えようによっては「トラウマを断ち切る」みたいなちょっとスパルタ系の考え方としてアリかもしれない。ただ行き先がいかにも素人チョイスだったが故に大変なことになりましたよ、ってな話です。
もうこれは観た人のおそらく99%はそう思うんじゃないかと予想するんですが、「いや自分から登っといて降りられないからあの手この手、って何しとん」と突っ込まざるを得ません。
僕はいわゆる自己責任論は大嫌いなんですが、それでもやっぱり漂う自業自得感。どう考えてもヤバいものに挑戦してその通りヤバくなっちゃっただけに同情もできない=感情移入できない。感情移入を重視する人間にとってはそのせいで映画としてもう一つ刺さってこないもどかしさはありました。
せめてもう少しだけ納得できる何らかの動機、例えばダンが生前「あのテレビ塔に登るのが夢だ」と話していた…とかあったら印象は全然違ったと思います。もしくは親友ハンターに“裏の目的”があった(からどうしてもベッキーを誘い出す必要があった)、とか。
そういうのはまるでなく、まんま「元気出すためにヤバそうだけどテレビ塔登っちゃおうぜ!」なので「バカかな?」としか思えず、若気の至りにしては妙齢(結婚もしてるし)だし、結局「お騒がせ配信者がやらかした系」みたいな話にしか見えないのが本当に残念だしもったいないですね。
一方で撮影は非常によくできているので、もう完全に物語の作り方、動線の引き方で損しちゃっててもったいない映画だなというのが一番感じたところ。

その撮影に関しては、もう本当に「地上600mの鉄塔に登ってドローンで撮影しました」としか思えないレベルで素晴らしいタマヒュン感を演出しておりまして、これほど観ていて足元が寒く感じた映画はないです。本当に足がスースーしました。人間の知覚って不思議。ちなみにスカイツリーが634mなのでスケール感としては大体あれぐらい。スカイツリーは「タワーとしては世界一」らしいので、まあこのテレビ塔も相当ですよ。しかも超ほっそいだけに余計に怖い。
撮影方法については観るきっかけとなったラジオでこがけんが種明かししていたんですが、これは「低めの山の頂上に20m程度の鉄塔を建ててそこで撮影した」そうです。で、その山の地面が見えないような角度で撮ると相当上空から撮っているように見える、と。なるほど…!
とは言え20mだって5階建てビルぐらいらしいので十分怖い。もちろん万が一落下しても大惨事に至らないようにマット的なものも敷き詰められていたりしたんでしょうが、それでも女優さんお二人は「そこで演技をした」だけでも十分称賛に値すると思います。めっちゃ大変だっただろうな…。ウェイウェイするシーンの方が怖そう。
種明かしされてから観ても真上から見下ろすようなカットはそのまま600mの鉄塔にしか見えないし、きっとCGなんかもいろいろ駆使しているんじゃないかと思いますが…まあその設定の再現度については本当に見事だと思います。このテクニックあってこその映画であることは間違いなく、それ故これほどまで撮影技術に依存した映画もある意味では珍しいところです。

一見の価値あり

お話としては極限状態のサバイバルも絡んでくるので「127時間」とだいぶ似たものを感じました。ただ上記の通り動機がかなりお粗末なのでその分損したかな…という感じ。
あっちは実話なのでさすがに話として強すぎるんですが、一方でこっちはちょっとした「シチュエーションホラー」感もあるぐらいに見せ方が素晴らしいので、決して劣っているわけではないとも思います。個人的にダニー・ボイルの演出が鼻につくのでその分あっちはマイナスだし。
とは言えやっぱりどうしても導線が残念なために「シチュエーションありき」感が強すぎるのも事実なので、撮影の10分の1でもシナリオに力を入れてくれればもっと評価される映画になったであろうことを考えると本当にもったいない映画だと思いますね。
登場人物も少なめだし、いわゆる低予算映画に入ると思いますがまったくそう感じさせないアイデアは本当に素晴らしいので、一見の価値はあると思います。
で、きっと「バカかな?」と思うでしょう。そういう映画です。

NETA/バレ

ネタバレです。
もう一つ苦言を呈しておきたいのは、やっぱりハンターの幻影の件。いくらなんでもあそこまで明瞭でいろいろやってくれる幻影はちょっとやりすぎでしょう。便利キャラすぎる。
「実は死んでました」はすごく良いと思うんですよ。むしろあのシーン、成功した方が嘘くさいなと思って観てたし。
ただあまりにも幻影感がないのでやっぱりちょっと強引さを感じてしまうのがこれまた非常にもったいない。もう少しフリを入れるなり、あそこまでハンターの存在感を強く出さなければよかったと思うんですが。あの事故以降ハンターの口数が少なくなったとかボーッとし始めたとかそういう感じで。
これも込みでやっぱりちょっと「物語は二の次」感が拭えず、よく出来ているだけに惜しさが際立つ映画だな、と…。

このシーンがイイ!

最後のアレは良かったですね。内容的に。極限状態なのがよくわかって。

ココが○

撮影とシチュエーションの描き方は本当によく出来てると思います。このワンシチュエーションでここまで保たせられるのはやっぱりアイデアが良いってことなんでしょう。

ココが×

上記の点を除くと、ネタバレになるので詳細は書けませんが一番最後急に飛ぶのがかなり不満でした。ピークなんだからもうちょっと丁寧に進めてほしかった。

MVA

ちょい役ですがお父さんがジェフリー・ディーン・モーガンっていうのが良かったですね。渋くて。
とは言えやっぱり鉄塔登って演技したお二人の功績を称えないわけには行かず、ぶっちゃけどっちでも良いんですがコチラの方に。

グレイス・キャロライン・カリー(ベッキー役)

主人公の女性。夫を失ったショックから立ち直るためにハンターの誘いに乗って鉄塔を登る系。
行動はダメダメでしたが、演技はお見事でした。20mでも超怖いのは間違いない上にそこでさらに演技をするわけで、まあすごいですよほんと。ハンター役のヴァージニア・ガードナー含めてお見事です。
「20mの塔の上で演技」だけなら割とできる人も多いと思うんですが、なにせ観ればわかる通り足場もめちゃくちゃ狭いんですよね。こんなのもう寝てる(フリの)演技だけでも怖いでしょ。足滑らせたらって考えちゃうし。

もしかしたら足場ももっとあったのがCGで消してたりするのかなぁ…。今どきの技術ならそれぐらいできるだろうし。

もう何も信じられないですね。世の中。(勝手に想像して勝手に信じられなくなる勢)

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