映画レビュー1409 『翔んで埼玉』
(だいぶ空きましたが)GW特別企画その2。
ご存知骨の髄まで埼玉県民としてはさすがにこの映画はいつか観なければいけない…と思いつつ後回しにしていたんですが、GWで時間もあるしそろそろ…とかなり今さら感漂いつつ観ました。
翔んで埼玉
埼玉県民が一番旨味を吸えるのは間違いない。
- どこからどう見ても完璧な「都民」の男子学生が埼玉県人の家政婦をかばってしまい…
- 彼に惚れてしまった生徒会長と共に逃避行、その後彼の計画が露わになる…!
- 現在パートと過去パートの二部構成
- 最もディスられつつその旨味がわかる選ばれし民、それが埼玉県民
あらすじ
まあ話題になったし続編も作られたしで面白いんだろうと思ってましたが想像以上に埼玉ローカルっぷりがすごく、なるほどこれは埼玉県民はたまらんなと納得。なおややこしいですが映画上での埼玉県民は「埼玉県人(人種的な意味合いが込められていると思われる)」、現実で観ている僕のような人間は「埼玉県民」としています。どうでもいいですね。
代々東京都知事を生み出してきた超名門校・白鵬堂学院に転校生としてやってきた麻実麗(GACKT)。容姿端麗でアメリカ帰り、御曹司でもありどこからどう見ても都会人の彼は、転校初日に周囲の案内で都知事の息子であり学院の生徒会長でもある壇ノ浦百美(二階堂ふみ)を紹介されるもあまり相手にしておらず、その態度が気に食わない百美は即座に敵視し始めいろいろと無理難題をふっかけますが麗はすべて華麗にこなしていきます。
いきり立つ百美に麗が挨拶代わりのキスをお見舞いしたところ百美は逆に麗に惹かれてしまい、なんやかんやでデートに行った2人ですがそこで偶然居合わせた麗の家政婦のおかよ(益若つばさ)がSAT(埼玉アタックチーム)に追われる現場に遭遇、彼女を救ったことで怪しまれた麗はSATに草加せんべいの踏み絵を迫られますが踏むことが出来なかったことでなんと埼玉県人であることが発覚します。
なんとかその場からは逃げた麗と百美ですがそのまま帰るわけにもいかず、そこから長い逃避行が始まるのでしたとさ…!
大木先輩は観たのか問題
もうこの映画が話題になってから数年後の話ですが、ビビる大木(春日部市出身)が鶴瓶師匠の番組で「(埼玉出身なら)翔んで埼玉はもう観たん?」と聞かれ「それがまだなんですよ。埼玉県民ってそういうとこあるんですよね」と自己フォローしていて、激しく頷いたことがあります。埼玉県民そういうとこ、ある。
それからさらに数年経ち、ようやく観ました。ビビる大木先輩は観たんでしょうか。
完全に余談ですがビビる大木は僕の専門学校の先輩にあたり、当時その学校のイベントに売れる前のコンビ時代のビビるが来て余興をやっていたのを覚えていまして、敬意を込めて「先輩」と呼んでおります。彼は歳も近い、お隣の市の出身、出身校が一緒(専門だけど)ということで僕にとって親近感レベルは芸能界で一番なんですが、これもどうでもいい情報です。
さて、そんな(どんな)翔んで埼玉ですが、想像していた以上に埼玉に依存した内容で大変楽しませて頂きました。それこそビビる大木先輩の故郷である春日部なんてとんでもない田舎(竪穴式住居)で描かれていたりして大爆笑しましたが、僕の出身地はそれ以上に「話題にも上らない」レベルの地味な場所なので名前すら出てこなかったのがちょっと悲しい。(出てきたらそれはそれでビビるんだけど。ビビるだけに)
なおあらすじでは省きましたが、物語はGACKTと二階堂ふみがダブル主演の過去パートを中心に、それが“都市伝説”として伝わる現代パートを織り交ぜて展開します。現代パートは同じ埼玉県民同士で結婚して都内に住む予定の島崎遥香と、その両親のブラザー・トム&麻生久美子が中心なんですが、現代パートは時間的にも短く添え物的な感じで割と内容は薄いです。
さて、そんな翔んで埼玉ですが(デジャヴ)、この映画公開当時、制作サイドが埼玉からのクレームに怯えてマニュアルまで用意していたらしく相当身構えていたことが伺われますが、しかし観て思ったのは絶妙に埼玉県民の持つ(自虐的な)劣等感を突いてくる内容になっていて、なんというか「上から目線で都民にバカにされる」というよりも「埼玉県民にしかわからない劣等感をくすぐる内輪ネタ」っぽい印象のほうが強くて、これにマジで怒る埼玉県民がいたらそれはそれで相当に痛いだろうと思うぐらいあまりにも埼玉の特徴を絶妙に突いてくれて気持ちが良かったですね。
よく言われることですが、埼玉って本当に「なにもない」んですよ。僕が誰かに「埼玉って何があるの?」と聞かれたらよく「俺のうちしかない」と答えるんですが、それぐらいなにもないわけです。そしてなにもないということは、イコール話題に上らないんですよ。“主役にならない”のが埼玉だと。
そんな埼玉を思いっきり前面に押し出してくれたことはもうそれだけで埼玉県民にとっては嬉しいんだと思うんですよね。きっとね。嬉しいというか、それだけで物珍しくて喜んじゃう感じというか。
逆にここまで埼玉に寄せているとも思っていなかったので(いやタイトルが埼玉だけどさ)、これ観て笑えるのはせいぜい関東民で、あんまり関東に馴染みのない人たちが観て果たして面白いのかは結構疑問ではありました。それこそ内輪ネタで盛り上がるバラエティ番組みたいな疎外感がありそうで。
埼玉県民としては「海を持ってくるのが悲願」とか「千葉をライバル視」とか「大宮と浦和が仲悪い」とかあるあるすぎて最高だったんですが、でもこれって関東圏以外の人たちにはまったくピンと来ないような気もして、ある意味すごいピーキーな映画(漫画)というか、狙いを絞った作品だなと思います。
「埼玉をバカにしてなんとなく面白いな」はあったとしても、その細かいニュアンスまでは伝わらない人も多いだろうし、まあ話題になった原作を元にしているとは言えようこんな映画作ったな、と。さいたまんぞうとか今どき誰が知ってるんだよ。
一応それなりに物語の核となる部分もありはしますが、面白さの大半はそんな感じで埼玉(及びその他関東ネタ)にかなり依存した内容なので、埼玉県民としてはかなり面白かったものの続編が作られるほど受け入れられるような映画とも思えず、まあよくここまで売れたよねと逆に感心するぐらいの内容でした。それだけピーキーというか振り切ってもいるのできっとそこが良かったんでしょうね。
これが(文字通り)万人受けするように、なんなら海外でも通用するように平坦化した笑いだったら全然面白くなかったと思うので、ある意味で術中にハマってしまったかなと。
続編も違う意味で期待
思いの外楽しめたので続編も観ようと思うんですが、今度は滋賀≒近畿圏のお話になっているようなので、今作の作りからすると実はあんまり楽しめないんじゃないか…と思いつつ、逆に今作を外から観た感覚がわかるかもしれないという意味で期待しています。
ただまあ…こう言っちゃなんですが一発芸みたいな映画なので、そんなに続編でこするようなものでもないと思うしいいところで終わってほしい気もしますね。なんとなくね。
このシーンがイイ!
一番笑ったのは二人が逃げるときに「取手まで電車で逃げてそこからは徒歩で埼玉県境へ」って話をしていたところですね。遠すぎるだろ、っていう。
千葉を通れば早くて近いんですが、なにせ千葉はいろいろ因縁があって通るのは危険だから、とその辺のニュアンスもバカバカしくて大変良かったです。
それと有名人対決もわかりやすくバカバカしくてこれも良かった。
ココが○
そもそも原作が話題になったのもある意味すごいことだったと思いますが、とことん埼玉を軸にしたバカバカしい話を映画化する、って勇気がすごい。こんなバカバカしいものよく作ったね、と呆れ半分に褒めたい。
ココが×
やっぱりちょっと埼玉に縁遠い人にはしんどい気はするんですよね。逆に埼玉県民としてもよく知らないくせに笑ってんじゃねえ、みたいな妙なプライドも顔を覗かせます。
一方真面目に思ったのは、白鵬堂学院のランクに従って明らかにルックスも落ちるようなキャスティングになっているのは今の時代かなり微妙だなと思いました。埼玉県民が虐げられるのはいいんだけどいくらなんでもあからさまに芋っぽい人員を配しすぎだしルッキズム的にまずいんじゃないの? っていう。中間ランクもあからさまにモブ感出してるし。
それと主演の二人はできれば埼玉県民と東京都民で作ってほしかった…いやどっちもよかったけどさ…。
MVA
正直誰でも良いっちゃ誰でも良いんですが、一応ストーリーに準じた出身地のこの方にしたいと思います。
ブラザートム(菅原好海役)
現代フェーズ、結納に向かう娘を乗せて軽を運転する父。
上に「現代フェーズは薄い」と書いた通り内容としては薄いものの、役も演技も一番埼玉県民っぽさがにじみ出ていた気がするのでブラザートム先輩に送りたいと思います。なにせ「埼玉県出身」に留まらず、役と同様に「熊谷市出身」でもあるのがアツい。熊谷だけに。
同様に「埼玉に嫁いできた千葉県出身」という設定で実際に千葉県出身の麻生久美子も素敵でした。っていうか麻生久美子好きです。結婚してください。(重婚の誘い)