映画レビュー0774 『イングロリアス・バスターズ』

実は今3月末なんですが、年度末というのをすっかり忘れてウカウカしてたらですね、案の定観たい映画が山ほどネトフリから削除されるんですよ。困った。

とりあえずまずはこの映画から観るか、ということでちょっと長いな〜と尻込みしつつ観ることにしました。

ちなみに最近気付いたんですが、ネトフリは配信終了になっても結構早めに(半年とかで)復活したりもするので、見逃したーっていう映画もまた時間が経ってから確認してみるとあったりしますよ。実際このレビューをアップする頃にはすでに復活してた、とかもあり得るかもしれません。

イングロリアス・バスターズ

Inglourious Basterds
監督
クエンティン・タランティーノ
脚本
クエンティン・タランティーノ
公開
2009年8月21日 アメリカ
上映時間
153分
製作国
アメリカ・ドイツ

イングロリアス・バスターズ

かつて「ユダヤ・ハンター」と呼ばれるナチス親衛隊のランダ大佐に一家を皆殺しされたショシャナは、亡くなった叔父夫妻から譲り受けた小さな映画館で名を変え暮らしていたところ、「ナチスドイツの英雄」と呼ばれる一人の兵士に想いを寄せられる。成り行きで彼が主演するプロパガンダ映画のプレミア上映会を自身の映画館で開催することになったショシャナは、この機会をナチスドイツへの報復に利用しようとするが、同じくアメリカ軍特殊部隊を中心とした連合国軍の一部もこの上映会を利用してナチスドイツ幹部の殲滅を狙おうと画策していた。

良い意味で品がない、でも緊張感はある。

8.0
ナチスに復讐を誓う女性とナチス嫌いの軍人とナチス
  • ベースは復讐なのでタランティーノとしてはわかりやすい映画かも
  • 独特の雰囲気で引っ張ってくれるので長めの上映時間もあんまり気にならない
  • 不必要なほどきっちり見せる故にややグロさもあるので注意

なんと当ブログでは初ですね、タランティーノ作品。びっくり。個人的にも観るのはかなりがっかりだった「キル・ビル vol.1」以来かなー。超久しぶり。

例のセクハラで大問題となっているワインスタインのプロジェクトである上に、タランティーノ自身もついこの前ユマ・サーマンによって過去の所業を糾弾されたばっかりという…ある意味では今評価する上で最もセンシティブな作品の一つかもしれません。まあそんなの気にしないけどね。もちろん彼らの所業は糾弾されて然るべきだと思いますが、それと作品のお話はまた別だと思うので気にせずまた思ったまま語りましょうよ。ねえ。

物語は5つの章から作られています。細かい話なんですが、特に英語で章表記が入るわけでもなくいきなり日本語字幕で「第1章 ウンタラカンタラ」とか入るのでこれ本国ではどうだったんだろうとちょっと気になりつつ。同じ感じで字幕で入れたのかな。

オープニングはこの映画の最大の悪役と言える、ナチス親衛隊(SS)のランダ大佐が「隠れユダヤ一家」を見つけ、虐殺するまでを緊張感たっぷりに描きます。この虐殺から逃れることができたのが、後半の主人公の一人、メラニー・ロラン演じるショシャナです。

2章は舞台を変え、ゲリラ的な局地戦でドイツ軍を破り、捕虜を取らずに虐殺して頭の皮を剥いで回るという恐ろしきアメリカ軍特殊部隊「イングロリアス・バスターズ」のお話。部隊を率いるのはブラピ演じるレイン中尉です。頭の皮の件からもわかる通り、こいつらがなかなかイッちゃっててですね。「ナチスが悪役の戦争映画ですよ」というスタートのくせにこいつらも悪く見える辺りに戦争の狂気を感じるとか感じないとか言う噂です。

3章は生き延びたショシャナが名前を変えて映画館の経営者としてフランスで暮らしていたところ、ある一人のドイツ兵に見初められるお話。そこから世界が回り始め、それぞれの想いが交錯した結果どうなるのか…は観ていただきましょう。

まず最初に感じた上映時間の長さ(2時間半)はまったく気にならなかったぐらいに面白かったです。章立ての映画はオムニバスっぽく感じられて長くてもなんとなく観やすい気もします。なんとなく。

映画自体はまさにタランティーノらしい独特のテンションがあり、特に音楽の使い方やいきなり挟まる回想(もしくは妄想)シーン辺りにそれっぽさが見て取れます。

あと基本的に品がない。ただこれは非難というより褒め言葉として言いたい感じ。観客が「察する」ことを拒否したかのような明け透けな見せ方はある意味潔く、またそれ故に品がなく見えます。ただそれが独特の世界を作っているのは確かなので、向き不向きはあれどやっぱり面白い作り方をする監督だよなぁと思わされましたね。

オープニングのやり取りからしてそうなんですが、全体的に「会話の緊張感」の見せ方が見事な映画ですね。やはり戦時下ということもあって「攻める側と攻められる側」がはっきりしているので、そのわかりやすい構図から描かれる会話の機微のようなものがとてもサスペンスフルでですね。じっくり見入っちゃう面白さがありました。なんとなーく観ている側に嫌な予感を感じさせるねっとりとしたカメラワークも秀逸。

物語は当然ながらフィクションなので、「フィクションだからやりたいことやるぜ」的に開き直った展開も良い意味で悪ガキ感が漂っていて面白かったですね。もうこれほどまで「ナチスドイツ(≒ヒトラー)」を利用してバカにしてコケにした物語もなかなか無いのではないでしょうか。あからさまに危機管理能力の無い人たちとして描かれ、(物語上)徹底的に遊ばれる実在の人物というのは他に観た記憶がないレベルで、タランティーノに良いように遊ばれている・使われている感じがこれまた独特で面白い。これが(批判的に見られがちな人物でも)普通の歴史上の人物であればどっかからかお怒りの声が届いて当然だと思うんですが、さすがにナチス、ヒトラーともなるとここまでコケにしても許されるんだなと(もう10年近く前の映画だけど)また新しいナチス・ドイツの利用方法を見せてもらった気がします。まさに「記号化された悪」であるところのナチス・ドイツを骨までしゃぶって捨ててやったぜとドヤ顔するタランティーノの顔が見えたとか見えなかったとか言う話。

なお、タイトルからもわかる通り「イングロリアス・バスターズ」、つまりブラピ演じるアメリカ軍特殊部隊の面々が主人公のお話…なはずなんですが、どちらかと言うと彼らは少し脇に近かったような気がします。ブラピはブラピなだけにやっぱり登場シーンが少なかろうが印象は強いんだけど。

やっぱりオープニングの経緯からして観客はメラニー・ロラン演じるショシャナに感情移入するはずで、本当の主人公は彼女だと思うんですが、ただ彼女の「復讐物語」だけだとやっぱりちょっとしんどいというか、弱い部分もあると思うんですよね。綺麗すぎちゃってタランティーノらしくない、みたいな。そこになんならちょっとコメディタッチですらあるブラピによる「イングロリアス・バスターズ」が引っ掻き回してくれたおかげで、混沌としつつも物語に奥行きを与えている辺り…なかなかニクイ脚本じゃないかなーと思います。

無駄にグロい(その辺も品がない)部分があったり、ちょっととっつきにくい面は間違いなくあるんですが、それでもなかなか物語自体は良く出来てるし、最終的に一つの場所に収束していく構成は道中も飽きさせない娯楽映画的な良さがあったと思います。クセはありますがキル・ビルほどではないし、「タランティーノの映画は観たことが無い」ような人の導入としても良いのではないでしょうか。

ネタバレリアス・バスターズ

観ていてわからなかったんですが、最終的にショシャナ(とマルセル)は死ぬつもりだったんでしょうか。それとも逃げ道は用意してたんでしょうか。

ただ二人の最後のシーンの涙から察するに、どっちかもしくは二人とも死ぬつもりだったんだろうなぁ。最終的にマルセルがどうなったのかはわかりませんでしたが、あの燃えっぷり&爆発では生きてないんでしょう。まあ、物語的には大して重要な部分でもないので触れなくても良いんでしょうね。

他に気になった点としては、劇場に残ったブラピの部下二人はダイナマイトを仕込んだまま撃ちまくって爆発、つまり自爆するつもりでいたっぽいとなると、同じく足元にダイナマイトを仕込んでいたブラピも自爆するつもりだったんでしょうか。そういうキャラには見えなかったけど…置いて逃げるつもりだったのかなぁ。どっちにしても爆発から逃れて生き延びることが出来たブラピ(とウティヴィッチ)は一番ラッキーだったのかもしれないですね。

観客的にはランダ大佐がやり込められることでカタルシスを得たかったわけですが、彼は憎らしいほどうまく立ち回って一番美味しい人生を歩む…ように見せてからのブラピによる制裁でエンディング、というのは素晴らしいですね。そりゃブラピも「最高傑作」言うわ。

結果的に一番の“狂人”が観客のヒーローになって幕引き、という辺りもなかなか品がなくて面白いと思います。

このシーンがイイ!

緊張感あふれる会話のシーンはどこも良かったと思います。やっぱり印象としてはオープニングかな…。あれのおかげでランダ大佐のキャラクターが強く刻まれたと思います。

ココが○

どこが良いとかはっきり言えない独特のものがあるので、それがもう魅力なんでしょうね。くさやみたいな。臭いけど美味いぜっていう。その割に物語はうまく惹きつけて先が読めない面白さがあるし、「ただ独特なだけ」じゃないのが良い。

ココが×

チラッと書いた通り、微妙にグロいんですよ。軽いノリだから別に見られないというわけではないんですが、ただそれ別に見せなくていいよみたいなものも見せてくる品の無さはやっぱりあるかなと。

MVA

役者陣はなかなか豪華で好みでした。やや出番は少なめながら、寡黙さに狂気を内包するティル・シュヴァイガーも良かったし、女優故にボンクラなスパイっぷりがにじみ出ていたダイアン・クルーガーも良かったと思います。

メラニー・ロランはこの頃が一番綺麗だったんじゃないかなーと思うほどとても良かったと思いますが、演技的にはおそらく満場一致でこの人が群を抜いてすごかったと言うんじゃないでしょうか。

クリストフ・ヴァルツ(ハンス・ランダ親衛隊大佐)

もちろん詳しいアクセントとかはわかりませんが、ドイツ語・英語・フランス語におまけでイタリア語までそつなくこなし、柔和そうに見えながら底知れない恐ろしさを感じさせる懐深い演技は凄まじかったですね。怖すぎる。

多分「スペクター」にはこの映画での演技が期待されていたような感じ。悪役として文句なしの素晴らしい演技でした。

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