映画レビュー0465 『ジャージー・ボーイズ』
今月はちょっと観に行きたい映画が多いので、できるだけ劇場に足を運ぼうと思っているわけですが、まず最初の一本はこの映画。
ジャージー・ボーイズ
知らなくても大丈夫。ド安定で誰でも楽しめる良作。
僕もこの映画を観るまでは、「フォーシーズンズ」というバンドがどういう曲をやっていたのかとかはまったく知らなかったんですが、おそらく彼らの最初のヒット曲となる「シェリー」は知らない人のほうが珍しいんじゃないでしょうか。裏声っぽいハイトーンボイスで ♪シェ~ェリィ~ シェリシェーリ~ シェ~ェリィ~ シェリシェーリ~っていうアノ曲です。
序盤、主人公のヴァリが歌っているシーンで「この声どっかで聞いたことあるよな~」と思いつつ、「シェリー」が世に出る場面で「ああ、あの!」と頭の中で線がつながるわけですが、別人でありつつもかなりご本人に近い声色と歌唱力を披露してくれる主人公を演じるジョン・ロイド・ヤングがまずスゴイ。どうやらオリジナルのブロードウェイミュージカル版でも主演だったそうで、定番のキャスティングかもしれませんが、その辺「RENT/レント」とかにも通じるものがあります。
が、「ミュージカルを映画化した作品」とは言え、「RENT/レント」のようにバリバリ「ミュージカル映画」という感じではなく、あくまで「フォーシーズンズの結成から離散まで」を描いた、どちらかと言うとノンフィクションドラマっぽい内容が主。
要所要所で歌が挟まるものの、“歌だらけ”のミュージカル映画と比べれば断然観やすくストーリー性も高いので、割とこの手の「ミュージカルを映画化しました映画」が苦手な人でもまったく問題なく楽しめる映画だと思います。
134分とそこそこ長めではありつつも全然長さも感じないし、不必要な話はサクッと切って大事なところをしっかり見せ、テンポよく嫌味なく組み立てる全体の構成力、これはもうさすがクリント・イーストウッドとしか言いようがありません。「イーストウッドがミュージカル映画?」ってな懸念もまったく心配ないでしょう。
盛り上げどころもしっかり掴んでいるし、登場人物にカメラ目線でストーリーを語らせる手法も効果抜群、「どこがスゴイ」とは言いにくいんですが、全体を通して見ればやっぱり監督としての力量に唸らざるをえない、まったく文句のない作りでした。
「ジャージー・ボーイズ」というのは、フォーシーズンズのメンバーがニュージャージー州出身である、というところから来ているようですが、時代は1950年代、劇中のセリフにある通り、「街を出るにはギャングになるか、軍隊に入るか、有名になる」しかないというなんとも荒削りな時代。
実際彼らも逮捕歴どころか実刑を受けて収監された経験もあって、「今なら世に出られないだろうなぁ」と思いつつ観ていました。
この時代だからこその大らかさと人間関係の濃密さが後々彼らの仕事にも影響を与えていくわけですが、その辺りの舞台背景や上り詰めていく時代の描き方もうまく、雰囲気だけでその時代に思いを馳せさせる辺りがまたさすが。
やっぱりこの時代の「アメリカンドリーム」には勢いがあるし、物語として楽しませてくれるものがあります。あのジョー・ペシが結成に関わっていた、とか映画ファン的にも予想外に楽しめる話が含まれていたり、なかなか「フォーシーズンズなんて知らねーよ」で済ませちゃうともったいないほどの良い映画だと思います。
そして何より、アノ名曲。
作成過程は若干脚色されてもいるんでしょうが、「そういう経緯でこの曲が…」と思わず目頭も熱くなりましたね。曲名はあえて書きませんが、日本人含めてものすごい数のアーティストにカバーされているアノ曲、この人の歌だったのかー、とこれまた驚きました。元は女性が歌っている曲だと勝手に思っていたんですが。多分そういうカバーばっかり聞いていた記憶が強いんでしょう。
そんなに長く描かれるわけではないですが、この曲の作成過程、そしてお披露目のシーンは非常に素晴らしいので、ぜひ観ていただいて「ああ! この曲か~!」と思っていただきたいな、と思います。多分、これも誰でも知っている曲なので。
やっぱり「歌が良い映画は良い」っていうのは今回も間違いないな、と。残酷なシーンも強烈なエロスも無い、誰でも観やすい映画なので、「フォーシーズンズ」そのものに興味がなくても(僕もそうです)ぜひ観て欲しいなと思います。
オススメだ!
このシーンがイイ!
アノ名曲のシーンもいいですが、ホーンがちょっとだけ気に入らなかった。(細かい)
映画的には“半券”を使うシーンでしょうか。それとベタですが、キャスト総出で踊るいかにもミュージカルらしいエンディングがやっぱり好きだなぁ。
ココが○
歌の良さも去ることながら、やっぱり「映画として」抜群に観やすい、作りがウマイというのが素晴らしい。「曲はいいけど映画としては×」っていうのはやっぱりちょっと悲しいので。「RENT/レント」とかそうでしたが。
ココが×
フランキー・ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤング、歌も素晴らしいし演技も良かったんですが、どうも見た目が気に入らないという個人的なひどい文句。
それはさておき、映画としては特にココがダメっていうのは無いと思います。
MVA
本当はジョン・ロイド・ヤングなんでしょうが、そんなわけであんまり見た目が好きになれなかったので除外。贔屓で言えば断然クリストファー・ウォーケンなんですが、純粋に選ぶならこの人かな。
ヴィンセント・ピアッツァ(トミー・デヴィート役)
バンドのリーダーかつ一番の問題児。気に入らない感じ、すごくうまかったと思います。
でもやっぱりクリストファー・ウォーケンもたまらんですね。もう出てくるだけでたまりません。優しい理解のあるギャングのボス。
そんな役を彼がやっている、っていうだけでこの映画の題材そのものに興味がなかったとしても、映画ファン的には必見でしょう。