映画レビュー0704 『メルシィ!人生』
今回もNetflix配信終了間近シリーズ。
監督・脚本は前回と同じ、フランシス・ヴェベール。きっとこの人の映画が契約切れとかだったんでしょうね。
メルシィ!人生
フランスオールスター軍団によるちょっと大人なヒューマンコメディ。
ということで「奇人たちの晩餐会」と同じ監督・脚本のコメディ映画…ですが、あちらほどコメディ色は強くなく、ジャンル的にはヒューマンコメディと言った方がしっくりきそう。いわゆる「普通の社会人を主人公にしたヒューマンコメディ」という…僕の大好物なタイプの映画なんですが、その期待通りのとても見やすくステキな良い映画でしたね。
主人公はコンドームが売上の中心というゴム加工会社で経理を勤めるフランソワ・ピニョン。そう、「奇人たちの晩餐会」のおバカさんとまったく同じ名前なんですよね。当然ながらキャラも見た目もまったく違う人物なんですが、どうやらこの監督さんはこの名前にこだわっているようで、星新一におけるF氏みたいなものでしょうか。
さらに「奇人たちの晩餐会」のピエール役を演じていたティエリー・レルミットが人事部長にいたずらを仕掛ける舞台回し的な役割を担う同僚として出演していたり、その友人として「奇人たちの晩餐会」でもピエールの友人だったエドガー・ジヴリーが出ていたり、ピニョンの奥さん役の人も「奇人たちの晩餐会」にも出ていたり。それ以外にもキャスティングはいろいろと言いたいことがあるんですがそれは後にするとして、まずは概要。
その主人公のピニョンですが、よくいる「真面目だけのつまらない中年男」でいわゆる辛気臭い雰囲気、って言うんでしょうか。それだけにリストラ候補として挙がりやすいんでしょう、仕事はできるっぽいにも関わらず、「クビを切ることに最も抵抗がないタイプの人材」的な感じでクビが決定します。
トイレでしれっと人事部長がその話をしていたところ、いわゆる大の方にいたピニョンがその話を聞いてしまい、「妻も逃げたし息子には無視されるし会社もクビ…もう死ぬしか無い」と自殺を決意、ベランダから飛び降りようとしますが、そこにたまたま隣に居合わせた引っ越し直後の隣人爺さんが「俺の車が凹むからやめてくれ」と彼を止めます。さらにそこでピニョンが拾った子猫を返せ、と強引に部屋にやってきた爺さんは、「とりあえずなんか話せ、酒でも飲もう」と自室に連れ込み、彼の話を聞くことで自殺を思いとどめさせ、そしてピニョンに授けた策が、「ゲイだとカミングアウトすればクビは撤回される」というもの。
隣人爺さんはピニョンから結婚式の写真を数枚借り、それをゲイの写真と合成(いわゆるアイコラ的なやつ)することでピニョンがゲイである証拠を作成、それをピニョンの会社に送りつけてゲイという噂を広めさせることで会社に彼のクビを思いとどまらせるんですが、その「公然の秘密」であるピニョンのゲイ説のおかげで、周りの人たちのピニョンに対する接し方が変わり、またそのことでピニョン自身も変わっていく、というお話です。
その主人公である「ゲイではないもののゲイ説を流すことでクビを免れる真面目人間」を演じるのはダニエル・オートゥイユ。フランス映画と言えばこの人、的な。久しぶりに観ました。「やがて復讐という名の雨」以来かなー。
で、差別主義者であるが故に同僚(ティエリー・レルミット)にいたずらで「差別がひどすぎてあんたがクビになるらしいぞ」と脅され、渋々ピニョンと仲良くなろうとする人事部長を演じるのが、ご存知世紀の鷲鼻ジェラール・ドパルデュー。いや鷲鼻なのか? これ。(何度も自分で言っといて)
この二人の共演を観るのは「あるいは裏切りという名の犬」以来ですが、あれよりもこの映画の方が先に作られています。
んで、ですね、その彼らの勤めるゴム加工会社の社長、これがなんとジャン・ロシュフォール。例の爺さんですよ。僕の知る狭い範囲での「フランス映画オールスター」って感じのキャスティングでですね。もうスタートからめっちゃワクワクしました。オープニングが記念写真のシーンなんですが、爺映った途端に「ジャン・ロシュフォールじゃね!?」って興奮しましたからね。
ダニエル・オートゥイユにジェラール・ドパルデューにジャン・ロシュフォール、なんて贅沢なんだと。正月のBIG3ゴルフ的な。古いよ、っていう。なお、この映画を観た後のことですが、最近ジャン・ロシュフォールは他界してしまいました。残念です…。
話を戻しますが、まあそんな感じでキャスティングの時点で楽しみ感ハンパ無かったこの映画、内容もしっかりヨーロッパ映画らしいヒューマンコメディ感たっぷりの、軽快でややコメディタッチに真面目に頑張る人を応援するような内容で、とてもほっこりしました。
ニセのゲイとしてカミングアウト→クビ中止→周りが好奇の目で見始めて良くも悪くも注目が集まる→都度隣人爺さんに相談→人事部長がおかしくなってくる→上司の経理部長もちょっと怪しい…と、風が吹けば桶屋が儲かる的な広がりで飽きさせません。
このね、隣人の爺さんがすごく良いんですよ。ピニョンの良き隣人であり、良き友人でありという。良き隣人の出て来る映画に外れなし、とはかの「たまがわ」でyukitamarさんが言っていたとか言っていないとかですが、まさにその至言の通り、「ヨーロッパのヒューマンコメディが好き」であればまず外れない映画だと思います。
「(ウソで)ゲイをカミングアウトしてクビを免れる」というスタートは少し突飛でいかにもコメディっぽい話ではありますが、そこからの流れは本当にありそうで真っ当なのが良いですよね。この頃よりもより差別に厳しくなってきた今から見ればなおさら。
一部、人事部長の変化っぷりとか、パレードに被る帽子のデザインとか「ウソだろwwwww」的な感じでコメディ色が強めに出た場面はありましたが、そのコメディ色が良いスパイスにもなっていたし、総じて無理のない良いお話に仕上がっていると思います。
ただ普通に仕事をしているオフィスの真横でコンドーム生産、って奇抜すぎるでしょ。このオフィス。
クビを免れたピニョンのその後に、別れた妻と息子の絡み、そして同僚たちとの関係性の変化…といろいろと見所も多いながら、これまた短めにサクッと終わる潔さもイイ。
「奇人たちの晩餐会」と合わせて観ても3時間無いという現代人に優しい監督さんですね。両方合わせてオススメです。
このシーンがイイ!
終盤のフランソワとベルトラン(女上司)のやり取りがすごく「フランスだなー!」って感じでね。良かったですね。大人のセリフだな、っていう。ちょっとハッとさせられました。
ココが○
上に書いた以外で触れておきたいのが、猫ですよ。ネコ。ニャーン。もうね、出て来るニャーンが超かわいいの!!ちっこくて目がクリっとしてて。今まで観た中で一番かもしれない。猫好き必見。
ココが×
上にもちらっと書いた通り、人事部長の鷲鼻の変化がちょーっとコメディ色強すぎるかな、っていう点ぐらいでしょうか。あとこの会社すぐクビにしすぎ。良い人そうで悪いやつだな、ジャン・ロシュフォール。
MVA
ということで並み居るフランスを代表する名優たちも見もののこちらの映画ですが、僕は最初の登場からこの人が気になって仕方ありませんでした。
ミシェル・ラロック(メユ・ベルトラン)
ピニョンの女上司。
最初っからすごい気になってしょうがなかったんですよね。品があってかわいらしくてエロスも感じる女性で。おっぱいもでかいし、っていう。こんな上司いたらそれだけで最高じゃねーかよ、ってずっと思いながら観てました。
もっと出てこないかなーと期待しながら観ていたら物語は意外な方向へ…。ぜひこの辺も観て頂きたいところ。この人の雰囲気なんなんだろうなー。なーんかアメリカ人女優とは違う感じなんだよなー。
当時年齢にして40ちょっとだったみたいですが…たまりませんでしたね。いろんな意味で。たまりません。(意味深)