映画レビュー1332 『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』
そろそろJAIHOの一旦休止を目論んでいるため、気になる常時配信作品を貪っていこうと決めました。
ということでこちらも常時配信作品なんですが、調べたらアマプラにもあってガッカリ。
あの超個人的スマッシュヒットとなった「タバコは咳の原因になる」の監督作品なので楽しみに観ましたよ。
マンディブル 2人の男と巨大なハエ
カンタン・デュピュー
グレゴワール・ルディッグ
ダヴィ・マルセ
アデル・エグザルホプロス
インディア・エール
ロメオ・エルビス・ヴァン・ラーケン
メトロノミー
2021年5月19日 フランス
77分
フランス・ベルギー
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
トロでしかない。
- 盗んだボロ車のトランクには巨大なハエが
- ハエを調教すれば楽に稼げるぞと訓練開始
- しかしそもそも行き詰まってるだけになかなかうまく行かず…
- トロ
あらすじ
ネットではこれまた賛否両論、ドゆるいコメディのくせにこの監督の作品は人を選びそうだなと思いますが、僕はやっぱり好きでしたね。たまりませんでした。
家も無く、なぜか海岸で布団にくるまれて寝る男、マヌ(グレゴワール・ルディッグ)。
彼のもとに一人の知り合いらしき男がやってきて、「ある荷物を受け取って、ある男へ運ぶだけの仕事で金をやる」と仕事を振られます。当然「中身は詮索するな」との条件付き。
見るからに困窮しているマヌは仕事を引き受けますが運ぶための車も無いため、その辺に駐車してあった車の中から鍵のかかっていない超オンボロベンツに乗り込みます。
映画でもよく見るようにコードを引き抜いてエンジンをかけよう…と思ったらすでにコードが丸出しのこの車、怪しさ満点ですが気にせず盗んだマヌは、途中親友のジャン・ギャブ(ダヴィ・マルセ)の元へ立ち寄り、「楽に稼げる仕事があるから一緒にやらないか」と誘います。
ただ“運ぶだけ”の超ラクな仕事(危険度は不明)にも関わらず、特に裏もなく誘って報酬を山分けしよう、ってことはよっぽど仲が良いんでしょうね。
そんな親友の2人が盗んだベンツで移動中、どうも変な音がする…音の元はトランクっぽいぞ、ということでトランクを確認するとそこにはクソでかいハエが。
困惑する2人ですが、ジャン・ギャブが言うんですよ。
「運んで金をもらうだけより、ハエが銀行から金を持ってくるように調教すればとんでもない大金持ちになれるぞ」
「そうか」
そうかじゃねえ。
この時点で突っ込みどころ満載なんですが、とにかくその方向で進めることにした2人。しかしなけなしのお金はジャン・ギャブがハエの餌で使い切ってしまい、本人たちは食べ物はおろか飲み物にもありつけません。
これはまずい…ということで近くの空き地に停車していたキャンピングカーを強奪、仮宿にして食事も作って…とやっていたら今度はマヌが調理中に火災を起こしてキャンピングカー生活は速攻終了です。
惨憺たる結果に不安しか無い観客は「絶対普通に荷物運んでお金もらうだけにしといた方がよかったでしょ」と思うわけですが、まったくへこたれない2人はこのあともいろいろ問題を起こしつつそんなことよりハエの調教うまくいくんかいな、ってことでね。言うてますけども。
バカがバカを引き込んでバカをやる
ジャンルとしては一応ファンタジーコメディになるんでしょうか。親友同士の2人が「巨大ハエで一攫千金」を狙う話なんですが、まあとにかくバカなのでまともに話が進みません。それでもなんとなくなっちゃう辺りがコメディでもあり、また厚顔っぷりを発揮するバカの強みみたいなところもあります。
この手の話の主人公であれば、いくらバカでも大体は「愛すべきバカ」なのが定石ですが、この2人はもちろんそういう「愛すべき」部分はありつつも、「愛せないバカ」の側面も結構持ち合わせていて、特にマヌの清潔感の無さと非常識さはなかなか珍しいキャラクターのような気もします。観客が絶妙に好きになれない痛さがある感じで。
まあ海岸で布団にくるまって寝てるような人ですからね。世間一般の常識で測ること自体に無理があるタイプの人なのは疑いようがありませんが、しかしあらすじにも書いたように損得を考えれば誘う意味のないジャン・ギャブを誘って金を稼ごうとする辺り、良くも悪くも子どもっぽい純粋な人のような印象も受けました。
一方ジャン・ギャブの方はもう少し、本当に少しだけマヌよりも常識的というか、若干の社会的視点も持ち合わせた人物に見えます。見えますが、しかし「ハエを調教して大金持ち」と言い出すのも彼なわけで、結局はどっちもどっちのバカ2人でしかないよね、という。
当然「ハエの調教」なんてなんの根拠もないし無理ゲー感すごいんですが、なぜか自信満々に(まるで一般的なメニューがあるかのように)調教タイムを設けるジャン・ギャブの姿もまたマヌとは違った意味で痛く、笑えます。
短い映画なので展開も早いんですが、後半はマヌをかつてのボーイフレンドと勘違いした女性・セシルのおかげで一時の滞在先を得た2人のどうしようもない姿が中心。
ここでセシルの友人として登場するのがアグネスという障害を持った女性なんですが、彼女を演じるのが「アデル、ブルーは熱い色」でレア・セドゥの相手役を熱演したアデル・エグザルホプロスという衝撃の展開。なんでこんな映画出てんだよ、っていう。
思えば「タバコは咳の原因になる」もフランス映画の錚々たるメンバーが出ていただけに、カンタン・デュピュー監督は妙な人徳があるのかもしれません。それかめっちゃお金持ってるとか。(バカに影響を受けたバカの発想)
このアグネスは物語のキーマンとも言える存在なんですが、しかしそもそもキーマンなんて言葉が相応しいのかも不明なぐらいしょうもない話でもあるので、まああんまり考えないでダラダラ観ればいいじゃない、と元も子もないことを言うわけです。
結局トロ
あんまりアレコレ説明するような話でもないので、あとはもう観てくださいってやつですよ。
ただ最初に書いたようにネットで見る限りは賛否両論なので、こういうコメディは好きな人は好きだけどダメな人は全然ピンとこないのかもしれません。
上に書いた通り、主人公2人が絶妙に“痛い”分、嫌いになっちゃって笑えない、みたいなのも結構ありそう。
その上それなりにリアルな造形の巨大なハエが中心の話でもあるだけに、生理的に無理な人もいるでしょう。正直マヌもちょっと汚らしいし。
それでも笑っちゃうのは主人公2人の仲の良さ故、なのか…。
最初に合流したシーンで「トロ」と言いながら2人で手をタッチするんですが、この「トロ」が意味わからないんだけどしょっちゅうやるんですよ。
なにかあったら「トロ」。「ラッキートロ」とか「ごまかしトロ」とかも出てきます。
最初は「?」なんですが、もうしょっちゅう出てくるもんだから段々面白くなってきちゃって、そのうちトロ待ちになってくるんですよね。次は何トロが出てくるかな、みたいな。
結局最終的に80分弱の時間で残ったのは「トロ」だな、トロでしかないな、という結論で鑑賞を終えました。
これ観た人とはぜひ一緒にやりたい。トロ。
このシーンがイイ!
「ひとりトロ」が一番笑いました。もうなんでもいいんじゃん。
ココが○
本当にゆるくて頭使わないコメディなんですが、それでも絶妙に居心地が悪かったりするのでちょっと笑いとは別の部分を刺激してくれるような気がしてそこが好きですね。
これがエスプリってやつなのか…?(違うと思う)
あと開幕の仕事の話もきっちり見せてくれたのも良かった。そこもくだらなすぎて。
ココが×
当然ですが虫がダメな人は注意が必要です。ただなんか所作がかわいく見えてくるのが不思議なんですけどね。
MVA
みなさん妙にリアルで良かったんですが、順当にこの人ですかね。
グレゴワール・ルディッグ(マヌ役)
主人公のロン毛。
絶妙にいそうなんですよね。さすがに海岸で寝ないとは思うけど。
すごくリアルで、当然ですが「バカでーす」って演技じゃないのが素晴らしい。でも本当にバカっぽいのがすごい。
他の映画だと全然違うんでしょうね。観てみたい。