映画レビュー1391 『Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼』
今回はアマプラの配信終了近い映画からチョイス。なんかやたらレコメンドされていたのでそこまで言うなら、と観ることにしたんですが、ただアマプラのレコメンドはウォチパのせいでクソ映画ばっかりなのも見逃せない事実です。
Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼
ブルース・A・エヴァンス
レイノルド・ギデオン
ケビン・コスナー
デミ・ムーア
デイン・クック
ウィリアム・ハート
マーグ・ヘルゲンバーガー
ダニエル・パナベイカー
ルーベン・サンティアゴ=ハドソン
2007年6月1日 アメリカ
120分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)
良演出の二重人格シリアルキラーもの。
- 足を洗いたいと思いつつも別人格の自分にそそのかされて殺人を繰り返してしまう男
- ある日その現場が撮影されてしまい、その写真をネタにとある依頼を持ちかけられる
- 別人格を別俳優が演じることで二重人格を理解させる演出が◎
- 殺人のカジュアルさが少し引っかかる
あらすじ
サスペンスとしてはなかなか他に観ないタイプでもあって面白かったんですが、少し引っかかるところもあって小うるさい爺になりそうな映画でもありました。
いい感じの表彰(アバウト)を受けたりして経済界ではそこそこ名が知られている実業家のアール・ブルックス(ケビン・コスナー)。
彼は表向きは家族を愛する企業経営者ですが、実は連続殺人鬼という裏の顔も持っており、世間を震撼させた彼の連続殺人もいまだ世間的には犯人が知られていないという状況です。
彼は断酒会的な会合に出席して自己の殺人願望を抑圧し、2年ほど耐えていたんですがついにもう一人の自分である“マーシャル”(ウィリアム・ハート)の甘い誘惑に負け、とあるカップルを殺害。その快感に酔いしれます。
しかしどうせバレへんやろと余裕ぶっこいて犯行に及び、開いていたカーテンを閉めようとした際に現場を撮影されてしまい、後日彼の経営する会社に「ミスター・スミス」と名乗る男(デイン・クック)がやってきてその写真をネタに「俺の前でもう一度殺人を見せてくれ」と脅迫まがいの依頼をされることに。
やむなくその依頼を受けたブルックスは、ミスター・スミスに殺人のレクチャーを施しつつターゲットをともに探し、やがて決行しようとしますが…あとはご覧ください。
カジュアルすぎるのが良いのか悪いのか問題
二重人格の連続殺人犯のお話。表向きは善人、裏の顔は殺人鬼…とよくあるパターンですが、この映画の面白いところは「殺人を望むのは別人格で、かつ別俳優が演じている」というところ。つまりケビン・コスナーはずっといい人っぽいんですよね。
本人はもうやりたくないと願っているのに奥底に潜む願望が二重人格という形で常に自分につきまとい、彼と会話を交わしていくことで結局欲望に負けてしまう…という。また別人格を演じるのがウィリアム・ハートっていうのがね。渋くていいですね。
そんな彼が犯してしまった唯一のヘマによって“殺人を犯さざるを得ない”状況になり、でも完璧な殺人犯だし余裕じゃね? と思っていたらデミ・ムーア演じる刑事の捜査の手が伸び始めていて…的なお話になっております。
このデミ・ムーア、正直あんまり必要ないキャラじゃないの? と思いつつ観ていましたが、最後まで観るとなるほど必要だったかもしれない、というなかなかいい塩梅のキャラで、全体的によくまとまった娯楽サスペンスの良作だと思います。
ただ、どうしてもちょっと「殺人がカジュアルすぎる」ところが気になっちゃったんですよね。
もっとサクサク殺すような映画はいっぱいある(キングスマンとか)のでこれだけ特段悪いってわけでもないと思うんですが、ただあまりにもケビン・コスナー演じるブルックスが完璧に、楽に、簡単に殺人をこなしていってしまい、なんならちょっと渋くてかっこいいぐらいの雰囲気を漂わせているのでちょっと悪影響がありそうだなと心配になるような面があって。
そんなこと言い始めたら映画もゲームもなんも作れないよと思いつつ、でもなーんかこの映画の殺人表現だけはちょっと引っかかったんですよね。
おそらくケビン・コスナーが見事に演じすぎていたんだろうと思います。かっこよく。あとは映画の雰囲気自体も妙なおしゃれさがあるし。
本人はやりたくない、離れたがっているという人間臭さも逆にカッコよさにつながっている感じがして、嫌なんだけどやるときは完璧で証拠を残さない(写真撮られてるけど)、みたいなキャラクターがちょっと憧れを抱かせそうな危険な人物像に見えてしまい、これは受け取る人によっては危なそうだなという気がふと湧いてきてしまいました。
あまり詳細は書きませんが、物語の進行上の選択肢として“安易に”殺人を犯している部分もあり、しかもそれが映像として描写されず、ごく当たり前のようにこなして例によって彼は疑われない形になっているので、「殺人簡単じゃね?」みたいな雰囲気がすごくあるんですよね。この映画。
キングスマンぐらい行っちゃえばファンタジーだし創作として楽しめるんですが、リアルに根ざした物語の上で簡単に見えるような作りっていうのはちょっと危険だよなぁと今回珍しく感じたので、お気持ち表明しておくぞといったところです。
もちろん現実はそんな簡単な話ではないし創作として楽しめないようではダメだとは思いますが、それはそれとしてちょっと綺麗に描きすぎじゃない? と表現的な意味で少々引っかかったんですよね。
創作とは言え、殺しには後悔があってほしいというか。内面的な苦悩はあっても被害者に対する罪の意識がまったく感じられない主人公だったので、それもあって余計に引っかかったのかもしれません。
面白いのは面白いよ
とは言え映画自体は順当に面白いので、こういう映画が好きな人は観てみると良いんじゃないかなとは思いますが。
ケビン・コスナーにせよデミ・ムーアにせよ、おそらくちょっと低迷期と言えるような時期の映画のような気がするんですが、どちらも良い役でしっかり見応えがあったのも面白いところ。
一見本筋と関係なさそうな話が最終的にきちんとつながってくる気持ちよさもあるし、意外と埋もれた(?)良作と言えるのではないでしょうか。
このシーンがイイ!
終盤の墓場のシーンかなぁ。そうだろうなとは思ったけどなんかゾクゾクするようなある種の怖さがありました。
ココが○
単純なようで割としっかり伏線回収もあり、過不足なくよくできたお話だと思います。
ココが×
上記の通り、殺人のカジュアルさ。殺人鬼の自分に悩むのであればもうちょっと被害者に対する悩みがあった方がバランス取れそうな気がしましたね。別人格のように殺した相手も出てくる、とかで。
MVA
娘ちゃんがなかなかかわいくて良かったんですが、今回もまあ順当にこの人でしょうか。
ケビン・コスナー(アール・ブルックス役)
主人公の実業家兼殺人鬼。
非常に役にあった雰囲気を持っているというか、紳士で家庭的な父親でありつつ完璧な殺人鬼の雰囲気がお上手でした。文句無しのキャスティング。