映画レビュー1454 『ナポレオン』

Twitch有料にくっついてきたAppleTV+の無料期間も終了ということで、最後に一応とこちらの映画を観ることにしました。
ちなみにディレクターズカット版です。ガイナー。

ナポレオン

Napoleon
監督
脚本

デヴィッド・スカルパ
リドリー・スコット

出演
音楽

マーティン・フィップス

公開

2023年11月22日 アメリカ

上映時間

158分
205分(ディレクターズ・カット版)

製作国

アメリカ・イギリス

視聴環境

AppleTV+(Fire TV Stick・TV)

ナポレオン

史実はひとまず置いといて、娯楽としては面白い。

8.0
妻との関係を中心に描く、「ナポレオン」の半生
  • 一将校だったナポレオンが取り立てられるところからその死までを描く
  • 妻のジョゼフィーヌとの関係を中心に、人間らしいナポレオン像
  • 歴史的出来事を一通りおさらいできるものの描写は眉唾な点も多い(らしい)
  • ホアキンはさすがだけど…

あらすじ

公開直後に結構ケチがついていたのを知っていたのであまり期待せずに観たんですが、それが逆に良かったのかそれなりに楽しめました。

フランス革命直後の不安定な国内情勢の中、トゥーロン攻囲戦で頭角を現し砲兵司令官となったナポレオンは、その後軍司令官ポール・バラス(タハール・ラヒム)の副官として登用され、様々な戦果を上げて昇進を続けます。
同時期にバラスの愛人であったジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)と結婚、彼女に熱を上げつつ順調に出世し続け、ついに英雄として頭領になったナポレオンですが、その後もいろいろありましてね…!

極私的ナポレオン

かなりいい加減なあらすじですが、まあなんとも説明が難しいというか…当然大枠は史実通りなのでそのままおさらいしたところでね、ってところで適当にお茶を濁しております。
ちなみにオープニングはフランス革命の象徴的なシーンとしてかのマリー・アントワネットの処刑をナポレオンが見ているところから始まるんですが、実際はその場にいなかったとか。
そんな感じでいろいろと史実と違う場面が散見される映画なのでそこについて批判が多いようなんですが、しかしそれこそマリー・アントワネットなんて「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」でお馴染みですが実際に彼女が言った言葉ではないらしいのにその印象が強く残ってしまっていたりもするわけで、まあ事実なのか創作なのかをあんまり厳密に求めるのも酷な気はしますね。時が経ってから「あれ違ったよ」ってことも歴史には多いし。
とは言えそれを踏まえた上でもちょっと“脚色”がすぎるんじゃない? と見なされている映画のようなので、あまりこれで「ナポレオンはこういう人だったのかー」とか「こういう人生を歩んだのかー」とかわかったつもりになるのは危険でしょう。
それでも僕としてはほぼ詳細を知らない人だったので、ある程度大枠でも理解できたのは結構学びがあったというか、ちょっとだけ知識が広がったような気はしてます。腐ったみかんの腐った部分だけ取り除いて食べて美味しかったよ、みたいな。わかりにくい例えですね。
まあでも映画的には史実に忠実かどうかよりもマリー・アントワネット処刑の時点ですでに立派なおっさんであるホアキン・フェニックスがそのまま出てきてる方がどうなの、ってそっちの方が気になっちゃいましたよ。めっちゃ貫禄あるじゃん、って。
一方で「このシーンいいねぇ」と思ったシーンも実際は違うよ、とかも結構あるので、評価が難しい映画ですね。やっぱりね。
思うにこれはリドスコのキャラクターというか、割と歯に衣着せぬ物言いで簡単に言えば偉そうなイメージなだけに「言うて自分の映画には(史実に対して疎かで)甘いじゃん」みたいな反発を買っているような気がしないでもないです。なにせ大御所ですからね。和田アキ子に対する反発みたいな感じ。(小さい例え)
なのでまあ一応歴史的な面では眉唾で観てあまり参考にせず、娯楽として楽しめるかどうか…って感じで観たら長い割に飽きなかったし割と面白かったよ、という感想。

そんなわけで面白くはあったんですが…僕としては史実に忠実か否かよりもナポレオンの人生の中で「描かない」と決めた、選択しなかった面が気になりました。
この映画は「ナポレオンの人生」を描いてはいるものの、内容的にはかなり個人にフォーカスして「ナポレオンとジョゼフィーヌの愛憎劇」的なニュアンスが強い近視眼的な映画なので、もっと広い意味でのナポレオンの功罪についてほとんど触れていないんですよね。
ジョゼフィーヌ(と母)以外のほとんどの女性が丸っと出てこないのもそうだし、政治的な功績についてもそうだし。彼が定めた様々なルール(法や政治軍事のいろいろ)は後世にも結構大きな影響を与えているんですが、その辺まったく触れられていません。
特に他の女性について削られている点から察するに、リドスコ含む脚本家は「ナポレオンは終生ジョゼフィーヌを思っていた=歴史に名を残す偉大な人物も近付いてみれば普通の人間」みたいな等身大感を強く打ち出したかったんでしょう。
見ようによっては「ナポレオンの半生を描いた歴史映画」よりも「ナポレオンとジョゼフィーヌの恋愛映画」の方が近いとも言える内容で、でもナポレオンである以上歴史に触れずにはいられないのでちょっと歴史をかじったらかじり方が半端で怒られた、みたいな映画に見えなくもないという。
今さらナポレオンを正面から描いてもしょうがないでしょ感もわからなくもないし、ちょっと変化球的にジョゼフィーヌとの関係を中央に据えて作った、ということなんでしょうが、そうするには結構無理がある(他の女性が出てこないのもその一因)ために史実に沿っていない点と合わせて反感を買ったのではないでしょうか。本当のところはわかりませんが…。
なのでやっぱりどこまで行っても「娯楽として」観て面白かったねつまらなかったね、という評価で済ませる“しかない”映画なんでしょうね。歴史を捉える目線には耐えられないというか。
そういう意味では同じ歴史上の人物を扱った「オッペンハイマー」とは違う、やや軟派な映画と言えるかもしれません。

ナポレオンの恋愛映画

そんなような映画ですよ、ってことで終わってもいいんですが、ただ上記諸々を考慮すると上映時間3時間半近いのはさすがに長すぎやしないかとも思うんですよ。観ていてそんなに長いと感じないぐらいには楽しめはしたんですが、一方で内容に対して上映時間が長すぎるんじゃないかなとも思うんですよ。これは両立します。
これでもっと(ジョゼフィーヌとの云々もありつつ)ナポレオンの全体像が伺える内容であればまあ長くてもしょうがないよねと思うんですが、長い割に視点が狭いのでなんでここまで長くする必要があるのか少々疑問にも感じました。
通常版は観ていないのでディレクターズカット版で何が追加されているのかはわからないんですが、なんとなくジョゼフィーヌとの関係についてのシーンが増えただけのような気がします。知らないけど絶対そう。
実際のところはわかりませんが、ディレクターズカット版を観てそう感じただけにやっぱりどこまで行っても「ナポレオンの恋愛映画」なんでしょう。きっと。
だったらナポレオン、おヒューにやらせろよと思う自分もいますが笑っちゃいそうなのでそこまでは求めません。ありがとうございました。

このシーンがイイ!

有名なアウステルリッツの戦い(氷上で戦うシーン)は、ナポレオンの軍人としての才能を見せつける素晴らしいシーンだったと思いますがここもまた史実との違いが結構突っ込まれているポイントのようで痛し痒し。
なので除外すると一番印象的だったのはジョゼフィーヌに“従わせられる”シーンかなと。
直前に逆のことを言っていただけに、そこで本当の主従関係が明らかになる感じが印象的でした。

ココが○

割と“否”に近いレビューになってしまいましたが、大前提として面白かったのであまりいろいろ考えずに観るといいと思います。
やっぱりリドスコらしくこの頃のヨーロッパのビジュアルはお見事でした。

ココが×

上にいろいろ書いた通りですが、結局突き詰めると「長すぎない?」ってところじゃないかなと思うんですよね。
これだけジョゼフィーヌとの話に寄っていても2時間だったらまだ「そういうテーマ」で許容できたと思うんですが、3時間半近く使ってコレではちょっと時間配分下手な気がしてしまうというか。

MVA

結局どっちよ、だと思うのでこちらの方に。

ホアキン・フェニックス(ナポレオン・ボナパルト役)

主人公。登場時はおそらく二十歳そこそことかのはずですが最初から最後までおっさんです。なので最初から偉そうに見えてしまう。
とは言えさすがにホアキン・フェニックス、お上手でした。
なんとなく「本当にこんな感じの人だったっぽいよな〜」と思わせる説得力がありますね。勝手な印象ですけど。
最初配役を聞いたときは結構意外に感じたんですが、今となっては逆にナポレオンのイメージを固定化するぐらい“それっぽい”雰囲気に感じられ、さすがでした。

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