映画レビュー0153 『セルピコ』
例の「TSUTAYA DISCAS一生届かないシリーズ」かと思いきや、意外や意外届きました。こんなこともあるのね。
セルピコ
静かで熱い、正義の物語。
警察&アル・パチーノということで、ハードで強烈な戦いの映画かと思ってましたが、割と静かで淡々とした、リアルな描写が印象的な映画でした。この辺は実話ベースであるという点と、社会派の名監督、シドニー・ルメットの映画というせいもあるんでしょうね。
さすがに実話ベースだけあって、ある意味では無理がないし、ある意味では派手さが無い。「すげぇな! やっぱり正義だな!」なんて高揚する気分にはなれません。
僕はむしろ、やっぱり人間社会にはどうしても利害関係があって、そこに組織ができあがってくると腐敗は避けられないよな、と気が滅入るというか、当たり前のことを「当たり前だよ」と改めて言われて落胆したような感じというか…。
とは言え僕もいい大人なので、さすがに清廉潔癖であれ! なんて声高に言うつもりはないんですが、この前観た「クラッシュ」にも出てきたような、“警察”という権力を持つ組織(とか内部の人)が腐敗することの絶望感というのは何とも言えないものがあって、じゃあ善良な一般市民は何を頼りに生きていけばいいんだよ、みたいな無常感を感じますねぇ…。
その中で一人奮闘するセルピコが主人公なわけですが、彼に同調する人間が非常に少ないのも切ない。「人間社会なんて希望も無いぜ」と出家しちゃう人の気持ちがわかります。
それでも「死にたくない」から地道に進んで行くセルピコの姿は、暑苦しい正義感も無く、等身大のヒーローと言った感じですごく自然で、そこに救いというか、希望のようなものを見出せる良い映画だなと思います。
おさらいになりますが、きっちりとした社会派映画で派手さは無く、劇的な展開もありません。アクションがすごいわけでもありません。が、例えば異動で「ここならもしや…」と期待させるような起伏の作り方だったり、新たな協力者の出現に対する期待感だったり、圧倒的に事件現場より警察内部の描写が長いにもかかわらず、飽きない映画になっているのはさすがシドニー・ルメット。
なんとなく、今の時代の実話系社会派映画の原点のような匂いを感じる名作感もあるので、社会派が好きな方はぜひ観てみて欲しいなと思います。
このシーンがイイ!
かなり序盤ですが、消火栓(?)で遊んでる黒人の子供たちに笑顔を向けるセルピコのシーン。若かりし頃のアル・パチーノの人なつっこい笑顔が素敵です。
ココが○
実話ベースだけに、虚飾の匂いを感じさせずに飽きない作り、というのはすごく大事です。その点で、この映画はすごくよくできてると思います。
ココが×
まあ、やっぱり地味だよね、というのは避けられないかな、と。でも実話ベースの社会派映画なんてこんなもんです。
MVA
まあ、これはもう…。
アル・パチーノ(フランク・セルピコ役)
演技的には特に目立ってどうこう、ってないんですが、やっぱり惹き付ける存在感があるなーと思います。
アクの強い役柄ではないのに「やっぱアル・パチーノだよな」と思わせる良さはさすが。地味な映画だけに、逆にアル・パチーノで無ければここまでしっかり観られたかな…という気もします。そう言う意味で、映画の地味さを彼のオーラがうまくカバーしてる感じで、すごく相性のいいキャスティングだったんじゃないかなと思います。