映画レビュー0624 『ボーダーライン』

レンタル3本目。これもネットで記事を見て気になっていたので借りた1本。最近自分の映画情報の入手手段が限られてきている気がしてちょっと気になる。

ボーダーライン

Sicario
監督
脚本
テイラー・シェリダン
音楽
公開
2015年9月18日 アメリカ
上映時間
121分
製作国
アメリカ

ボーダーライン

国防総省のマットは、誘拐事件のFBI現場捜査官として優秀なキャリアを持つケイトを自らのチームにスカウトし、メキシコの“麻薬王”マニュエル・ディアスとその組織を弱体化する作戦を立てる。目的も作戦内容も知らされないまま強引に捜査に加えられたケイトは、非合法な捜査を繰り返す彼らを非難、FBIの上司に報告するが、「私よりももっと上で決められていることだ」と、政府上層部からの作戦であることを知る。

ハードでシビアでリアルな24。

9.5

いやぁ…これはすごい映画でしたねぇ…。麻薬捜査の最前線に放り込まれたFBI捜査官が見た、“正義のため”の血なまぐさいリアルな戦いを描いた力作。

“正義のため”と書きましたが、その通りいわゆるカッコつきの正義と言いますか、やっていること自体は非合法な捜査が多く、囮も射殺もお構いなしというとてもハードなもの。リアルな「殺しのライセンス」とでも言いましょうか。

「ちゃんと手続きを踏んで逮捕して」とか甘っちょろいこと言ってたら何も成し得ないんだよお嬢さん、といったハードでボイルドな男たちの戦いを、優秀な捜査官(であるはず)のエミリー・ブラント演じるケイトの目から眺め、現実とはいかに過酷なものなのか、そんな無情なリアルを叩きつけてくれる映画です。

ケイトは元々誘拐事件の現場捜査を専門とするFBI捜査官だったんですが、ある日突入した誘拐犯のアジトで多数の被害者たちのむごたらしい死体を目にします。しかしこの事件の黒幕はもっと上にいる「麻薬組織のトップだ」ということで、こういう事件を無くすため、麻薬捜査のチームメンバーに加わることを決意する、というのがオープニング。

当然ながら、元は優秀なFBI捜査官なだけに、自分も最前線で戦い、作戦を成功に導こうと考えていたであろうケイトでしたが、実際はちゃんとした作戦の説明もなく、聞いてもいないメキシコへの突入、そして銃撃戦を経て帰還し、最後まで「お客さん」扱いにじくじたる思いを抱くわけです。

なぜ私を呼んだんだ、なぜこんな捜査が許されるのか…。自らの立ち位置と、自分の信じる正義とのギャップに戸惑い、怒りながらも「何が起こるのかを見届ける」ために最後まで同行すると決めたケイトですが…というお話です。

ズバリ書いちゃいますが、主役のエミリー・ブラントがヘッドハンティングされて麻薬捜査に加わる、その時点で「彼女が作戦のキーで大活躍するんだろうな」とか思うわけですが、実際は最後まで“役立たず”です。彼女に期待しつつも「こんな美人が最前線で大活躍とか嘘くさいよねぇ」とか思ってたら実際その通り活躍しない、という。

キーであることは間違いないんですが、彼女自身の思いとはまったく違う形で利用され、そしてずっと己の信じる正義とのギャップに苦しみ続けます。

まずこの「最後まで作戦にいる必要のない存在」であるというのがすごくよかった。厳密に言えば必要なんですが、それは…ネタバレにつながるので詳細は避けます。ただ、彼女の望む、もしくは観客の思う“必要”とは違うものなので、常に彼女は戸惑い、悩みながら戦いに身を投じていきます。その姿は観客の価値観と重なっていて、観客が「それでいいのか?」と思うような戦いを続けるマットとそのパートナー・アレハンドロ。

誰が正義なのか、何が正義なのか、大義とは何か…そういった普遍のテーマを今の時代らしい複雑な関係性を伴って、とても奥深く悩ましい現実を見事に浮き彫りにした映画と言えるでしょう。いやほんと、とても素晴らしかったです。

観ていてふと思ったのは、ある意味「24」っぽいな、という点。あのドラマも独断で非合法な手段に突き進むジャックが主人公で、その痛快さが一つの面白さになっていたわけですが、こっちはスピード感と意外性で見せきった「24」よりも、もっとハードでシビアな、よりリアリティに重きを置いた捜査を緊張感たっぷりに描いています。

現実でもこういう捜査ってあるんだろうな、と思うと…やはり平凡な感想ながら、改めて日本は平和だなと思わざるを得ません。もっと言えば、アメリカで正規のFBI捜査官として数々の現場をくぐり抜けてきたケイトでさえ、ぬるま湯につかっていたことがわかる壮絶な“作戦”。そんなのにいきなり適応するのも嘘くさい話なので、最後まで変わらないケイトの立ち位置の描き方もまた見事でした。

ケイトは観客の投影なので、ケイトに作戦の全容を明かさない=観客もどんな作戦かが最後までわかりません。なので、道中は結構「何が狙いなんだろか?」とよくわからないまま進みます。徐々にその全容が明らかになり、ケイトとともに観客もその意味を知るわけですが…。

結局最後まで、観客はケイトに感情移入し、ケイトと同じ思いでマットやアレハンドロを見続けるわけですが、そのケイトと同化させ、マットやアレハンドロはあくまで「主人公(=自分)ではない」フィルター作りのうまさに唸ります。ここまでリアルに無力感を抱かせ、そして正義と悪について考えさせられる映画も他にはないでしょう。

かなり遊びのない、ヘビーな大人向けの犯罪(捜査)映画で、ある意味では観ていてかなり疲れる映画ではあるんですが、テンポにせよ演出にせよ、あまり凄惨にせずに緊張感を引き立たせる形でものすごく良く出来ているので、この手の映画が好きな人にはめちゃくちゃオススメしたい一作です。

また言うまでもないですが、何せアメリカでは例のまさかの大統領選があっただけに、メキシコ国境の持つ意味合いの重要性が増してきていることもあって、より色々と迫るもの、考えさせられるものがあることは間違いなく、時代的にもかなりホットな映画と言えるでしょう。

観るならなるはや! だぜ!

このシーンがイイ!

ネタバレ的に差し障りのないところで言えば、メキシコに入ってすぐ、吊るされた死体が何体か出て来るシーン。あれはもう説得力ありすぎて…いいシーンですね。国境を越えればもう違う世界なんだぞ、という。

ココが○

原題はスペイン語で「殺し屋」という意味だそうですが、この映画は珍しく、邦題のほうが良いタイトルだと思います。

ボーダーライン。「国境」という意味ですが、もちろんそのままの意味に加え、ポスターのコピーにあるように「善悪」の境目、という意味もあるし、その他にも含まれているであろう“ボーダー”の意味がありました。色々な含意のあるタイトルとして、ものすごく良いタイトルだと思います。

あとは空撮を多用した“戦争感”を増幅する映像だったり、控えめながら不安を煽る劇伴だったり、色々と素晴らしかったです。

ココが×

上に書いた通り、ケイトに情報を知らせない=観客もよくわからない、という状況で作戦が進むので、狙いが何なのかがわかりづらく、「この後どうなるんだろう」的な、その後の展開に対する興味を少し持ちにくい面はあると思います。それ故観ていて不安だし、その不安が心地よくもあるんですが、同時にちょっとしたストレスにもなるかな、と。ただこれはこの映画で描きたいことを考えれば、とても真っ当な作り方だとは思います。あくまで「事前情報なしに映画を観る立場」として、少しストレスになる部分かな、ということで。

あとはまあ…仕方ないんですが、ケイトがいい感じになる相手役の人がちょっと…雑魚感すごかったのがうーん…。いや、彼には申し訳ないんですが。でもなんか…もうちょっといい男を充てて欲しい。

MVA

主演は3人、エミリー・ブラントとジョシュ・ブローリンとベニチオ・デル・トロ。

この前も書いた通り、エミリー・ブラントは個人的にとても好きで、しかしちょくちょく化粧が濃くなりがちなのを残念に思っていただけに、今回の捜査官として化粧も薄く、男世界に身を投じる女性像は美人度も増してよりグッドだったな、と思います。めっちゃかっこよかった。正義について葛藤する姿、最後まで悩みをたたえた演技はお見事だったと思います。

次にジョシュ・ブローリン。もうこの人は「常に最高」なので、まったく文句なし。底知れぬ余裕を感じさせる佇まいがまた恐ろしさすらありましたね。一番怒らせちゃいけないタイプという感じで。ただ、見せ場としてはそこまで無かったかな、と。

ということでこの二人もめっちゃ良かったんですが、最後に残ったこちらの方に。

ベニチオ・デル・トロ(アレハンドロ役)

目的も所属も不明のコロンビア人。マットの部下というよりは、協力者として作戦に参加しているという感じでしょうか。

初登場シーンでは藤村D(水曜どうでしょう)にしか見えなくてニヤニヤしてしまいましたが、しかし最後まで観ると…ううむ。今まではただのオッサンだと思っていたんですが、初めて心底カッコイイと思いました。トロ様。ジョシュと二人、とにかくオッサンがカッコイイです。この映画。

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