映画レビュー0444 『ミッドナイト・ガイズ』
この映画はすっごい劇場で観たかったんですが、公開劇場がものすごく少なかったので断念しました。
映画ファンとしてはたまらないキャスティングなんですが、ネット上の評価もあまりよろしくないようではてさてどうかなと思いつつ…。
ミッドナイト・ガイズ
一瞬一瞬が愛おしい。名優たちの生前葬。
言わずと知れた大俳優アル・パチーノに、「ディア・ハンター」の名演が忘れられないクリストファー・ウォーケン、そしてご存知、最近は最高の爺俳優として名高いアラン・アーキン。彼らがかつて一緒に悪さをしていた3人という形で集まり、中学生のような願望と下ネタで盛り上がり、一晩花を咲かせるというジジイ・クライム・コメディでございます。
アル・パチーノ演じるヴァレンタイン(ヴァル)は、かつてのボスの息子を死なせてしまったことでボスから恨みを買った上に、一人罪をかぶって28年服役。ようやく仮出所したところから物語がスタート。
今はカタギとなったクリストファー・ウォーケン演じるドクは、ヴァルと「唯一の親友」とお互い認め合う仲でありながら、「ヴァルを殺さなかったらお前も死ぬことになる」とかつてのボスに脅されている男。
そしてアラン・アーキン演じるハーシュは、これまた今はカタギとなり、老人ホームでなんとか生き長らえている状況で、彼らが姿を表すや否や「連れだしてくれ!」と脱走を懇願、中学生のような、でも男として共感せざるを得ない夢を言い出すナイス・ジジイです。
そんな3人が集まってくだらない願望を叶えようと街へ繰り出し、爺の大暴れで一晩の青春を過ごすわけですが、ヴァル自身も自分を殺すようにドクが命じられていることに感づいていて、途中で彼に正直に言うように諭し、またドクも素直に認めます。
殺す方も殺される方もタイムリミットが迫ってきていることをわかりつつ、ギリギリまで束の間の青春を楽しむ彼ら。さて、最後はどうなることやら…というお話。
まず世間的な評価があまりよろしくないのは、ラストを観ればよくわかります。ラストのカメラワークで「あー、このパターンか…そりゃイカン」と納得。
ここさえ(ベタでも)しっかり作っていてくれれば満点あったかもしれない…というぐらい、ラストを除けばすごく好きな映画でした。なのでかなり甘い評価だとわかりつつも、この映画については好きな点を語りたいぞ、と。
まず…演出上あえて強調している面もあるんでしょうが、やっぱり歳をとりましたよね…。アル・パチーノも、クリストファー・ウォーケンも。最初に「うわぁ、爺になったなぁ…」ってまず思いました。アラン・アーキンは僕が好きになった時点ですでに爺だったのでいつも通りなんですが、この二人に関しては「もう先も長くないぜ」とこの映画の役柄のように、それぞれもう終わりに向けて演技をしている気がして、もうその時点でちょっとたまらないというか…軽快なコメディっぽいセリフ回しを観ていても寂しく感じちゃうんですよね。
特にアル・パチーノ演じるヴァルは「親友に殺される運命にある」ということを悟っているために、子供っぽいようでいて達観しているし、潔いまでに一夜を楽しもうとする姿が余計にグッと来るというか…。
「俺ももうそんな映画出られないし、まあもうちょっと付き合ってくれよ」みたいな、どうしても最後の挨拶的な演技に見えてしまい、楽しいはずの場面もちょっと涙が出てきたり、まあやっぱり…映画好きとしていろいろ(自分が歳をとったことも含め)感じざるをえない、なんとも言えない映画でしたね…。
まるで花火大会のラスト10分を観ているような感覚。
今観ている花火は最高なんだけど、同時に終わりが近いことを意識してどうしても寂しさも拭えない、そんな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる映画でした。劇伴含め、演出的にもその辺を狙っていた気がします。そりゃーズルいよ、と。彼らに思い入れがあればあるほど、ズルいと言わざるをえない映画ではないでしょうか。
劇中で展開する物語は、狭い街の田舎ギャングが夜遊びしてるだけ、みたいなものでしかないんですが、そういう「俳優の終わり」みたいなものも感じ取って観ていると、映画自体の世界よりも映画の外にある世界を強く意識させられて、まあ本当になんとも言えない寂しさがあってですね。
これはきっと、名優たちの生前葬なんだな、と。
ラストからしてさしてデキの良くない映画かもしれませんが、愛すべきキャラクターたちがすごく身近に感じられるおかげで、ヒリついたサスペンス映画を観た後にみんなが仲良さそうなメイキング映像を観ているかのような、肩の力を抜いて「俺達がいたことも忘れるなよ」って言っているような気がしてですね。もういちいちたまらないんですよね。なんてこと無いシーンでも泣いちゃったりして。
「一瞬一瞬が愛おしい」というのは劇中でアル・パチーノ演じるヴァルが言うセリフなんですが、まさにそういう感じ、彼らの演技一つ一つがたまらないし、終わりを意識した男たちの友情がもういちいち刺さります。
確かに終わりはダメかもしれない。でもそこに至るまでのすべてがたまらないんですよ。これはおそらく、女性より男性の方がより強く感じることだと思います。
いくつになっても女の尻を追いかけて、中学生のようなくだらない会話をして、自分を殺すとわかっている親友と最期の時を過ごすその感じ。
随所随所に、「多分これって女の人はよくわからないんだろうな…」というなんとも言えない味わいがあって。それがまたたまらないんですよ…。そういう意味では「ファンダンゴ」とかにも近い感じなのかなぁ。
男ってほんとバカで、ほんとエロいことばっかり考えてて、いつまで経ってもガキだなーと思いますが、そこがいいんだよ! と堂々と言ってくれている感じ、大好きです。
映画が好き、彼らが好き、自分も歳をとったぜ…と思っているような人にとっては、返す返すもエンディングが残念ではあるものの、それを考慮しても観る価値があると思います。
終わりと向き合う名優たちの花火、じっくり味わいましょう。
このシーンがイイ!
名場面もたくさんあってウルウルしたのは一度や二度ではなかったんですが、一番となると…ヴァルの弔辞、かなぁ。
あと二人でスーツを新調して歩くシーンもたまらなかった。
ココが○
基本的にラスト以外は全肯定ですね。どのシーンもたまらない。
細かいポイントで言えば、悪役となるかつてのボス役がですね、あの忌まわしき「ディナーラッシュ」に出ていた人なんですよ。「あ! ディナーラッシュのあいつだ!」っていうのがまたより怒りを増幅するというかですね。悪役としてふさわしかったぞ、という超個人的な感情です。
ココが×
もうこれはラストに尽きます。
あともう一点、アラン・アーキンの出番が少なかったのがちょっと残念。
MVA
主演の3人は当然ながらどの人もたまらないわけですが、脇役陣で言えばアレックス役のアディソン・ティムリン。初めて観ましたが、すんげーかわいいし性格が良さそうな雰囲気がたまらなくて。おまけにスタイルも良さげだったし。この子はちょっと今後要注目かな、と。覚えておきたいと思います。
娼婦の面々も印象的で、オクサナ役のキャサリン・ウィニックが美人だなーと思ったわけですが、MVAとなるとやっぱりこの人でしょう。
アル・パチーノ(ヴァレンタイン役)
何から何まで良い。
いつものアル・パチーノではあるんですが、この役は本当にこの人しかできない…というかこの人でしか光らないと思います。久しぶりにたっぷり“ザ・アル・パチーノ”を観せてもらった気がして、これまた嬉しい…けどもう爺さんになったんだね、って寂しくなりました。
相方のクリストファー・ウォーケンも素晴らしく。これまた彼らしい、実直で普通の善人っぽい感じがお見事でした。
やっぱりねー、この人たちはいいよ、そりゃ…。