映画レビュー0443 『カポーティ』

今後不定期でお送りする予定の、フィリップ・シーモア・ホフマン追悼レビュー第1弾。結果的に唯一のアカデミー賞主演男優賞受賞作品になったので、一応は彼の代表作という位置づけになると思われます。

ちなみにカポーティその人については、「名前は知っているけど読んだことはない」という程度の知識しか持ちあわせておりません。

カポーティ

Capote
監督
脚本
ダン・ファターマン
音楽
公開
2005年9月30日 アメリカ
上映時間
114分
製作国
アメリカ
視聴環境
TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

カポーティ

すでに著名な作家としての名声を得ていたカポーティ。ある日、一家4人が惨殺されるという事件を知った彼は、この事件に興味を抱き、ノンフィクションの小説にしようと考える。やがて彼は、取材を進めていくうちに死刑囚の一人と徐々に親しくなっていくのだが…。

闇の描写が絶妙。

8.0

個人的に、いわゆる伝記映画の類は「良い映画」なんだけど面白いかと言われれば微妙、というイメージが強いんですが、この映画はどちらかと言うとサスペンス寄りの人間ドラマという感じで、あまりそういうイメージに合わない、単純に映画として味わい深い面白い映画だったなーと思います。

ちなみに助手であり幼なじみでもあるペリー・スミスという人は、例の「アラバマ物語」の作者さんでもあるらしく、こんなところでつながりがあるのかー、とびっくりした次第。豆知識終了。

まあ、実際この映画が「伝記映画」かというとそれもちょっと違うんですけどね。カポーティの一生や半生を描いたという内容ではなく、あくまで一作品である「冷血」を書いていた時期を追った内容なんですが、この「冷血」が実に映画のテーマにふさわしいというか…。

テーマとなる事件自体がセンセーショナルということもありますが、結局、カポーティは(まだ若かったにも関わらず)この「冷血」以降、長編を一作も書き上げることなく没落していったという事実があり、それがなぜだったのかをこの事件から解明していくことで、彼がこの事件から受けた影響、彼自身の生い立ちとの共鳴などなど人間性に迫る内容になっていて、単純に「ノンフィクションを取材して一作書き上げました」というような話ではない、「開けてはいけない扉を開けてしまった男の物語」というようなニュアンスがあって、その雰囲気、ある種人間の深淵に迫るストーリーには唸らざるを得ませんでした。

有名な言葉ですが、「闇を覗くものはまた、闇からも覗かれている」的な内容と言えばいいでしょうか。そういった意味では非常に重い内容ではあるんですが、ただ(常に緊張感は持たせつつも)えげつない描写やインパクト重視のカットに頼る作りではないので、内容の割に観やすいというのがものすごく素晴らしいと思います。

あえて書きますが、「ブラック・スワン」的手法の真逆と言っていいでしょう。

わざわざ衝撃的なものを観せて単純に訴える方法ではなく、登場人物の会話や心理状態から観客に想像させることで闇を見せる、伝える作り。なんでも監督のベネット・ミラーは劇場長編映画初監督だったそうですが、初めてでここまでの見せ方が出来るのはすごいの一言。ちなみにベネット・ミラー監督が次に撮ったのが例の「マネーボール」。

だいぶ寡作な監督さんのようですが、一気に「個人的に気になる監督」の一人に名乗り出ましたね。ものすごくセンスがあると思います。

内容的に当然と言えば当然ですが美男美女の類は出て来ず、渋いオッサンに渋いオバサン、そして妙なしゃべり方のフィリップ・シーモア・ホフマンという、内容も相まってなんともライトファンお断りな映画ですが、その分、映画好きには良さがわかるなかなか深い映画ではないかと思います。

正直なところ、伝記映画に対する期待感の薄さもあってではありますが、「一応フィリップ・シーモア・ホフマンの代表作だから観ておくか」程度にしか思っていなかっただけに、想像以上によく出来た映画で驚きました。

それなりに鑑賞力を必要とする重めの映画だけに、そうそう気軽に「観ようぜ!」とは言えませんが、逆にそういう映画を観たいぞ、という時にはその要望にがっぷり四つで応えてくれる映画ではないかなと思います。

このシーンがイイ!

これは…最後の面会のところでしょうかね~。フィリップ・シーモア・ホフマン、やっぱり良い役者だよなぁと改めて思わされたシーン。

ココが○

あざとさがない、ある意味では静かな展開が続くんですが、緊張感を持たせる劇伴がすごく良くてですね。音楽と間の使い方で飽きさせない、力を感じる映画なのがいいなと。

ココが×

結構人を選ぶ映画ではあると思います。アクション映画が一番好きだぜ! みたいな人にはとんと良さがわからないかもしれません。

MVA

役者陣がねー。さすが地味(?)目なだけあって、実力派揃い。どの人も素晴らしかったです。

お目当てのフィリップ・シーモア・ホフマンに関しては、当然アカデミー賞を受賞しただけあって素晴らしかったわけですが、個人的にはこういうメインを張る映画よりも印象的な脇役で作品の質をググっと高めてくれるような役柄の方が好きです。

そんなわけで彼はひじょーに良かったんですが、そのままでもツマラン、ということでコチラの方にします。

クリフトン・コリンズ・Jr(ペリー・スミス役)

カポーティが親しくなる死刑囚。

気弱そうにも見えるし、いい人そうにも見えるんだけど…っていう。

なんだかんだ言って、フィリップ・シーモア・ホフマンのお相手としてきっちり演じきれるのはやっぱりそれなりに能力がないと無理だと思うんですが、この人だったりキャサリン・キーナーだったり、きちんと相手を務められているというのが良くてですね。本当にキャスティングが良い映画だな、と。

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