映画レビュー0977 『T2 トレインスポッティング』
ネトフリ配信終了シリーズ。
以前レビューした通り、前作はまったく響かなかった&数少ない嫌いな監督ということでスルーしても良かったんですが、ただ前作の終わり方を知っているだけに公開時から「その後」は気になるよなぁと思っていたので、一応観ることにしました。
いつものことですが、どうしても成り行き上前作のネタバレに触れざるを得ません。これから前作を観ようと思っている方はご注意ください。
T2 トレインスポッティング
アーヴィン・ウェルシュ
2017年1月27日 イギリス
117分
イギリス
Netflix(PS4・TV)
おっさんになっても変わらなかったり、変わらざるを得なかったり。
- 前作からリアルと同じ年月が経ったイギリスが舞台
- 20年ぶりに故郷に戻ったマーク、かつての友人たちと再会するが…
- さすがに良いお歳なだけに前作よりも機微があって良い
- それでも鼻につく演出はやっぱり嫌い
あらすじ
ということで前作からリアル20年後に作られた、「(劇中でも)20年後の彼ら」を描いた続編。
前作は本当に面白さがさっぱりわからない映画で、なんでこんなに有名なタイトルなのかまったく理解できないぐらいにピンと来なかったんですが、それに比べると今作は(登場人物たちが自分自身の年齢と同世代ということもあって)だいぶ心情に寄り添える感覚があり、思っていた以上に面白くてよかったです。いやホント。
煽る気もなく、本当に前作はまっっっったく、何一つどこが良いのかさっぱりわからない映画だったんですが、今作は当然前作ありきなだけに少しだけ前作の鑑賞が報われたような、そんな気分。
主人公はご存知ユアン・マクレガー演じるマーク・レントン。前作ラストでドラッグの取引で得た売上金1万6千ポンドを持ち逃げした彼はその後オランダで暮らしていたんですが…いろいろあって故郷へ舞い戻ります。
当然ながら彼を恨んでいるかつての仲間たち。しかしそれぞれと再会し、怒りをぶちまけられつつも再び友情を取り戻しつつあったんですが、“あの”ベグビーは一人収監されたままだったこともあって未だ恨みを忘れていませんよと。
しかも彼はついに脱走に成功し、さらにマークが戻ってきたことを知り「殺してやる」と息巻いておりまして…まああとは観てくださいまし。
楽しいけど悲しい日常がなんとも言えず良い
しかし振り返ってみて改めて思ったんですが、レントンが持ち逃げした金額ってこの程度なんですね。
ちなみに前作イギリス公開当時のポンド・円のレートを調べたところ、1ポンド約160円なので…たかだか250万円強ですよ。いやそりゃ大金ですが…友達は失うし故郷には戻れないしそもそも犯罪だし、「すべてを捨てる」諸々のリスクを考えると結構微妙な金額だったんじゃないかなと。
とは言え彼にとっては「ここから出る、やり直す」軍資金としての意味合いが強かったんだろうし、そういう意味では友情を破綻させてでも取る価値のあるお金だったのは間違いないところでしょう。だからこその前作エンディングの笑顔なわけですね。
そんなリスクを負ってまで大金を手にしたはいいものの、やはりというか…あまりうまく行っていなかったようで、結局は故郷に戻ってきてしまうわけです。
その理由は特に言明されていないんですが、やはり別の世界(オランダ)でもうまく行かなかったし、かつての楽しかった頃を思い出して元に戻りたい気持ちと、ずっと後ろめたく思っていた裏切りの精算をしたい(ただし絶対会えばタダでは済まないであろうベグビーを除く)気持ちとがあって、「もしかしたら許してくれるんじゃないか、またやり直せるんじゃないか」と希望を持ちつつ帰ってきたんでしょうか。おそらく。
案の定、スパッドとサイモンには怒りをぶちまけられるんですがなんだかんだかつての友情を取り戻し、“楽しかった昔”のような状況に戻りつつあるんですが、そこに時限爆弾のように彼に迫る男がいるわけですよ。そう、ベグビーさんですワイコー。
しかしレントンは彼が脱走したことを知る由もなく、のほほんとかつての関係性を取り戻す日々を過ごしてはいるんですが、そこに現在サイモンが惚れている若い女子・ベロニカの存在もあったりして、まあなんというか…「男って良い意味でも悪い意味でも変わらないよね」みたいなかわいい悲しみを感じさせる物語でした。
そこが良かったんですけどね。どこか「昔のようにはいかないこともわかってるんだけど変われない男の悲しみ」を感じさせてくれて。成長しねーな感もまた男にありがちな共感を感じられ、そこも良かったですね。
前作を観ているのであれば観て損はないかも
当然書けないこの映画の“オチ”については、実は僕は(ボンクラ故)まったく予想していない展開だったので結構してやられた感もあり、「あの映画の続編」にしては思いの外楽しめました。
やっぱりところどころ「どうだかっこいいだろ?」とダニー・ボイルのドヤ顔が透けて見える演出が鼻につくことこの上ないので、やっぱり監督は嫌いだわーと思いつつ観ていましたが、しかし内容についてはなかなか悪くなかったんじゃないかなと。
正直こういう「長い時間を経ての復活」はどうしてもズルい面があるとも思うし、間違いなく前作あってこその映画(観ていなくてもそこまで問題はないと思いますが、物語自体が前作ありきなので単体映画としてどうなのかは微妙なところ)なので、ある意味それなりに面白く感じられて当然ではあるんですよね。
同じ人たちが同じ役を演じている以上当然歳を取ってるわけだし、それ故前作を思い出すノスタルジックな感情によって評価が上乗せされるのもまた当然で、初作(前作)よりも外しようがないズルい映画なんですが…まあ受け入れられない可能性も考えれば続編を作るのも大変だろうし、オリジナルキャストのまま続編が作れて良かったねと。
僕はなんせくどいようですが前作はからっきしだったので、これのために前作も観ろよとは言おうとも思いませんが、しかし前作を観ているのであればついでにこっちも観ておいて良いんじゃないかなと思います。
やっぱり若くて先の心配がいらない連中がラリってるだけの映画よりかは、それなりに歳を取って「考えなければいけない」ことが増えた連中を描いた方が深みは増すのは当然、ってことなんでしょう。
自分も歳を取っちゃったもんだな…と少し嫌な気持ちになりつつも、でもまだ捨てたもんじゃないのかもしれないとちょっとだけ励まされたような気もします。
このシーンがイイ!
レントンがスパッド連れて走ってるシーンがなんか良いなと思いましたね。健康的だな、って。
なんてことないシーンですが、ただもう運動しないと衰える一方なんだよお前たちは、っていうね…年齢的なものをしみじみ感じましたね…。
ココが○
前作が前作だったので、素直に楽しめたのが何より嬉しかった。
ココが×
とは言えやっぱりところどころ感じるダニー・ボイル節はやっぱり好きじゃない。
それとケリー・マクドナルドね! マジで「前作出てたからサービスで出してやるよ」と言わんばかりのチョイ役っぷり&無理矢理な絡ませ方。予告編に出てきたのがほぼすべてっていう。だったら出さなくていいよ。
MVA
はてさて皆さんそれぞれ良かったと思いますが、今回はこの人にしようかなー。
アンジェラ・ネディヤルコーヴァ(ベロニカ役)
サイモンが惚れている女子。かわいい。かなり広瀬すずっぽい。
彼女は一応今作のヒロインで、でも大したポジショニングでもない…ように見えて結構各人の間で重要な人物として立ち回る感じがすごく良かったですね。ちょっとファム・ファタール感もあって。
ブルガリアの女優さんでこれ以外にあんまり日本で観られる映画はなさそうですが、もうちょっと観てみたい気がします。何か良い映画出てくれないかなぁ。
それとやっぱりロバート・カーライルですよ。怖い怖い。こんなやつ絶対関わりたくないわ。
前作でも書いたと思いますが、僕にとっての彼は「フル・モンティ」の弱気なお父さんなので…やっぱり印象の違いがすごいなーと改めて。この人ももっと見たいんだけどあんまり出てこないんですねぇ。