映画レビュー0231 『チャイナ・シンドローム』

ここまで、GW中鑑賞。どんだけ暇だったんだ、っていうのがよくわかります。

さて、本日の作品。ゴルゴ13でも屈指の名作と言える「2万5千年の荒野」という作品があるんですが、それが1984年のもの。その5年前に作られた映画で、去年の福島第一原発事故の後ににわかに話題になっていたので、観てみたいなぁと思ってたところにちょうどBSで放送してました。

観て思いましたが、この映画を流したというだけでもBSプレミアムは結構がんばってるなぁと思いましたねぇ。

チャイナ・シンドローム

The China Syndrome
監督
ジェームズ・ブリッジス
脚本
マイク・グレイ
T・S・クック
ジェームズ・ブリッジス
音楽
スティーヴン・ビショップ
公開
1979年3月16日 アメリカ
上映時間
122分
製作国
アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

チャイナ・シンドローム

とあるニュースの取材チームが原発内部で特番の撮影をしている最中、原発内でトラブルが発生し、従業員が慌ただしい動きを見せる。撮影禁止と言われているにもかかわらず、カメラマンのリチャードは隠し撮りを敢行。スクープとして放送しようとしたが、原発サイドは「事故などなかった」と言い張り…。

古さゼロ。他人事じゃない怖さ。

9.0

もう本当に、さすがに去年のあの事故を経験した後だけに、ぜんっぜんフィクションとして観られない怖さ。

それはこの映画がよくできている証左でもあると思いますが、まさか30年以上前の映画にここまでのリアリティがあるとは…。すごいなぁと感心すると同時に、これは悲しいことでもあるな、と。

まず概要。

福島第一原発事故のおかげで「チャイナ・シンドローム」という言葉も田代的なミニにタコ、じゃなくて耳にタコな人もいるでしょうが、これは「炉心溶融で核燃料が溶け出し、高熱の燃料はそのまま格納容器を突き破って地面を掘り進み、やがて(アメリカから見て)地球の反対側の中国にまで達する」という意味で、原発事故の強烈な過酷さを表した言葉ですが、実際劇中ではそこまでの過酷事故は無く、福島第一原発事故と比べれば全然規模の小さい事故がスタートになります。

なので、人によってはタイトル的に「ちょっと大げさ」とか「肩透かし」みたいなことを言ってる人もいるみたいですね。(ただしこれは後でネタバレに書きますが…“肩透かし”ではないと僕は思います)

実際、物語のスタートとなる事故は「内部でもみ消し」出来る程度のもので、その撮影したテープを表に出したいメディア側と、出されたら困る“原子力ムラ”のせめぎ合いが映画の主軸になってくるわけですが、メディアが中心に来る映画のご多分にもれず、「敵は外だけではない」というのもきちんと描かれています。さすがに日本のように、露骨に「大スポンサー様の意向に背くことはできない」なんて感じではないんですが、でも(少しではあるものの)外部からの圧力が見て取れるシーンもあり、この辺からしてなかなかリアル。

メディア×サスペンス、という時点でかなり個人的大好物感が漂っているので、もう原発云々抜きにしてもきちんとできていれば評価できる映画だな、と思うわけですが、でもやっぱり何と言ってもこの映画は原発という半ばタブー視されているテーマに挑んだ点に尽きるでしょう。しかもあのスリーマイル島原発事故のわずか12日前に公開されたとか。スゴイ先見性。

一応、書いておきますが、僕はおそらくフツーの世間一般の人たちと同じように、去年の福島第一原発事故まではいわゆる「安全神話」を疑いもせず、そして去年の事故以来、脱原発を願うようになった一人ですが、その「安全神話」を匂わせるセリフも結構出てきたり、「金がかかるから嘘の報告でもいいんだ」みたいな質の低い安全管理が垣間見えたり、「どうせ事故なんて起こらないんだから損失が出ないようにすぐに動かせ」と利益第一主義で走る上層部が出てきたり、まー現実と瓜二つ。(この辺はゴルゴ13の話でもかなり触れられています)

そこに真面目に悩む職員が告発するべく、周りと自分がどう動くか…で一気にクライマックスまで引っ張っていくわけですが、とにかく去年から今に至るまで、日本人が見てきた現実と(職員云々は別として)相当部分でかぶってくるんですよね。それがすごく怖いし笑えない。

おまけに映画と一番違うのは、「現実のほうがひどい事故だった」「現実のほうがメディアも腐ってた」なんてブラックジョークにもなりません。

あの事故があったからこそ、今日本人がこの映画を観ると、怖くもあり、また語弊がありますが面白くもある作品だと思います。すーごくよくできてますね。本当に。

しかも現実と照らし合わせる上で結構重要なのが、この映画は1979年の作品で、劇中で「稼働から4年」というセリフが出てくるんですが、仮に今も稼働してるとすれば、この原子炉は37年目ということになります。

そう、今日本で「40年で廃炉」なんて話が出てますが、まさに今、日本にある原発もこの映画と同じ時期に作られたものなんですよね。そう思って見ると、セットではあるものの当然古いわけです。

発電所だけでなく、テレビスタジオのセットも古いし、車も古いし。ヒロイン(?)のジェーン・フォンダの見た目まで古い。何もかも古い。この時代に作られたものが「安全です」なんて言って今も動かそうとする、っていうのはやっぱりこの映画を観ちゃうと疑問に感じざるを得ないですよ。いくらメンテナンスしてたとしても当然限界もあるし、換えられない部品もあるわけで。

「ものすごい綺麗にして部品も取り替えといたから使ってよ」って37年前のドライヤーとか持って来られても怖いでしょう。使ったらアフロになるんじゃねーか、と。ドライヤーならまだしも、原子炉なんて中に入ってるのは制御できない物質ですからねぇ…。現実的に考えると、いかに今の再稼働路線が恐ろしいことか、そういう部分にも気付かせてくれる映画です。

ただ、映画としてどうこうを考えると、その原発云々を抜きにすればそこまで評価はしなかったような気もします。それを一歩引き上げたのは、エンディング。ただこれはネタバレになるので、詳細は下に書きたいと思います。

それにしても、もうほんと今のクソ政権の面々は一回この映画観たほうがいいんじゃないですかね?

ネタバレ・シンドローム

この映画のエンディングは、放送の司令室とも言うべき副調整室(サブ)で迎えます。中継が一段落して、ニュース番組の本編はCMに。右の本放送画面ではCM、左のスイッチングで切り替えられる中継映像では原発敷地内でのさっきまでの中継映像の続きが流れています。

すると突如、左の原発中継映像がカラーバーに切り替わり、やがてそのカラーバーだけの画面になって終了、エンドロール、という流れでこの映画は幕を閉じます。

「チャイナ・シンドロームってタイトルだけど全然そんな事故じゃないじゃん」と言う他の方のレビューも読んだんですが、これはそうではなくて、このエンディングは確実にチャイナ・シンドロームを表現しているものでしょう。

ゴデルが立てこもってSWATに殺害された時、同時に原発で何らかのトラブルが発生し、収束した…となっていますが、実際内部にいた人たちが気付いていない、配管が切断されたりという重大なトラブルが起きています。

普通に観ていれば「あれなんだったんだよ」となるでしょうが、(強い)放射能が映像を遮断する、というのはよく聞く話。

そう、あれは結局「チャイナ・シンドロームとなるほどの大爆発事故が起こって中継映像が(放射能の影響で)途切れた」という意味に解釈するのが妥当ではないでしょうか。

ホンのちょっと某民放の報道局に身を置いたことがある経験から考えても、あの段階で意図的に現場からの中継映像を切る、ってことはまず無いですよ。何か動きがあるかもしれないし。普通だったらオンエアに載せるか否かは別として、回線だけは生かしておくのが当然でしょう。それが、カラーバーになった。ということは…。

何よりも、その後のエンドロール。音が一切ないんですよね。音楽なし。少なくとも僕が観た中で、エンドロールで音がない映画というのはあまり記憶にありません。

これはきっと、「無になりましたよ」というメッセージなんじゃないか、と。

そう思うとそのエンドロールの怖いこと怖いこと。

早い話が「みんな死にました」とも取れるわけです。テレビ局にいる人たちは別にしても、現場にいる大量の人たちは確実に…。

そう解釈すると、この後味の壮絶さは…すごい映画だな、と。その説得力を持たせてしまうほどの破壊力を持っている原発がテーマである、というのもこのエンディングをより壮絶な印象にさせてくれます。

いやー、すごい映画だ。

このシーンがイイ!

セリフだけ取れば、ものすごく現実とオーバーラップするものがかなりあって、それも全部すごいなーと感じましたが、一番圧巻だったのはやっぱりエンディング。

ココが○

リアリティに尽きるでしょうねぇ…。「今観ても古くない」なんて山ほど言ってきてますが、これほどそれが似合う映画もないでしょう。

ただ、映画にとってはスゴイことでも、現実としては悲しいことなのが…。

ココが×

特にナシ。テンポもいいし、緊張感も程々にありました。

MVA

若き日のマイケル・ダグラスが出てましたねぇ。彼もなかなか味がありましたが、今回はこの人。

ジャック・レモン(ジャック・ゴデル役)

真面目な原子力技師。ただ真面目であるが故に…というお話。

コメディの雰囲気は封印して渋さ満点のジャック・レモン。味のあるいいオッサン役でした。切羽詰まった演技もなかなか良かった。

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